第2話

 上靴から外靴に履き変え、校門を出ると


「おぉ、真、一緒に帰ろうぜ」


 同級生の新堂君が真を呼び止めた

 新堂君の他にも2人の他クラスの男の子が新堂君と一緒に立っていた。


「うんっ!あっ、ごめんね新堂君 、僕、お母さんに言われているから … 本当にごめんなさい…」


 真はニコニコ笑いながら新堂君に謝った


「ふ~ん、そっか、じゃぁ」


 新堂君は右手をパッと開き、真の前に手を伸ばした。


「真、困っているんだ俺」


 新堂君は真を急かす


 そうか、新堂君困っているんだ、それならと、真は鞄を開き小銭入れを開けた。


 あいつ…


黒鼠君は真と新堂君の様子を、じぃっと見ていた。



「こらー新堂!何をしている!」


 女子達に連れられ、4年2組、新堂君のクラスを担任する、瀧本先生が新堂君を怒鳴った。


「やべっ、行くぞ!」


 わぁ~っと新堂君と2人の男の子達は走って逃げて行った。


 瀧本先生は真に駆け寄り


「海馬君、大丈夫かい?新堂君に何て言われたんだい?」


 40代後半の瀧本先生は、父親のように優しく真に聞いた。


「はい、一緒に帰ろうと言われました」


 真はニコニコしながら応えた


「他には?他に何か言われた?」



瀧本先生は更に優しく真に聞いた



「はい、困っていると言われました」


 真は元気にニコニコ応えた


「そうか、さっき新堂君は海馬君の前に手を伸ばしていたよね、あれは?」


瀧本先生は新堂君がしたように、真の前に手を伸ばした。



「はい、新堂君が困っている時は 、新堂君の掌にお金を乗せると、新堂君はいつも笑ってくれるんです」


真はニコニコしながら、瀧本先生にそう話した。

瀧本先生は一瞬、とても辛そうな顔をして


「いつも、新堂君の掌にお金を乗せているのかい?」


「はい、そうすると新堂君が笑ってくれるんです」


 真はニコニコ応えたが、瀧本先生は肩を落として


「海馬君、それは、断らなければいけないよ、次からは、新堂君に言われても絶対にお金を掌に乗せちゃいけない、職員室に走って逃げて来て欲しい…それか、周りの子に先生を呼んで来てと助けを求めて欲しいんだ、出来るかい?」


「はい」


真はニコニコ応えたが、瀧本先生は今にも泣き出しそうに、目に涙を溜めていた。


 ふんっ…


一部始終を見ていた黒鼠君は、スタスタと家へ向かい歩いて行った



「じゃ、気をつけて帰るんだよ」


「はい」


 瀧本先生に見送られ、真はルンルンとスキップをしながら家へと向かった。


黒鼠君は歩きながら、校門の前で見た真と新堂君のやり取りが、気になって気になって仕方がなかった。


何だって、あの海馬は黙って金を出そうとするんだ?ニコニコ笑って、怒るところだろうし、先生の言う通り、逃げるところだよな…

おかしな奴だ…


一方、真は校門の前で起きた事等 、忘れてしまったようにルンルンと楽しそうにスキップをしながら 、家に向かっていた。


学校から100㍍程先にある十字路を右に曲がり、スーパーの前を通り2本目の信号を右に曲がると、真の住むマンションが見える、真がマンションの入り口へ着くと


「ゲッ、お前もここに住んでるのか?」


マンションの入り口で、黒鼠君は真と鉢合わせた。


「あぁっ、黒鼠君!同じマンションに住んでるんだね、そうだ、じ ゃ明日、一緒に学校行こうよ、朝待ち合わせて 」



相変わらず真は、ニコニコと話した。


黒鼠君は何も言わずマンションのエレベーターへと向かう、真も慌てて黒鼠君の後を追った。


「黒鼠君の家は何階?僕は三階なんだ」


何を話していても、ニコニコしている真に黒鼠君は


「俺、シツコイの嫌い…」


それでも真は


「そうなんだ、シツコくしてごめんね、明日何時に待ち合わせる? あ、ごめんね、1人で学校行くって言っていたよね」


チーンッ


エレベーターが止まり、3階のドアが開いた。


「着いちゃった、じゃ、黒鼠君 、また …」


黒鼠君は真の話しを最後迄聴かずにエレベーターのドアを閉めた。


「最悪、何だ、あいつ…」


黒鼠君は7階で降り701号室のドアを開けた。


「ただいま…」


「悟、帰ったのね…テーブルの上にチーズとパンがあるから、食べて休みなさいね」


黒鼠君のお母さんはネグリジェ姿で 、言いたい事だけ言うと寝室へ行ってしまった。


室内のカーテンは全て閉められ、テーブルの上に置かれたステンドグラスのライトだけが仄かに灯りを照らした。


黒鼠君はテーブルの前の椅子に座ると、


チュッパッペチャッ


チーズとパンに吸いつくように、音を鳴らしながら食べた。


食べ終わると自分の部屋へ行き、鞄を床に起きベッドに潜り込んだ



カチッカチッカチッ…


ジリリリリン …


黒鼠君は手を伸ばし、枕元で鳴る目覚まし時計を止めた。


時刻は夜中の2時 …


黒鼠君はベッドを抜け出し、リビングへと向かった。


リビングでは、黒鼠君の父・母・兄・妹・の四人が既に集まり、黒鼠君を待っていた。


黒鼠君の父が


「では、始めよう…」


家族に声を掛けると …


全員の姿が縮まり、猫程の大きさに変わった。


家族は四方に散らばり、家を抜け出し走り出した。


隣の部屋にそっと忍び込んでは


カリッチュッパッガリッ


「ギャーッ何っ!」


別の階の端から端迄も


チュバッゴリッチュー


「痛っ!キャーヤーッ!」


家族中でマンション中の部屋を走り廻る、その度に各部屋の明かりがつき、悲鳴が聞こえる



ギャーッ!痛いッ!


うわぁ~なっ、何んだ~


イヤーッ!ギャーッ!


マンション中がパニックに陥った


黒鼠君は3階の部屋も端から端まで走り廻る。


空調菅を走り303号室な入ると、暗闇の中を進む …


カチャッ


この部屋の住人を探し静かに各部屋を見て回る。


リビングのカップボードの上には 、笑顔で並んで写した家族の写真が置かれていた。


「ゲッ、あいつの家だ…」



黒鼠君は写真の中に真を見つけた


ふと目線を移すと横には医学本が数冊立てて置かれていた。


医学本には所々、ピンクと黄色の付箋が貼られていた。


黒鼠君は本に貼られた付箋が、何の項目に貼られているのかが気になり、音を立てぬように、こっそりと本を拡げた。




えぇっと、何々 …


人は22対からなる常染色体と1対の染色体を持っている。

父と母から1対ずつ染色体を受け取る、ウィリアムズ症候群は父又は母のどちらかの7番目の染色体の一部が欠けてしまい起ると考えられている。

その大きさは顕微鏡で見えないくらい小さく、25個の遺伝子が含まれていると考えられている。

欠けてしまう原因は不明で突然変異と考えられている。

この欠けた7番目の染色体の付近にWBSCR17といわれる遺伝子の発生率が高い。

この遺伝子の特徴とし、主に性格 面に表れる事が多く、とても人な つこく、子供では知らない人を怖がらない可愛いらしい性格を持つと言われ、他者の気持ちに共感しやすい。


そうか、あいつ…


黒鼠君はパタンと本を閉じ、元に戻した。


カチャ


「お母さん… うわっ! 」



真が寝惚け顔でリビングへ起きて来て、カップボードの上に黒い塊を見つけると



「うぎゃーっ!」



とは叫ばずに



「ねぇ、君は何?どうして、僕の家にいるの?遊びに来たの?」



ニコニコと笑った。


溶け落ちてしまいそうな、その笑顔につられ、黒鼠君も微笑むと、


ボワンッ


黒鼠君は人間の姿に戻ってしまった。



「ゲッ…」



黒鼠君は慌ててたが、真はキラキラと目を輝かせ



「黒鼠君は魔法が使えるの?ハリーポッターみたいだね、僕も魔法使いたい、教えてよ」



黒鼠君は、慌てて玄関から逃げ出した。



































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