第11話
菫が女学校を卒業した夜、アーノルドは菫のもとを訪れた。
「スミレさん、そつぎょう、おめでとゴザイます」
手には苦労して手に入れた英国産のビオラがあった。
アーノルドの胸中には秘めた計画があった。まともなやり方では菫を手にいれることはできないだろう。菫に憎まれたくなかったが、アーノルドはもはや菫に対する思いを抑えきれなくなっていた。
「先生……」
菫はその小さな花束を受け取り頬を染めた。
アーノルドはこの地を離れ、外国人の多い地区に一軒の洋館を購入した。菫がこの秋に見合い結婚することも知っている。
その前に菫を連れて逃げだすことを考えていた。その決行の日が今日だった。
拒まれても連れて行くつもりだった。
菫の部屋の窓をたたき、そっと外に連れ出したアーノルドは、すみれの家人の声を耳にし、そのまま菫の口を押さえて駆けだした。
「センセ……!?」
菫の体と口を羽交い絞め、アーノルドは恐ろしい早さで疾駆する。
家人が菫の不在を悟ったときにはアーノルドは川を渡り、山のすそ野を越えていた。
菫の捜索はなされたが、結局見つからずじまいとなった。
菫はアーノルドに抱きかかえらた間、言葉にならない恐怖を感じていた。
あこがれの外国人教師は人間ではない。そのことを悟った。鬼神のたぐいだったのか。
おそらくその考えに間違いはないのだろうと思う。なぜなら、ただの人が、風のように山を越えられるだろうか。猿のように岩壁を飛び越えられるだろうか。
菫は心なしか冷たいアーノルドの胸の中で意識がだんだんと薄れていくのを感じていた。
「スミレ……」
アーノルドは蒼白で失神している菫の頬をなぜた。彼女にエキスを入れず、愛する方法があるのかわからなかった。
子の作り方は分かる。彼女を愛したかった。彼女との子どもも欲しかった。呪われた子になるかはわからなかったが、責任を持つつもりだった。
「スミレ……」
アーノルドは愛しい女の着物を脱がせ、その白いやわ肌をかき抱く。
忌まわしい交わり、禁じられた行い。衝撃が少ないうちにと、菫が意識を失っているうちにアーノルドは愛しい女を抱いた。ゆっくりとじんわりと瑞々しい生気がしみ渡ってくる。
「はぁ……」
菫の幼い唇から吐息が漏れる。
アーノルドは戻ることのできない道に入り込んだ事を悟った。
この異国の少女から離れることができない自分がいることを知ったのだった。
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