SF単品集・僕たちのヒーロー

連野純也

僕たちのヒーロー

SFドタバタ劇。もし密航者が100人いたら……?

前編

 時は未来。ところは宇宙。

 俺とピート(相棒のロボット)はごく順調にコンテナいっぱいの冷凍食肉を積んで惑星サマーに向かっていた。

 惑星サマー。

 命名者もいいかげんメンドクサくなってたに違いない、常夏のリゾートと観光が主力産業の星である。

 名物はもちろん(?)どっさりのBBQバーベキュー

 ブランド牛肉を大量に購入してくださる、我がハッピームーン食肉会社にとってお得意様だ。

 俺とピートはもう幾度となく往復している。

 そんな、別にどうってことのない日常的な航路であるにもかかわらず、その事件は起こってしまったのだった。


「パンタグリュエル号の大事故――豪華客船の悲劇、行方不明100人超か……。最近事故自体が減ってきてるってのに、あんなでかい船がねえ。二重三重のフェイルセーフはどうしたんだろうな」

 俺は暇つぶしにネットのニュースを見ていた。ピートにだいたい任せれば船は飛ぶので、気楽なもんだ。

「テロって噂もありますだ。なにせ金持ちばかりどっさり乗ってましただもの……ん?」

 ピートがある計器の変動に目をつけた。

「後ろのコンテナ部に、重力異常出てるだぁよ!」

 なぜか言語回路にラッセラ星訛りのあるピートが僕に報告した。

「重大な事故になりそうか?」

「こんなのは初めてだぁ。会社で共有してる航宙ログ調べても、こんな記録はねえ」

「わかった。調べてみよう」

 第三次大航海時代を過ぎたあとに宇宙航路が最優先に整備されたので、星々をめぐることは非常に簡単に、日常的になった。一応の免許さえあれば、だれでも宇宙船を操縦できる。

 安全性だって、十二分に考慮されている。大ワープ道3017号線での宇宙船事故で死ぬ人は、惑星内での飛行機事故の犠牲者よりも少ないのだ。

 それでも宇宙はワケのわからんことが起こる場所であり、気を抜いてはいけないと座右の書『大いなる宇宙・99の謎』に書いてある。

 俺は十分に用心しながら、コンテナ部へ通じる通路を開けた。


「開いたぞー!」

 ドドドドドドドッ、とあり得ない数の足音とともに、知らない子供たちが次々に出てくる。

「おい、なんだお前ら――」

 ぶっ飛んできたガキの頭が腹にヒットした。

 息がつまる。

「わはははは。この船は我ら『闇の中隊』が占拠したっ!!」

「このクソガキどもっ……!」

 俺はピートに無線連絡する。

「隔壁閉鎖。鎮圧ガスをぶちまけてやれ」

「キャプテンにも影響が出る恐れがあるだぁが」

「俺は備え付けの酸素ボンベを使う。ふふふ、大人を怒らせるとどうなるか、思い知らせてやる」

「うわぁ、大人げないだ」


 十分後。

 ノックアウト・ガスで動けなくなった子供たちをピートと手分けして拘束し、空きコンテナに集めた。

 その数、100人。見逃してたってレベルじゃないぞ。

「どうやって入り込んだんだ、こいつら」

 それに、気味が悪いことに、全員が同じ顔をしていた。半数くらいは少女だったが、双子以上に似ている。

「それは僕から説明しよう」

「あ、お前、腹に頭突きかまして逃げた奴」

 一人だけ、身体が一回り大きい少年が言った。多分、リーダー格なのだろう。

「僕たちの本体は脳に寄生する小さな生物なんだ。この体はある人間のクローン体。僕たちは基本的に群生体で、みんなの意思を集めれば、ワームホールを作れるんだ」

「宇宙空間を飛び越えてきたってのか。んー、じゃあ、お前たちどこから来たんだ」

「パンタグリュエル号から。もともとはディキンシアって惑星に住んでたんだ」

「あの事故、お前たちの仕業か!?」

「うんと小さいワームホールをエンジンの中に開けただけだよ」

「タチわるっ!」

「僕たちは生まれた星へ帰りたいだけなんだ。でも住居の自由は保障されてるはず」

「お前たち、無理矢理連れてこられたのか」

「うん」

「同情の余地はあるけれども、俺も仕事だからなあ。いくら何でも100人増えたら燃料の補給しなきゃだめだし、あまり遅れるわけにもいかん。ディキンシアまで送ってやる時間はないな。そこのステーションで全員降りてもらう。警察機構には連絡しとくから保護してもらえ」

「えー」

「えー言うな。給料もらう身はつらいのだ」

「好かれますだね、には」

「うるさい」

「おっさんフラれたのか」

「よく行く酒場の女の子に告白して、見事に撃沈しましただ」

「だろーなー」「おっさんの顔じゃなー」

 俺は拳を固めた。

「殴るぞてめえら」

「あー、万年フラれ虫が怒ったー」

 くっ、否定できねえ。せめてもと、俺は話題を変える。

「しかし、よく相対速度合わせられたな」

「うん、一生懸命走った」

「いやそういう問題じゃないだろ。座標とか速度とかどうやって調べたんだ?」

 宇宙船の速度は、ワープしていない通常の航行でも相当速い。例えるなら、猛スピードで走る自動車にヘリで接近して飛び移るようなものである。

 ヘリが車と飛ばない限り、成功することはまずない。

「ある程度はキャンセルできるんだけどさ、出来るだけ似た相対速度を持つ船をピックアップしたんだ」

「GPSなんてワールド・ネットに公開してないぞ。――あ」

 俺が運んでるのは何か。やっとそこに思い至った。

個体別追跡信号トレーサビリティタグか!」

「へへ……正解」

 高級な食肉用の個体別追跡信号トレーサビリティタグは出荷されてから買い手へ届けられるまで、偽装されないように常に自分の座標をネットに送っている。ほぼリアルタイムで。

 速度は前回からの位置からどれくらい離れているかで計算できる。

「考えたな……あ、そうそう。『闇の中隊』ってのは、何だ」

「いやー、なんとなくカッコいいかなって」

 少年はにかっと笑って言った。

「テロと間違えられて撃たれるぞぉ」

「わかった。もう言わないよ」

 ちょうどそのタイミングで少年の腹が鳴る。

「素直じゃねえか。いつから食ってないんだ」

「えっと、昨日の夜からかな」

「丸一日か……しょうがねえな。牛一頭俺がオゴっちゃるから食堂行け」

「え!?」

「腹減ってんだろ。ガキは食わないと成長しないぞ。ピート、全員ほどいてやれ」

「はあ、安月給のくせに見栄はっちゃってまあ」

「ひとこと多いんだよポンコツ」

「ワタシが安い部品のみで構成されているのはひとえにあるじの甲斐性のなさに起因し――」

「わかったから言う事を聞け」

 大量の子供に飛びつかれたのは初めての経験だったが、悪い気はしないもんだ。

 と俺が浮かれていたとき、少年は笑顔でのたまった。

「この体は借りものなんだけどね」

 はっ。俺は我に返る。そうだった、こいつら、寄生虫なんだった!

「しまった――っ!!」

「もう解凍始めちまっただ――後の祭りだべ。ほんにキャプテンは外見にだまされるだな」

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