02.そして無双する

「メルディアさんは・・・逃げて」

「そんなことしないわフレアちゃん。どんな時も一緒よ」


 遠くで膝をついている桃色髪の女の子を庇うように青髪の女性が前に立っているのが見えた。彼女達の声が近づいてくる。


「ここで終わり・・・なのかな」


 青い髪の女性はそれでも笑みを浮かべていた。


「いいえ、私達はこんな所で終わらない。皆でこの世界を守ると誓ったじゃない」

「メルディアさん・・・」


 桃色髪の女の子は足を振るわせながら立ち上がる。


「ゴメンね。私も最後まで諦めないよ!」


 腕を押さえながら、飛びかかってくゴブリン達を睨み付ける。ゴブリン達は涎を垂れ流しながら飢えた獣のように二人へと飛びかかった。

 二人の女の子達が構えた。



「君達はふせていろ」



 俺は常人では見切れないであろう速度で、彼らの間に割って入り、一番近いゴブリンへ一撃を加える。ゴブリンは硬直したまま下半身と上半身が離れ、後方へ飛んでいく。


「え!?」

「あらあら、いったい何が」


 驚く彼女たちを尻目に、俺は剣を振り続ける。握ったこともない剣は俺の体の一部になったかのように重みも感じず、銀色に閃かせながら空と肉を容易く切り裂いていく。

 何十体ものゴブリン達が恐れを知らず、こちらに牙を向けて飛びかかってくる。

 それでも俺は、豆腐を切っていくかのよう切り捨てていった。




――




「これ・・・君のだろ?」


 俺は血を振り払った剣を桃色髪の女の子に渡そうとする。


「・・・」


 目を丸くする桃色髪の女の子は、口を半開きにして硬直していた。


「なんだ? この剣は君のではないのか?」

「・・・え!? あ、わ、私のです!」


 顔を赤らめつつ慌てて俺の手から剣を受け取った。

 横から青髪の女性も話しかけてくる。


「凄いわ~、一人であの量のゴブリンを無傷で倒してしまうなんて、並の冒険者でも出来ないわ。昔の私達ぐらいの強さね~」


 優しい間の抜けた口調で、和やかに微笑んでくる。


「私達を――いえ、街を救って頂き感謝致します」


 そのまま俺に向けて深々と頭を下げる。

 それに気づいた桃色髪の女の子は、ハッと続けて頭を下げた。


「あ、あ、ああ、ありがとーご、ござま、す! ありがとうございます!」

「ああ・・・その・・・」


 必要に以上に頭を下げる桃色髪の女の子に、俺も戸惑ってしまうと、青髪の女性が補足してくれる。


「フフ、この子の名前はフレア・クリスタル。ちょっと恥ずかしがり屋なの。なので、許してあげてくださいな」

「なるほど・・・そうだったのか」

「特に男の子となんて、ほとんど話したことないから照れてるのよね?」

「ちょ、ちょっとメルディアさん!! え、えっと・・・フ、フレアです。そ、そのままフレアと呼んで頂ければ・・・。あ、あと! 本当に助けて頂き、ありがとうございます!」


 桃色髪の女の子こと、フレアは声を上擦りながら耳まで赤くしながらも頭を下げてきた。


「い、いや、こちらこそ、頭を下げられることはしていないから」

「あらあら、謙遜しなくて良いのに~」


 青髪の女性は、姿勢を整え続ける。


「申し遅れました。私の名前はメルディア・ノルエンと申します。見ての通り神官を努めております。昔は慈愛の聖母と呼ばれておりました」

「神官・・・それに慈愛の聖母?」


 俺の疑問にメルディアは答える。


「二つ名です。昔は私達、魔王を倒せる三英雄と言われていたのですけど・・・自分で言うのもなんなのですが、有名だったかと思います。ご存じありませんか?」


 メルディアの質問に俺は当然首を横に振る。


「すまない。信じてもらえるか分からないけど、実は俺はこことは別の世界から来たんだと思う」

「別の世界・・・ですか?」

「ああ、俺の名前は志藤リュウジ。日本から来た。君達は日本と言う国を知らないだろ?」


 俺の言葉にフレアとメルディアは首を傾げる。


「やはりそうか・・・なら俺は、間違いなく異世界転生してきたんだと思う」

「い、異世界転生・・・ですか?」

「ああ、こことは全く違う別の世界から来たんだ。だから、君達が有名であることも、この世界で何が起こっているのかも知らないんだ」


 俺の言葉を聞いたフレアは困惑し、メルディアは考え込む。しばらくの沈黙の後に、唐突に後ろから声をかけられる。


「そいつの手の甲・・・それって賢者の石でしょ?」


 振り返ると、前線に立っていた金髪ツインテールの魔女風の少女が俺の手に向けて指をさしていた。


「ちょっと、マリーちゃん。助けてくれた恩人をそいつ呼ばわりはよくないわ」


 怖くない膨れ面で怒るメルディアだが、少女は眼中にないようにこちらを睨んでくる。


「君は確か・・・さっきバリアみたい物を張っていた」

「マリー・エンドよ、私の名前。それより、その腕に付いている石。それを私達にもっとよく見せて」


 言われるがまま腕に埋め込まれた石を皆に見せる。すると、残りの二人の女の子は驚いた様子を見せた。

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