第4話 通学路にて
町から村へ続く海岸沿いの一本道は大渋滞だった。俊二は学校の火事を知っていたので,渋滞の原因を何となく想像できた。途中まではバスを利用したが,渋滞に気付いて途中で降りた。しばらく道沿いを歩いた後は,生徒が普段使っている通学路を選んで学校へ向かっている。
大変なことが起こっているのは分かった上で,酔いを醒ます目的もあり爽やかな山道を歩いていた。さすがに朝から飲んでいたことは知られたくない。
あと,10分もせずに到着できる場所まで来た時,先の方で人影が見えた。学校が火事ということを考えれば,色んな人が集まるだろう。今の職場で長く務めていることもあり,この界隈の住民であればよく知っている。誰だろうか,と思いながら少し足早に歩き始めた。
しかし,見かけた人影には,とうとう会うこともなく,学校が見えてきた。道端にある庚申塔の横に,竹刀袋と水筒が置いてある。落とし物というより,きれいに並べておいてある。そして,間違いなく,自分の学校の生徒の物だろう。俊二は手に取って,持ち主の名前を確かめた。「若井」と書いてある。「あいつか・・・。」若井の顔を思い浮かべた。この場に置いておくより学校で渡そう,と置いてある荷物を抱えた。
もう,酒の影響はない。急いで学校へ向かおうとした時,後ろから「ちょっと待って!」とやや強めの語気で呼び止められた。
振り返ると,さっき通り過ぎた道に一人の女性がいた。自分の後ろから来ていたのだろうか。生徒の親か,または姉が竹刀を取りに来たのだろうか。
俊二は「これですかね?」と言って,竹刀袋を差し出した。女性にネコババしたと勘違いされていないか少し心配して笑顔をつくった。
「ん…。と。竹刀取りに来られたんですか?」
俊二は相手の疑いを消せるように,もう一度荷物の話を投げてみる。女性はあまり表情を変えずに,今度は丁寧に言葉を選ぶようにしゃべり始めた。
「急にすみません。私は守裕子といいます。あなたと同じように、力があります。」
言うと同時に掌を広げて,小指の付け根にある印を見せた。
俊二は固まった。魔法について、知りたい事は山ほどある。色々聞きたい欲求を抑えながら、初対面の守という女性にどんな反応を見せるべきか、悩んでいた。
話題を他に逸らすことは無理である。この女性が,魔法について,ある程度知って話しかけてきたことは確信できる。まずは、目的が知りたかった。
「たまたまこの道を通ったんだけど…。俺,ストーカーされてんのかな?職場の火事で急いでるんだけどね。」
魔法には敢えて触れずに、会話を続けてみた。
「見える人から、あなたがここを通ることを教えてもらったんです。学校は燃やしてますが、人に被害は出てません。」
どうも、守の話は苦手だ。説明してるふりをしながら、謎をチラ見せするやり方である。付き合うと面倒臭いケンカをしそうな女である。かわいいけど。
自分の中で、一つはっきりした事がある。今、優先する事は、職場に向かうのはやめて、守の話を聞く事だ。
「守裕子ちゃん、だったよね。きちんと、分かるように、説明聞かせてよ。突っ込みどころ、あり過ぎだし。」
「着いてきてください。ちゃんと説明します。」
そう言うと、庚申塔を指差した。すると、まるで生き物が成長するように、なめらかに大きさを変えていく。瞬く間に、人がくぐり抜けられる程度の石門に変わった。
裕子ちゃんに着いて、門に向かった。何を聞けるのか、まだ分からないが、とりあえず名前のちゃん付けはOKみたいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます