第2話 引っ越しました。

この狭い狭い取り囲まれた空間に、8年も居たのかと思うと感慨深いような気もする。だが、鈍感に生きていた証がここに住み続けた理由のようでゾッとする。


東京を知らない。


大学進学のために上京したそこは、住所こそ東京都であったがTokyoではなかった。


アリーナで大物アーティストが「Tokyo~!」と言える場ではなかった。


病院と福祉施設が多く、市民の大半が高齢者。緑が生い茂り、駅から少し離れると畑の土ぼこりでマンションに干させた洗濯物が悲鳴をあげている。


「Tokyo~!」と叫ぶにはあまりに田舎だった。



わたしはまだまだ世間知らず。


仕事を辞めた今、これまで引っ越そうと決意する度に、現職場から通勤が好条件だったことを思い出し「通勤が」と心を挫く引っ掛かりがなくなった。


飛び立つなら今だ。


アリーナでレスポンスが返ってくるTokyo へ。


生きているうちに。体の動くうちに。脳が機能しているうちに。


なぜか今しかできないことが山ほどあるんじゃないかと、ハッと草原を突き抜けた先の畔の景色が脳内を広がった。


好きなところへいこう。


引っ越そう。



思い立ったら今。


やりたいことをやる第一歩でした。



つづく。

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