第03話 境界の繋がり

ぴろりん! と、俺の携帯電話スマホが鳴る。ジルからのメッセージの通知だ。

内容を確認すると文字のメッセージはなく、TFLOのデフォルメされたキャラの絵記号アイコンだけが送られてきていた。

 ――てかさっきからこんなんばっか送られてきてるんだけど……。


「ねえ、ジル」

「ん? なに?」

「目の前にいるんだから普通に話さない?」


 ここは生徒会室の中。

折りたたみ式の机を並べた反対側にいるジルが携帯電話スマホを熱心に覗き込んでいる。

 俺たちは書類の整理を頼まれたんだが、俺はこのジルの攻撃により、時折中断を余儀なくされている。


「ん~と? なに話そうか?」


こちらを見ずに携帯電話スマホを覗き込んだまま答える。


「いや、話すことなんてとくに何もないけど……、てかジルほうが何かあるんじゃないの? さっきからこんなのばっかり送ってきて」

「うちも何もないけど……、おもしろいね! これ」


新しいおもちゃを与えられた子供のようなキラキラした目で携帯電話スマホをいじり倒しているジル。

TFLOのセキュリティトークンや、俺たちが連絡を取り合っているSNSなどが、ジルの今まで使っていた携帯電話ケータイでは使えなかったため、ようやく新しい携帯電話スマホを買ったらしい。

 最初は操作すらおぼつかなかったが、俺たちがいろいろ教えて、SNSをインストールしてやってからずっとこの攻撃が続いている。

 ガラッ! と戸が開く。


「ジル! さっきから用もないのに変なメッセ送ってくんなよ! あんまウザいから電源切ったわ」


 長田さんがジルに説教をしつつ生徒会室に入る。


「用はあるよ。セルフィーに相手してもらいたいって」

「それが用がないっていうんよ……」


 そのやりとりを横目で見つつ続いて美麗さんが生徒会室に入ってきた。


「長田さんお疲れ。美麗さんも。部活動への資料配りは終わった?」

「あらかた配り終わったかな。活動してるんだかしてないんだかよくわからないとこには配りきれなかったけど」

「そんな雑用なら俺たちに任せておけば良かったのに」

「会長に就任した挨拶回りの意味合いもあったから、あたしが直接配った方がいいのかなと思って」

「私を一緒に引き連れていったのはお前と私の上下関係を皆に見せつけるためだったのであろうが、目論見が外れたな。大半はお前が私に会長の座を受け渡したのかと思っていたようだったぞ?」

「な、な、なにいってんの? そんな目的であんたを連れて行ったとかじゃないから」


長田さんは非常にわかりやすく狼狽すうろたえる。


「ふん……、まあいい、今日の活動を終わらせて早く帰りたいのだが」


と言いつつ携帯電話スマホを取り出し、操作をする。


「買い物に行かせた柏木帰ってこないとなんも出来ないんだけど」


長田さんも携帯電話スマホに電源を入れる。電源が入ると通知音が景気良く鳴る。


「ジル……あんた、どんだけ送って来てるんよ……」


携帯電話スマホの画面を見て長田さんが嘆く。


「セルフィーから返事がないから」


悪びれるでもなくさらに携帯電話スマホを操作すると、また長田さんの携帯電話スマホから通知音が鳴る。


「まったく、SNSそんなものなんて使うから余計な気遣いに煩わされることになる」

「いや、あんたも入れろっての。この前も言ったっしょ?」


 この前――生徒会選挙の打ち上げの時に俺と長田さんはSNSのIDを交換したが、美麗さんはSNSを使っていないから、ジルと柏木は携帯電話がそのSNSに対応していなかったからという理由で、結局連絡が取り合えるのは俺と長田さんの間のみという状況だった。


「馬鹿を言うな。最近だってメッセージの流出とか問題があっただろう? そんな危険なものが使えるか」

「いや、こんなん普通に電話するのとかわらねえっての……。そういう問題になるような、見られたらまずい下衆ゲスいことがしたいならお奨めはしないけどね」

「そんなことするわけがないだろう! ……いいだろう、わかった。インストールしてやろうじゃないか」


そう言うと携帯電話スマホを操作、インストールは一瞬ですぐさま終わる


「インストールしたぞ? どうやって使うんだ?」


 画面を見せつけつつ長田さんに聞く。


「ああ、奥原かジルにでも聞いて」


自分の携帯電話スマホを操作しつつ俺たちに振る。


「え~と、とりあえずアカウントを取るところからかな?」


俺は美麗さんにSNSの使い方を一から教えチュートリアルする。ちなみにジルに使い方を教えたのも俺だ。


 

ぴろりん! と、俺の携帯電話スマホが鳴る。美麗さんからのメッセージの通知だ。


「おめでとう! ちゃんと送れたみたいだね」


内容を確認すると文字のメッセージはなく、TFLOのデフォルメされたキャラの絵記号アイコンだけが送られてきていた。

――てかなんだ? この既視感デジャヴは……。


「いや、なんて書いて送ればいいものかわからなくてな……」


 恥ずかしそうに俯く美麗さん。

う~ん、まあ試験テストメッセージとしてなら問題ないか……。


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