阿神 千夜との再会

定時下校。定時下校。勇み足で校門をくぐる。私、水本 灯は学校に残るのが死ぬほど嫌いな女子高生だ。もちろん部活は帰宅部。熱しやすく冷めやすい私に部活に入るなんていう選択肢はない。そもそも体育の五段階評価がギリギリ3というどんくさい私に運動部は入れないし、絵をまともに描けないので美術部は無理、音符がまともに読めないので吹奏楽部も無理。残された道は帰宅部のみなのだ。今頃部活の連中は練習に励んでいるのを尻目に1人で下校している。ぼっちなのかという心配は無用だ。一応小学生からの友達(相手がどう思ってるかは不明)がいる。ヤツは書道部の活動中なので、私は1人で帰宅しているだけだ。

そういえば、キラレスで新作いちごのスイーツが販売開始されてたっけ。

すぐに家に帰るという考えを取り下げて、駅の近くにあるキラレスに、寄るルートを辿る。

こうして、ひとり寂しくキラレスに入ると若い女の店員さんがそそくさとやってきて人数確認してくる。無言で人差し指を立てると、店員さんが朗らかに笑い、「はぁーい!1名様ご来店でぇーす!いらっしゃいませー!」と元気な声で言う。大声で1名様とか言わんといて…。と頭を抱えたくなるような気持ちを抑えて、案内された2人がけのボックス席に座る。

メニューをペラペラと捲り、デラックスストロベリーパフェなるものを注文する。量もデラックスならカロリーもデラックスだがそこはそっと目を瞑る。

運ばれてきたパフェはある意味期待を裏切る大きさだった。写真の方が小さく見える。

冷えたスプーンで苺とクリームを掬い口に放り込む。

ドサッ。やけに近くで誰かが向かいで座ったような気がした。まさか、と目を向けた先に、

「お久しぶり。水本さん、よね?」

心臓が凍りついたんじゃないかと錯覚した。綺麗な長い黒髪をさらり、と揺らし、血色のいい唇は弧を描いていた。何年も前に会ったっきりの人物。だがはっきりと誰であるか確信が持てる。

「阿神 千夜、さん…」

きっと私が男性だったら惚れ込んでしまうような笑みを浮かべて、阿神 千夜は私を見つめている。確かに昔から綺麗な子だったし、普通じゃない雰囲気を漂わせていたが、今は。今は、明らかに異質だと思わせるだけのオーラを放っている。実はアンドロイドなんです、とトンデモ発言されてもきっと納得してしまうくらいの。

阿神 千夜は変わらず微笑んでいた。けど、それは。昔のような優しい笑顔でなく、蠱惑的な笑顔だった。

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