第04話 空虚な限界

 みんなとIDを一通り交換した美麗さん。

 生徒会では柏木以外とはSNSで連絡が取り合えるようになった。


「ところで長田さん、さっきから何やってるの?」


熱心に携帯電話スマホを操作する長田さんに俺は問いかける。



「マケの状況見てるんだけど……、やっぱ木綿糸がやばいことになってるわ」


TFLOでは携帯電話スマホの専用アプリを使用することで、ゲーム中のマーケットが利用でき、ゲームにログインしなくても物を買ったり出品したりできる。


「まったくとんでもないことをしてくれたものだ。あんなことをしてくれたおかげで、静かだったベナリスもすっかり木綿糸を買いに来る輩であふれかえってしまった。またあの場所が賑やかになるのならそれはそれで結構なことだが、今回のようなやり方は絶対に間違っている」


携帯電話スマホを操作しつつ美麗さんが嘆く。

長田セルフィッシュさんも言っていたがやっぱり今回のパッチはクラフターにとっては不評なんだな。


「一本1k程度のものが100K位になればそりゃ群がるわ……」

「え? そんなに高くなってるの? ダース単位だと1M以上じゃん」


 100Kって俺が一週間くらい頑張って稼げるかどうかの額だよ?


「すまない、一つ気になったのだが、ちょっといいだろうか?」

「あん? なに?」

「現実世界でもKやらMやらを使うのはどうかとも思うのだが…」


 美麗さんが控え目に尋ねる。


「いや、あんたにそれ言われるとは思ってなかったわ。あんたのがよっぽどゲームと現実世界を混同ごっちゃにしてるのかと思ってたから」

「いや、私はゲームでもKやMは使わないぞ? そもそも日本語には馴染まない」

「あ~、そういえばそうだよね。うちもたまに混乱するよ。英語と日本語で桁の数え方が違うから」


 ジルが横から話に参加してくる。


「日本だと一、十、百、千、ときて万で一つ単位が替わり一万、十万、千万となるのに対し、英語圏ではそれが千、Thousandサウザンドが基準となり、一千ワンサウザン十千テンサウザン百千ワンハンドレッドサウザンとなる。それが所謂千の単位を表すキロ、転じてKになったのは理解は出来る。文字上であるならばかろうじて理解は出来るが、現実世界でKは如何なものか? と、思った次第だ」

「いや、普通に理解できるっしょ?  テレビだって4Kとかいうし」

「うちも日本語で話してるときは日本の単位を使うかな? だからうちもゲームでみんなと話すときにKとか使ったことないよ?」

「え~と、そうだったっけかな……?」


 思い返してみたけど俺はジルとはそういう会話をしたことがなかったような気もする。


「さらに言えばKの一つ上のMはミリオンやらメガやらでわかるが、その上は何になるんだ? BILLIONビリオンのBなのか、それともメガの上のギガのGになるのかどっちなんだ?」

「Mの上っていうと、え~とMが百万だから、千万、一億、…十億? になるのかな?」


 俺はとっさにMの上の単位が出てこなかったから指を使いつつ確認した。


「いやいや、たしかTFLOのカンストが999九億九千九百999九十九万九千999九百九十九Golゴル? だったっけ? 10億ってカンストじゃん。そんな額の単位とかあり得ないから……! って、まさか……」


 長田さんはそのあり得ない可能性に気づき、絶句する。


「金なんていくら持っていたって自慢にもならん。カンストさせたところで使い道もない。旧時代はレアものなどに価値があり、そういった物などを大金をはたいて買うことも出来たが、真生されてそんなものはなくなり、同時に金の価値もなくなった。どこぞのアフリカの国の通貨を何兆もっていようが自慢にもならんのと同じだ」


 さも当たり前のようにさらりと言ってのける美麗さん。


「いや、さすがにそれは言い過ぎじゃ……」


 俺はあればあるだけ欲しいし、いくらあっても足りないくらいだと思っているのに…。

 周りを見るとジルは笑顔を引きつらせ、長田さんは血の気の引いた青い顔をしている。


「はぁ、だから嫌なんだ、Golゴルの話をするのは。こんな雰囲気になるだろう? お前だけは私の苦悩をわかってくれるものだと思っていたが、買い被りすぎていたようだな」


 ため息をついて長田さんの方を向く。


「たかがカンスト……、うん…、たかがカンストだよね、ははは……そのくらい、普通……だから……」


 顔を引きつらせ言葉を絞り出す長田さん。

 その反応を見て美麗さんはさらに深いため息をついた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る