practice 1
practice1~練習1~ 1
きっかけは、一通の手紙だった。
幼なじみである
『受験もあるし、フツーに断ったよ』
だがすぐに、心臓が暴れだした。なんでもないような素ぶりを見せる幼なじみの
(てっきり、優は
のみこんだ言葉は、放課後になっても夏樹の胸のあたりに
ゲームやマンガ、部活に夢中だから。いままで恋バナなんてしたことがなかったから。そんな理由で、勝手に決めつけていただけなのだと思い知らされた。
今回は断ったけれど、次はわからない。
そう思った
(……今日こそ、告白するんだ!)
深呼吸をひとつして、夏樹は優の背中を見上げる。
下校時刻三十分前という
優と同じ映画研究部の部員で、共通の幼なじみでもある
(……やばい、口から心臓が出そう……)
ぎゅっとワイシャツをにぎると、
スカートからのぞくジャージの下では、足もガクガクと
(どうしよう、やっぱ
ちらりと、弱気な自分が顔をのぞかせる。
なんとか
勇気一秒。
(──
「優! ちょっといいかな?」
窓からさしこむ
ゆっくりと長身がふりかえり、不思議そうな顔の優と視線がかちあった。
「なんだよ、改まって……」
夏樹は声が震えないよう腹筋に力を入れ、ぐっと
「いきなりで、ごめんね」
息をのむ相手をまっすぐに見つめ、夏樹はもう何年もの間ためこんでいた言葉を告げる。
「ずっと前から好きでした」
言った。ついに言ってしまった。
鏡を見るまでもなく、顔に熱が集まっているのがわかる。
たまらず視線を外すと、今度は心臓の音が耳につく。さっきよりも大きくなっていて、このままでは優にも聞こえてしまうのではないかとさえ思う。
パチリ、と視線があう。
優はまだ現実味がわかないのか、
「……え?」
たった一言、それも疑問形だったけれど、
(ゆ、優が……照れてる……!?)
あの後輩女子に告白されたときより顔が赤く見えるのは、考えすぎだろうか。
予想外の反応に、夏樹も何も言えなくなってしまう。
(な、何か……何か言わないと……)
視線を泳がせ、言葉を探すが、こぼれ落ちたのは意味をなさない音だった。
「な……な……」
「な?」
まだ顔を赤くしたままの優が、不思議そうに首を
一八〇センチ近いのに、かわいらしい仕草がやけに似合っていた。
(頭、なでたいなぁ……)
ふっと
ボロが出る前にと、強引に話題をそらす。
「なーんつって! んなわけなーいじゃーん、ビックリした?」
やらかした。
(いや、でも、いまのは戦略のひとつっていうか……)
そう、恋愛も戦いだ。
だから、敵前
もっと言えば、今回の告白予行練習は
優は目を見開き、夏樹の発言を
ややあって、やわらかな
「なつき……。おまえなぁ」
あきれ半分、照れ半分といった
(よかった、
心臓が切なげな音を
「いまのはさ、告白予行練習だよ」
「はぁ? 練習?」
「ねーねー、かわいい? どきっとした?」
勢いに任せて優の顔をのぞきこむと、じとーっという視線が返ってくる。
こういうとき、何も言われないのは
「そんな顔で見ないでよ。ごめんってば」
「本気になるよ?」
「……え?」
優の一言に、今度は夏樹が言葉を失う番だった。
ドクン、ドクンと、心臓がいっそ痛いくらいに鳴り
(いまのは冗談? それとも……)
「うそだよ。仕返し」
にやっと笑ったかと思うと、優の手刀が額を目がけて飛んできた。
ズビシッと、まるでコントのように決まり、夏樹はたまらず悲鳴をあげる。
「ぎゃっ!? ちょっと優、手加減はしよーよ!」
しかし
「で、本番は
「本番? って、告白の?」
「そう。予行練習ってことは、ほかに本命がいるってことだろ」
とっさについた
予行練習だ、と言い出した自分が悪いのはわかっている。
だがそれでも、噓でも冗談でも「ほかに本命がいる」なんて言われたくはなかった。
優にだけは。
夏樹は複雑な
同時に顔には満面の笑みをのせ、答えを待っている優の
「そんなこと、言えるわけないでしょー」
「いってえ!」
「ねーねー、これからも練習つきあってよ」
「……仕方ねーなー。その代わり、ラーメンおごれよ?」
「ええー、ケチ!」
「この俺を練習台にするんだから、安いもんだろー」
「うわ、自分で言っちゃう?」
お
(でも今日は……なんだか……)
(誰かを好きになるって大変なんだな。そして、本当の気持ちを伝えるのはもっと大変)
その日の夕焼けは、目にしみるほど赤かった。
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