第二章 不動の騎士_1
翌日も
次期国王はなかなか決定しない。
(こんなことで、本当に国王が決まるの? 空白期間が長引けば長引くほど、
私は
チェスでも政治においても、先読みを得意としたお祖父様なら、こうなることは分かり切っていたはずだ。
なのになぜ、彼は王家の血を引く者たちの中から私たち四人を選び出し、わざわざ投票によって次期国王を選出するようになんていう
考えれば考えるほど
家格から言えば
しかし彼の
以前、お祖父様からの手紙にはこんなことが書かれていた。
──人を
シアンは個人的にはそりの合わない相手ではあるけれど、実務に関しては
彼のチェスでの
少なくとも彼なら、スチュワートのようにその真っすぐさで不適格だということにはならない。
しかしだからと言ってシアンが一番
最後にアーヴィンだが、この人はこの人でよく分からないのだった。
騎士団の団長をしているのだから
しかし
何を考えているか相手に
そういうわけで、私は父からの情報や
元ひきこもりにとって
あとはどうやって、周囲に自分だとばれないようにするかだ。
次期国王を決める
そういうわけで私は黒を基調としたドレスに
今日も今日とてメアリーに付き
城内とは思えない土の
ところが一方で、演習場には専用の観覧スペースがあり、若い
口に手を添えてこそこそと何かを話し合う彼女たちに、私は剣に対するのより更に強い
「
私の異変に気付いたのだろう。
心配するメアリーに、大丈夫だと軽く手を
か弱い
そうしてなんとか観覧スペースの
するとちょうどいいタイミングで、近くにいた令嬢がアーヴィンの名を呼ぶ。
「アーヴィン様、
「きゃー、スチュワート様負けないで!」
と、彼女たちの口にする言葉から聞き捨てならない
彼女たちの視線の先には、剣を交わす二人の騎士の姿がある。
頭にも
(どうしてスチュワートが、騎士団の演習に参加しているの?)
貴族子息で構成される騎士団だが、王族がそこに参加することはまずない。なぜなら騎士団とは王族を守りかしずくものだからだ。
そこで団長をしているアーヴィンが
恐らく力
剣を打ち合い、一合二合。
二人の騎士は
それは
「はあ、スチュワート様やっぱり
近くにいた令嬢がうっとりと
「あの、あなたにはどちらがマクニール公か、見分けがつくのですか?」
すると彼女は、信じられないものを見るような目で私を見た。
「信じられない! あなたあの
そう
彼らの足元からは
「あなた! その言い方ではまるでアーヴィン様が無骨のようではありませんか」
そこに、また別の令嬢が参戦する。
どうやら彼女は、アーヴィンのシンパであるらしかった。
「実際、そうではありませんか。アーヴィン様の剣は王族としては乱暴すぎます」
「なんですって!? あの方はウィルフレッド一世陛下の弟君のご子息であらせられるのよ。それを乱暴だなんて……ご自分のことをおっしゃっているのかしら?」
「なんですって!?」
(まずい)
あれよあれよという間に、口を出す令嬢がどんどん増えて大人数での言い争いになってしまった。
予想もしない展開に、私はあわあわと後ずさるより
「お嬢様。
心配したメアリーが、一時的な
私もそうするべきだと思ったが、思わぬところから
「お前……フランチェスカか?」
ぎょっとして声のした方を見ると、そこには冑を外したスチュワートが立っていた。
どうやら口論が激化している間に、二人の立ち合いは終わっていたらしい。
「こんなところで何を?」
彼が
私はさあっと血の気が引くのを感じた。
次の
「スチュワート様!」
「とっても素敵でしたわ」
「アーヴィン様の
「これわたくしが
観覧スペースには一応
(ああ、やっぱりこんなとこにくるんじゃなかった!)
私は演習場にのこのこやってきた
しかしとっくに
「う……わっ!」
そんな風に、
私は集まる令嬢たちの輪から
(やっぱり外になんて出るんじゃなかった! 私なんて
ほんの
しかし実際には、そんな風にはならなかった。
「淑女たち。そんなに柵から身を乗り出しては危ない。どうかお気持ちを静めてください」
私に
銀の巻き毛は
(う、うわぁ~)
なんと私の体は、スチュワートの
実際、外野からは悲鳴とも
私はその場を
スチュワートは私と目が合うと、まるで好きで助けたわけではないとでもいうように、ぷいとそっぽを向いてしまった。
しかし詰めかけた
その姿を見ていると、なんともいえない気持ちになるのだった。
(私には『変な顔』って言ったくせに)
思わず過去の出来事まで持ち出して、彼を非難したくなる。
助けられておいて、こんな風に思うのはお
「フランチェスカ嬢。こちらへ」
令嬢たちがスチュワートに気を取られているのを見計らったように、アーヴィンが声を
「いえ、わたくしはこれで……」
家に帰りたい気持ちではち切れそうな私は、当然断るつもりだった。
でもアーヴィンの
「
アーヴィンはそう言うと、
メアリーは私を置いていっていいものかと
「……失礼いたします」
(ううメアリー、私を置いていかないでっ)
遠ざかるメアリーの背中を見ながら、私は心細さで泣きたくなった。
しかし、ずっとこのままでいるわけにもいかない。令嬢たちは少しずつ私の正体に気付き始めている。このままここにいては再び彼女たちにもみくちゃにされかねない。
最後には観念してアーヴィンの手を取った。
いつの間にか令嬢たちを説得したらしく、気付けばアーヴィンの後ろにスチュワートが立っている。
彼はアーヴィンの手の上に
(練習の邪魔をして悪かったわよ。でもそんなにあからさまに表情を変えなくてもいいじゃない!)
どうも、ひきこもりになる原因がスチュワートだったと知ってから、時たま彼に対して
いつも他人の動向に
「行きましょう、アーヴィン様!」
さっきまでと打って変わって勇ましく歩き出した私に、アーヴィンが驚いて目を丸くしていた。
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