practice1~練習1~ 2
放課後を告げるチャイムを聞きながら、夏樹は盛大にあくびをもらす。
(やばいなぁ……。数学の時間、
昨夜は早々にベッドに入ったが、夜中に何度も目が覚めてしまった。
おまけに、朝も昼も食事がのどを通らない。
(まるで
予行練習とはいえ、昨日はついに、告白したのだから。
しかも相手は、長く片想いをしてきた幼なじみ。自分で思っていた以上に、ずっと
(
優とは家も近いし、教室での席も近い。というか、目の前だ。
授業中にプリントのやりとりをするときは、必ず顔をあわせることになる。爆睡中に先生に当てられそうになったら、それとなく起こしてあげることもできる
(……そういえば、今日は優もよく
めずらしく
「優ー、部室に直行する?」
昼休みも、放課後も、優の席にはいつも人が集まってくる。
いまも、もちたこと
優と春輝、蒼太、そして夏樹の四人は幼なじみという名のくされ
とくに男子たちは高校に入ってからも三人で映画研究部を立ち上げ、昔と変わらない
「俺は職員室寄ってくから、春輝と先に行ってて」
「夏期
優の言葉に春輝は歯を見せ、真夏の太陽のように笑う。
「だね。そういうわけだから、しゅっぱーつ!」
蒼太も
二人にひきずられるようにして、優は教室を出ていった。
そんな後ろ姿を見送りながら、夏樹は思わず「いいなぁ」とつぶやく。
「男子の友情もいいけど、女子だって負けてないぞー?」
トントンと
「なっちゃん、私たちも部室に行こう?」
続いて、
「あかり、
ふりかえると、にこにこと
二人とは単に話があうだけでなく、お互いに支えあえる仲だと夏樹は思っている。
(わざわざ呼びに来てくれたのも、私が朝からぼんやりしてたからだよね……)
ありがとうと告げる代わりに、夏樹は思いきり口角をあげる。
「うん! えりちゃん先生、もう美術室にいるかな?
「先生、『今年こそ金賞を
「すごーい、美桜ちゃん似てるー」
バタバタと足音を立てながら、三人そろって
どことなく
桜丘高校の美術部といえば、設立以来、賞を獲らなかった年がないといわれている。
けれど、部活はスパルタとはほど遠い。
中でも、部長のあかりと副部長の美桜は、才能をおしみなく発揮している。
前任の部長、副部長が次代を選ぶことになっているが、
一方で、もともと絵画や
そちらのタイプは自宅で作業することが多く、
夏樹は、出席率は高いが、立場的にはどっちつかずかもしれない。
マンガを描くことも、大きなキャンバスに向かうのも好きだった。
それぞれ
(どっちも好きだから、どっちもやりたい。それでいいと思ってたけど……)
正直にいえば、最近は部活内での自分の立ち位置に
自分はあかりや美桜とは違う。結局は
美術室には、一年生と二年生が数名いるだけだった。
黒板の
「残念、先生いないんだ……。色みの相談がしたかったんだけどな」
「美桜ちゃん、いよいよ
イーゼルに
「今回は五十号にしちゃったから、まだまだ描きこみ不足だよ。あかりちゃんは……」
絵の具を用意する手を止め、美桜があかりの手元を見やる。そこには昨日と同じく、スケッチブックと
あかりは肩をすくめ、「えへへ」と苦笑いする。
「それがね、まだアイデアが降りてこないんだぁ」
「あかりちゃんはスイッチが入ったら早いから、
(……私も、二人みたいに才能があったらな)
夏樹は机に
自分自身もコンクールに出品するのに、キャンバスはおろかスケッチブックもまっさらだ。
コツコツ型の美桜はもとより、アイデア待ちだと言っているあかりも、スケッチブックにはおびただしい数のラフが描かれていることを知っている。
本当の意味で、何も形にできていないのは夏樹だけなのだ。
「そういえば……。なっちゃん、昨日、瀬戸口君に言えた?」
ふいにあかりに呼びかけられ、夏樹は小さく肩を揺らした。
「あ。実は私も気になってた。でも、教室で聞けるような話じゃないなって思って」
「好きな人と同じクラスでうれしいけど、そこが不便だー」
こうもきっぱりと「好きな人」と言葉にされると、急にはずかしくなってくる。
夏樹は顔に熱が集まるのを感じたが、昨日のやりとりが思いだされて一気に頭が冷えた。
「はああ~……。それが聞いてくださいよー」
「なんだね、言ってみたまえ」
夏樹の
深刻ぶらずに済んだことにホッとし、夏樹は明るい調子で
告白はできたけれど、あくまでも予行練習だと言ってしまったこと。
その言葉を信じた優は、これからも練習につきあってくれること。
話を聞き終えた美桜とあかりは、仲良くそろって口をあんぐりと開けていた。
「……告白予行練習って、また思い切ったことしたんだね」
短めの
夏樹はあいまいに笑い返しながら言う。
「そのまま帰りに、駅前のラーメン食べに行ったんだー。おいしかったなあ」
駅前のラーメンという単語に、あかりがぴくりと反応した。
机に身を乗り出し、「もしかして新しくできたところ?」と目を光らせる。
「あそこ当たりなんだ、よかったね!」
「私のおごりだったけどね。って、ダメじゃーん!」
自主ツッコミし、頭を
「たしかに、毎回おごるとなると大変だよね」
「あかりちゃん、問題はそこじゃないと思うの……」
しっかり者らしい冷静な美桜の
コホンと
「告白予行練習したのは、女子って
すぐにいたたまれなくなり、最後はほとんど
イスから立ち上がり「ぬあああ」と
「大丈夫だよ。なっちゃん、
「フォローになってるようで、なってなーい!」
「とりあえず落ち着こう? ほら、足閉じて」
ガニ
(女の子の手だなぁ……)
見た目だけでなく、中身も女子なのが美桜だ。スカート姿だということを忘れて動き回る夏樹に、下にジャージをはくよう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます