中編

 大騒ぎした食事もひと通り済んで、休憩・整備・補給を行うステーションに船を向かわせる。

 ずらりと並ぶ子供たちを見てると、修学旅行の先生にでもなった気分だ。中身はアレだとしても。

 片づけをしていたピートが、俺にピンバッジのようなものを渡した。

「今食った分の肉についてた個体別追跡信号トレーサビリティタグですだ。返却した方がいいんでねえか」

「ん……そうだな」

 俺はそいつをポケットにしまって、ステーションへの連絡をした。

「あー、ステーション68へ。ディキンシアから違法に連れてこられた子供たちを保護した。警察機構に連絡して無事に連れ帰ってもらえるようにしてほしい。本船はまだ配達業務が残っているので、見届けることは出来ないがよろしく頼む。ハッピームーン食肉会社所属輸送船FB-107より。責任者及びパイロット、アキオ・ハマグチ」

「ステーション68、了解した。保護対象は何名か」

「100人だ」

「おい、どうやってそんな人数を宇宙空間で保護したんだ。進路を外れた中型客船の航行記録はないぞ」

「宇宙にはまだ99の謎があるんだぜ。頼んだぞ」

「後で詳しく話せよ、アキオ。了解した」

 これでひと段落。その時は、そう思っていた。


「おっさん送ってってくれないのかよ」

「悪いな。仕事だ」

「なあ、おっさん」

「おっさんおっさん言うな。なんだよ」

「あのステーションに止まってるでっかい船、僕たちをさらったのと同じだぜ」

「ピート、現在駐留してる船を検索しろ」

「人類防衛機構の大型艦一隻。軍の情報部の組織だけんどあんまりいい噂は聞かないだぁね」

「ふうん。先回りしてるってことはステーションへの交信を傍受してやがったな」

「んだな。レーザー砲の照準波感知」

「やる気満々じゃねえか。丸腰の民間輸送船相手に」

「ワタシたちもそうなんだろうけど、主にあの子たちに対しての脅しだべ。逃げるな、っちゅう」

「やり口は気に食わねえが反撃できる装備もなし――」

「乗船要請、来ましただ」

 俺はピートに「許可しろ」と合図する。即座にエアロックにガツン、と接続された。

 小銃を持った二人を従え、いかにも上官然とした男が現れる。

「乗船許可を感謝します。情報部少佐ののジョセフ・マッキンリーです」

「船長のアキオ・ハマグチだ」

 俺たちは穏やかに握手を交わした。

「迷惑をおかけしました。彼らはうちで引き取ります」

「もう知ってるかもしれないが、彼らは跳べるぜ」

「ええ、承知しております」

 ジョセフ少佐は懐から銃を取り出すと、撃った。

 子供たちが三人、その場に倒れる。

「何を――」

「彼らは100人揃ってこそワームホールを作り得ます。今回は麻酔銃ですが、次は頭を撃ち抜く」

 子供たちの、怒りとおびえの入り混じった瞳。

「ご協力感謝します、ミスターハマグチ」

「少佐、情報部は何故彼らを?」

「あなたもおっしゃった。彼らは生物でありながら宇宙を跳べる。それを解明するためです」

「研究のため、というのはわかる。しかし、こいつは彼らの意思を無視した誘拐じゃないのかい」

「あなたは勘違いをしていらっしゃるようですね。ものに人権はありません」

「人権は人類以外にも生存権として拡張されたはずだ」

「そんなことをしたらきりがありませんよ。にだって知性はあるでしょう。それを殺してあなたはとして販売している」

「しかし、これは慣習に基づいて――」

「抗議は自由になさって結構です。ただし、情報部の方へね」

 ――そんなもの、軍が取り上げるわけがない。無視するに決まってる。

 俺は心の中で毒づいたが、対抗手段がなかった。

 相手は軍艦だ。こちらは丸腰。そもそも、船のスペックからして違う。逃げてもすぐに追いつかれるだろう。

「私たちは退散しましょう。気にすることはない、単に忘れることです」

「……そうだな」

 子供たちがエアロックに向かう。

「あ、ちょっと待て。お前が欲しがってた。やるよ」

 俺はポケットにあったそれを、リーダー格の彼に放った。

 キャッチした彼は、綺麗に笑った。

「ありがとう。おっさんがオゴってくれた食事、最高だった」

 100人の密航者は、情報部に追い立てられて俺の船から去っていった。



「――ピート。俺はどうしたらいいと思う」

「ワタシはロボット。あるじに反対することは出来ないだ。キャプテンの好きなようにするがええ。――もう決めてるような気はするだども」

「また、課長に絞られるな」

「いつものことだぁ」

「会社をクビになるかもしれんし」

「なら、このままにするだか?」

「ああ、もう、くそ。肉のコンテナ、ステーションに預かってもらえ。できるだけ身軽にするぞ」

「了解!」

「もうひとつ、ステーションに超光速タキオン通信を依頼しろ」

「ありゃバカ高額たけえだが、大丈夫かね」

「会社につけとけ」

「はあ。で、どこに通信するだ?」

「――ディキンシア」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る