(おまけ)ピートの二つの顔

 高速巡洋艦が乗り込んできたディキンシア人でわやくちゃになっていた時。


 ジョセフ少佐はひとり奮戦していた。

「爬虫類ごときに負けるかっ!」

 銃を巨大なティラノサウルス型の頭部に向けて、撃つ。

 鋼の腕がそれを阻止した。手首の一部分が消失する。

「軍人というやつは――大局的にものが見れないんだべか。あんたの負けだよ、少佐」

 ピート、とか言うあの輸送屋のロボットだ。

「私に負けなどはない」

 少佐は銃をしまい、ビームソードを構えた。ビームと俗称されているが、その性質は宇宙船のシールドと同じものである。個人が振り回せる程度にスケールダウンしたそれは、世に存在するほとんどの固体を斬ることが可能。

「あんたみたいなのが、寝ている獅子を起こす――そうして自滅するんだ。わかってるかい?」

 ロボットの声の質が変わった。

 のんびりした、訛りの強い口調から――圧力さえ含んだ口調へ。

 手首の穴からのぞく深紅の装甲――ロボットが、ロボットを着ているのか?

「手を引いてもらうよ。ポンコツ役、案外気に入ってるんだ。悪いな」

 右の指先から圧縮空気を撃ちだしてくる。当たれば暴徒鎮圧用のゴム弾ぐらいの衝撃はある。しかも弾数は無限。

「しかし――集中していれば痛さなど!」

 フェンシングに似た鋭い突きがロボットの首を襲う。

 少佐は踏み込みの足に違和感を感じた。飛びすぎて、ビームソードは狙いのはるか上で空を斬った。

 次の刹那、圧倒的な重さで少佐は床に叩きつけられる。

「重力操作だと。もしや、お前は12体で惑星一つを滅ぼした後姿を消した史上最悪の自動兵器か――」

「会社と、ディキンシアと、に手を出すな。もし軍がちょっかい出してくるなら、俺は本気で基地ひとつひとつ潰して回るからな。憶えておけ」

 ピートはそのまま少佐の上に覆いかぶさる。

 みしっと嫌な音がして、少佐は失神した。


「おいピート、そんなとこにいたのか、何してんだよ」

「慣れない船でコケてしまいましただ。なんか人を下敷きにしてしまったような――」

「あー、ジョセフ少佐だよこの人。骨でも折れてっかな、お前重いから」

「応急手当てするだ。ギブスで固めて動けなくするだよ」

「ああ、そりゃいいな。この人に指揮させたら怪我人でそうだし」

「大方終わっただかね」

「まあな。それこそ、たいした怪我人出さなくてすんだよ。……少佐は別として」

「そりゃ、良かっただな。船に戻るべえ」

「そうだな」



            終

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