practice2~練習2~ 2
practice2~2章~
「なっちゃんは
「そ、そうなの? じゃあ、まさか……優にも……」
「
あっさりとした口調ながら、雛の
言われてみれば、と夏樹の
優は他人を優先するクセがあり、しかも本人にとってはそれが自然な状態らしい。
家の外でも中でも、「お兄ちゃん」が抜けないのだろう。一見、ガキ大将タイプの春輝のほうがよほど兄っぽいのだが、部活でも実際に
その場の空気には
(私も「お姉ちゃん」だから、
考えをめぐらせていると、横顔に注がれる視線に気がつく。
ちらりと見れば、息をひそめ、じっと様子をうかがっている雛と目があった。あれこれ言ったはいいが、夏樹の反応が気になったのだろう。
「……雛ちゃん、ずいぶんオトナっぽいこと言うんだね」
「でしょー? もう高校生だもん!」
「もう! 雛ちゃん、かわいーい!」
「なっちゃん、くすぐったいよ~」
はしゃいだ声が部屋に
そんなことができるのは、たった一人しかいない。
「何やってんだよ、他人の部屋で……」
部屋の持ち主である優が、あきれた顔で
「お兄ちゃん! おかえりー」
雛にならい、夏樹もひらひらと手をふる。
「おかえりー。って、おっそーい! どこ行ってたの?」
「どこでもいいだろー」
フローリングに座りこむ二人を器用に
その手には、一駅
(おばさん、優も夏期講習受けるみたいだって言ってたもんね)
まだ高一の夏樹の弟が合宿に参加すると
「せっかくの休日なのに、ウチに入り
いまさらな質問に、夏樹は「んん?」と首を
「だって優は特別。それに、いつものことじゃん」
「……あっそ」
自分で聞いておいて照れたのか、優が口をもごもごとさせる。
心なしか横顔も赤く見えるが、外から帰ってきたばかりだからかもしれない。下手に指摘するのもためらわれて、夏樹はあいまいに笑い返した。
「で、今日は何しに来たんだ?」
くるりとふりかえった優が、
「勉強教えてもらおうと思って」
へらっと笑う夏樹に、優と雛が意外そうに声をそろえた。
「ゲームじゃないんだ」
「ゲームじゃなかったっけ?」
「
それじゃあ、私がいつもゲームしかしてないみたいじゃん!
よくよく思い返してみると、優の部屋に入り浸っている時間の半分は、筆記用具ではなくコントローラーをにぎっていたような気もする。
(こうなったら、ブツを見せるしか……!)
夏樹はすっかり存在を忘れ放置していた数学のプリントを
「ほら、これ! 一問しか解けてないでしょ?」
「
夏樹が筆記用具を
「お
(わっ! そんな言い方したら、さすがの優も変に思うよね……?)
おずおずと優を見やると、予想を裏切り満面の笑みが飛びこんできた。
「おまえも
「……お兄ちゃん、そんな調子じゃ一生苦労するよ」
「はっ? なんの予言だよ?」
お邪魔虫の意味が違うとは言えず、夏樹は
一時間ほどで、ラスト一問を残すのみとなった。
てっきり夕方まで
(
専門学校への進学を希望している夏樹もそれなりに勉強しているが、あくまでも
優も同じような理由で、公立を目指していると言っていた。
私立か公立か、雛の
(ちょっと前までは、そんな話したことも考えたこともなかったのにな)
それでも
優に告白した
「……そういえば、月曜の話って聞いてるか?」
夏樹の集中力が
「月曜って、映画研究部に顔出してほしいってやつだよね? 美桜から、メール回ってきたよ。なんか、新作で使う絵を
改めて声に出したところで、夏樹は気分が急降下していくのを感じた。
春輝の映画は夏樹も好きだし、これまでも小道具の手伝いなど買って出てきた。
だが今回は、これまでとは求められることが
「……ミーティング、私も参加したほうがいいのかな」
「なんで? 都合が悪い?」
「そういうんじゃなくて……。春輝たちがほしいのは、映画の
作品のために、と力をこめる夏樹だったが、優は
「たしかに早坂と合田の作品はすごいと思うけど、別に俺たちは専門家じゃないし、技術がどうのとか美術的価値とかわからないからさ。ただ単純に、ヒロインのイメージにぴったりの一枚がほしいんだよ」
落ち着いた口調なのに、優の言葉はぐいぐいと
夏樹は何も言えなくなり、「そっか……」とつぶやくので
「それに俺、夏樹の絵が好きだし」
「……え?」
「人物を描かせたら表情が豊かだし、風景を描かせたらキラキラしてるし? なんかそういうの、いいなーって思うんだよな。元気がもらえるっていうか」
「……お、お世辞を言っても、何も出てこないからね」
「照れるな、照れるな。いまさらおまえに、お世辞なんか言わないってのー」
そうでもしないと、なんだか泣きそうだったからだ。
(優は
いつだって夏樹に自信を持たせてくれるのは、優の言葉だった。
夏樹自身すら気づいていないような、いいところを見ていてくれる。そして、きちんと言葉にしてほめてくれるのだ。
「マンガも描いてるんだろ? 雛だけじゃなくて、俺にも読ませてよ」
ありがとうと言おうとした矢先、優から
夏樹は
(絵を認めてもらえるのはうれしいけど、さすがにマンガは……)
プロになりたいなら、どんどん周りに見せたほうがいい。
ネットで知り合った友人たちに教わった夏樹は、勇気をふりしぼって雛や美桜、あかりたちに見せてきた。時に厳しい感想をもらいながら、へこたれずに作品に反映してきたつもりだ。
とはいえ、優に見せるとなると話は違ってくる。
描いているのが少女マンガということもあるが、ヒーローが明らかに〝
「……考えておく」
なんとか返事をしぼりだすと、優は「なるべく早めにお願いします」と笑って流した。
さすが、空気を読める男は
(こういうところは察しがいいのになぁ……)
お兄ちゃんの顔をして笑う優を
「ねえ。もし、私に彼氏ができたら……どうする?」
「また
「さあ?」
わざとらしくニコーッと笑いかけると、優はやれやれと言わんばかりに息をつく。
「どうするって……そりゃー練習相手としては、
「……っ」
そう思うのに、夏樹はショックでうまく呼吸ができなくなる。
何も反応を返さない夏樹をどう思ったのか、優は無言で参考書を読みはじめた。
『なっちゃんになら、お兄ちゃん
雛の言葉がよみがえり、夏樹は心の中で返事をする。
私には無理みたい、と。
それでもあきらめることはできなくて、もうこちらを見ていない優に話しかける。
「ありがとう。優が応援してくれるなら、心強い」
タイミングを
「……がんばれよ」
参考書に目を落としながらも、優の表情はやさしい。
「うん!」
夏樹は痛みを
※カクヨム連載版はここまでです。お読みいただきありがとうございました。
続きは本編でお楽しみください。
告白予行練習/原案・HoneyWorks、著・藤谷燈子 角川ビーンズ文庫 @beans
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