practice1~練習1~ 3



「……そういう美桜は、春輝とどうなの?」

 親友と幼なじみがいいふんなのは、夏樹にとっても気になるところだった。

 二人はクラスも違うし、せんたく教科がかぶっているわけでもない。接点といえば、休み時間などに春輝が蒼太や優に会いに来るタイミングくらいのものだったはずだ。

(それがいまじゃ、毎日のように一緒に帰ってるっていうね)



 以前、それとなく春輝にも聞いたことがあった。

 明朗快活な彼にしてはめずらしく視線を泳がせ、はぐらかすような答えが返ってきた。

「まあ、なりゆきで?」とか。

(あのとき、これは何かあるなって直感したんだよね……)

 そもそも春輝は、めんどうがよくて兄貴はだではあるが、女子に対しては一線をひいている。つるむのは男子ばかりで、ゆいいつの例外は幼なじみの夏樹くらいのものだ。

 美桜とは話があうと言っていたけれど、きっとそれだけではないだろう。



 対する美桜も、春輝との関係を指摘され、急にそわそわと落ち着かない様子になる。

「えっ!? わ、私は、別につうだよ?」

「普通って?」

 かんはつをいれずに聞き返す夏樹に、美桜はいよいよ顔を赤く染めた。

「普通は普通っ! あかりちゃんは?」

 美桜は声を裏返しながら、こつに話題をそらす。

 飛び火したあかりは「え?」と目を丸くはしたが、すぐにほがらかな調子で言う。

「いまは私のことより、なっちゃんの告白作戦を考えないとね」

 言うが早いか、あかりはスケッチブックに鉛筆を走らせる。

〝告白作戦パート2〟の文字が見えて、夏樹は鼻の奥がつんとするのを感じた。

「あかりちゃん、ありがとう。私、あきらめずに……」



「ゆきちゃーん! 私たちも手伝うよ?」

「雑草をけばいいの?」



 夏樹の決意表明をかき消すように、開け放った窓から黄色い声が飛びこんできた。

 何事だろうと顔を見あわせ、三人そろって窓へとけ寄る。

「結構な悲鳴だったよね。まさか、芸能人? さつえい?」

 き足立った気持ちで外を見ると、だんの前に人だかりができていた。

 女子たちの輪の中心にいるのは──。



「あれって、あや君だよね? ほんと、すっかり人気者だぁー」

かみを切ってから、ずいぶん雰囲気変わったもんね」

 クラスメイトである綾瀬ゆきへんぼうに、あかりも美桜もなおおどろいている。

 だいたんにイメージを変えると注目を集めるのが普通だが、当の本人が人見知りな性格のため、なかなか話題にしづらいところがあった。同じクラスにいても彼の声を聞く機会はほとんどないのだから、当然といえば当然だろう。



(あかりも意外と初対面はダメなほうだけど、あいがいいし、笑顔を絶やさないからなぁ)

 美桜も春輝を除き、男子とはあまりしゃべるほうではなかった。夏樹が一緒にいれば、優や蒼太とも会話するが、自分から話しかけていくタイプではない。

(こゆき君、いい人なのに……。もったいなーい!)

 マンガの貸し借りをしている夏樹としては、なんとも歯がゆいじようきようだった。

 だから、ついつい彼のことを語るときは熱くなる。



「長かった前髪を切って、眼鏡をコンタクトに変えたら、実はカッコよかった! なんて、最近の少女マンガでもなかなかいないよね。こゆき君、すごいよー」

「なっちゃん、感動するのそこなんだ」

 しようする美桜に、「そういえば」とあかりが続ける。

「二人でマンガの貸し借りしてるよね。席も近いし、結構話してなかった?」

 ぽやっとしているようで、あかりは人をよく見ている。

 夏樹は感心しながら、いきなりきやつこうを浴びることになったクラスメイトののうを語りだす。

「こゆき君ってね、やさしくて、本当にいい人なんだよ。だから部活にまで押しかけられて本当は困ってるんだけど、傷つけずに断るにはどうしたらいいかなやんじゃってるみたい」



「……難しい問題だね」

 美桜は実際にあれこれ対策を考えていたようで、返事があるまでに間が空いた。

 夏樹も名案が浮かばすにまゆをさげてうなずく。

「それにしても綾瀬君、なんで急に髪を切ったんだろう? 高校生活最後の夏休みを前に、キャラ変したかったってこと?」

 天然ゆえの直球すぎるあかりの発言に、さすがの夏樹も「ははは」と笑うしかない。

 美桜だけは何か気になることがあるのか、ぼそりとつぶやいた。

「……本当に、それだけなのかな」

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