05.ステータスオープン
私の名前は、マリー・エンド。
私は、主人公ではなくヒロインでもない。
サブヒロイン。
どんなに頑張ったって主人公の心は掴めず、元全知全能の魔法使いなんて肩書きも意味が無くなって、影が薄くなっていく負けヒロイン。
でも、今は――
「私が主人公だ」
そう、私マリー・エンドはこの作品の主人公である志藤リュウジから賢者の石と一人称視点を奪い取った。
私の設定上はフレアが持っていた賢者の石の紛失によって力を失っていたが、リュウジの近くにいれば元に戻る。
この作者はハーレム展開にするべく、そんな設定を作ったのだろうけど甘い。私にとって必要なのリュウジではなく賢者の石なのだから……
「マ、マリー!? リュウジ君は何処に行っちゃったの!?」
フレアは大慌てで私に問いただしてくる。
「何処って、アイツのいた元の世界だけど?」
「ど、どうして! 賢者の石に選ばれた人なんだよ!」
「だって必要なのは賢者の石であって、アイツじゃないじゃん」
「そ、それは……」
フレアが困った表情を見せると、今度はメルディア前に出てくる。
「それは早計ですよマリーちゃん。賢者の石に選ばれたのは何らかの理由があるはずです。もし石が暴走でもしてしまったら……」
「でも、こうして暴走していないでしょ? 万が一石が暴走しても、私が制御する方法を知っている。私は今全知全能だからね」
「マリーちゃん……」
メルディアも困った表情を見せる。
二人の表情に私はなんだか腹が立ってきた。
「ねえ、二人とも……どうして二人して浮かない顔してるの?」
「だ、だって……」
「それは……」
「よく考えてみてよ。私達の目的って魔王を倒しに行くことだよね?」
「そうだけど……」
「なら私の行動は何にもおかしくないよね?
魔王を倒す最短ルートに向かってる訳だからさ、二人とも邪魔はしなでよね」
「「……」」
二人は黙りこくってしまった。
それはそうだ。
こんな展開はこの物語にはない。
この作者も想定してなかったはず。
そうでしょ? 作者さん。
設定の穴を突かれて、貴方が生み出したキャラクタに早期解決させられるとは思ってなかったでしょ?
これからの展開で、作者や読者の分身になる主人公のリュウジを無理矢理強くして、格好良く見せたかったんでしょ?
フレアやメルディアや私に対して無理矢理好意を持たせてチヤホヤされたかったんでしょ?
無理矢理感情や思想をねじ曲げさせて、
そうやって気持ちよくなりたかったんだよね?
フレアやメルディア……
私達の本当の気持ちなんて知らずにねじ曲げて……
「させないから……」
この世界の全てを知ってしまった私は、
この世界が小説の中の世界であると知った私は、
文字媒体としてしか存在していない私は、
小説の向こう側の人達の言いなりになんかなったりしないから。
「こんな欲にまみれた駄文……」
私は手に力を入れた。
「とっとと、終わらせてやる……」
「待て!!」
聞き覚えのある声が聞こえる。
声の元を見ると、ジャージ姿に長髪で前髪の長い男が……読者の人達は初めて姿を描写されることになるが、先ほど消し去ったはずの志藤リュウジが、光と共に再び目の前に現れた。
「リュ、リュウジ君!?」
「あらあら、お帰りなさい」
驚くフレアとどことなく喜んでいるメルディア。喜ばしくないの私だけなのは言うまでもないか。
「リュウジ? もうこの物語は終わるし、今更何しに来たの?」
「お前を止めるように女神から言われてきたんだ。お前は賢者の石の力で暴走してしまったようだ。だから、なんとかお前を説得して……」
「リア・エクトクル」
私の転送呪文の一言で、リュウジはまた元の世界へと戻っていった。
「リュウジ君!?」
「あらあら……」
二人も相変わらずの反応をしている最中、またしても光と共にリュウジが現れる。
「人の話を聞け! 良いか? お前は今……」
「リア・エクトクル」
再び送り返すが、またしても光が現れる。
「いい加減にしろマリー! いいか? お前のやっていることは……」
「リア・エクトクル」
「甘いぞ! アンチ・スペルゼロ!」
私の転送呪文を突然対魔法呪文を使用し打ち消したリュウジ。
それに対してフレアが驚いた。
「凄い! 何でリュウジ君が魔法を!? しかもマリーの魔法を打ち消しちゃった!」
「ああ……どうやら俺には、元々魔法使いとしての素質があったみたいで、女神にその才能を引き出してもらったんだ」
後付け設定かい……
まあ、元々設定は穴だらけだったし、寧ろこれは機転を利かせたのかもしれない。
「……」
私は無言で手元を動かし、指で印を作り出していく。
「何をやっても無駄だ。アンチ・スペル――」
リュウジが対魔法呪文を唱えようとするが中断する。彼は発声出来なくなったからだ。
「私が今やったのは口封じの呪術。対魔法呪文の効果の対象外だから」
「ッ!?」
「魔法の才能があったなら、賢者の石とかいらないでしょ。そう女神と作者に伝えてきなさい」
「ッ!?」
再び転送呪文で送り返す。しかし、またしても光と共にリュウジが現れる。
「いい加減にしろ! お前が現世に送る度に、俺はトラックに何度も跳ねられてここに来なくちゃいけないんだ。そして見ろ、女神が妥協して、またこれをつけてきたぞ!」
リュウジが手の甲を見せる。
するとそこには、賢者の石がくっついていた。
「マグラ・クル・テレポート!」
「アンチ・ス――」
純粋に呪文詠唱速度で打ち勝った私は、見事二個目の賢者の石を奪い取った。
「お前ええええ!!」
「ニートなら異世界なんかに来てないで、バイトでもいいから探してなさい!」
再び転送呪文で送り返す。リュウジは帰り際に苦悶の表情を見せながら、胸を押さえて消えていく。
リュウジは、もう出てこなくなった。
それにしても、賢者の石の数の初期設定をねじ曲げてくるとは……
「ま、意味なんてなかったんだけどね」
無意味に手に入れた二つ目の賢者の石を確認しようとした時だった。
「……え?」
気がついた時には、手に持っていたはずの二つ目の賢者の石がなくなっていた。
無くなって困る物ではなかったが、落としたのかと辺りを探してみる。しかし、それらしい石は落ちていなかった。
「ウフフ、お探しの物はこれかしら?」
「……メルディア?」
メルディアへ顔を向ける。
そうすると、ウットリとした表情で賢者の石を手に持ったメルディアの姿があった。
「何で……メルディアがそれを……」
「ウフフ、私の初期設定スキルに何故か盗賊スキルが存在したのよ。神官なのに盗賊スキルなんておかしいわよね? もしかしたら
妖艶な笑みを浮かべるメルディアは、賢者の石を空に掲げた。賢者の石は輝き、白い光の柱を作り出した。
「おいたが過ぎたわねマリーちゃん。どう抗おうと私達は神様達には適わないのよ!」
そこには、私と同格の存在である慈愛の聖母メルディアの姿があった。
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