内定
それは
「な、?」
ななな?
「内定ですか?」
「おめでとうございます!!」
言うと、佐々木氏は微笑んだ。
「メールが昼ころ来ていたんですけど、気づかなかったんですよ。遅れてごめんなさい」
「……本当に?」
え?だって、昨日の今日だぞ?倍率、100倍だぞ?200倍だぞ?
「本当です……。よかったら、ぜひに、ということでした」
「え……。実感、ないですよ……。 いやあ……うわあ」
こんな早く、報われていいんだろうか。
……、いや、僕だってそれなりのことを、この半年、やってきた……。送っては届く、
障害者雇用促進法が制定されて、法令によって、障害者の法定雇用率は、現状、2パー。従業員の2%、以上は障害者でなければならない。これから、どんどん年ごとに増えていく。だから、障害者雇用は売り手市場。法定雇用率を満たさなければ、罰金……厳密には法的な意味での罰金ではないけれど、企業は納付金を納めなければならない。
そういう社会の流れに、波に乗れた、ということか。うまく乗れた、ということか……。
「アカキさんは国家資格も持ってるから、そのあたりも企業様とうまくマッチングできたということなんでしょうね。私も、アカキさんだったらきっと通ると思ってましたよ」
「いや、あ、はい。実感ないですけど、ありがとうございます。これも、特に小川さんにさんざんいじめぬかれ……、いや、厳しくご指導いただいたおかげで……、つもりつもったうらみ……いや、か、感謝の気持ちで……」
ん。企業様?
「いま企業サマって聞こえたんですがね……?」
「?」
「あれ?え、内定って、?」
「え、来てほしいっていうお話ですよ?」
「え、待って。オアシスだったら、自分の企業のこと、企業サマ、なんて、言わなく、ないですか?え?どこにですか?」
自分の企業のこと企業様って……、言うか?
「どこって、応募して、実習頑張ってきたじゃないですか!」
「……司法書士法人?」
「そうですよ! いい話じゃないですか」
……そっちかぁーーーーーあああ。
「まあ、そうですよね」僕は頷いた。むしろ、うなだれた。
法律は僕の専門だ。興味も関心もある。だからといって、食べていけない待遇では、どうしようもなかった。実家が近くにあって、家賃を払う義務がないというなら考えもできるが、家賃を払って食事をしたら本当にそれで金は手元に残らないだろう。それでは考える余地さえなかった。
「考えさせてください」
とだけ言って、僕は部屋を出た。
でも、少しだけ安心する自分がいたこともまた事実だった。
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