一つの結果,結果のひとつ
求人については、どっかの企業の求人ページを発掘する方法、自分で見つけた求人情報をたどっていく方法のほかに、ハローワークで情報を集めてくる方法が一般。それに加えて、障害者の場合、ハローワークの障害者窓口がある。ここは障害者雇用専門窓口だから、そこに集まった求人に応募するということは、自分が障害者であることを公開して応募することになる。というか、応募するのに、障害者であることが、条件の求人である。
いまさらちゃんと書くのも僕の
それで、障害者窓口などで情報を集める他に、大手の就労移行支援事業者では利用者向けに、企業で集まっている情報を集約しているところも多く、それを利用者はセンターのLANでWebの形式で見ることができる。
午後は、僕はそれを眺めていた。どうせここはもう終わったのだ。同業他社を探すか、国家資格を活かせる求人を探すか。
面接が昨日の、今日だ。本気で力を入れるのも、面倒。もとより、入れる力も、ない。PCをいじっていれば、何かしらやっているようには見える。
LAN求人は、軽作業が多い。まいばすの品出し、工場のピッキング。軽作業はどれも時給制で、首都圏でも、時給1000円代は全く望めそうもない。品出しを何年やれば正社員になれるのか?5年先、10年先も品出しをするのか。品出しといえばこの人みたいな品出しマスターみたいな……。
……目指したくねぇ。。。
僕が頭を抱えていると、女性スタッフから呼び出しを食らった。
「アカキさん、アカキさん」
「ぁい。」
「履歴書一緒に作ってるんですけど、固まっちゃったんです、どこクリックしても、動かなくて。わかります?再起動しなくちゃだめかしら」
「ぁぃ。」
僕はエスケープキーを押して、変なところがアクティブになっている状態を戻した。
「わっ!すごい。どうもありがとう」
「ぁい。」
こういうスキルって、お金に繋がらないだろうか?
PCのトラブルの解決方法のテストがあって、それを解決する試験とか、資格とか……。
ないんだろうなあ。たぶん。
PCをいじるのも、けだるい。
「丸尾先生さあ、最近のウインドーズって、コントロールパネルないの?なくしたの?うそでしょ?なに、テンってほんとにないの?」
「アニキよりわかるひといないでしょうが!」
「そもそも俺Macだし、うちPCないし……」
僕が同業他社のサイトや、法律系有資格者の求人を探していると、またスタッフから呼び出された。
「はい。」
個室に入ると、佐々木氏がいて、言った。
「アカキさん、これから時間ありますか?」
「はい?」
「実は、私のところに電話がありまして」
「はい」
「警察から呼び出しが来ています。これから警察署へ行ってください」
「なんだと」
「警察ですか?」
思いもよらない言葉を言われた僕は、凍りついた。
「申し訳ありません。びっくりさせましたよね。そんな、構えなくても大丈夫ですよ。アカキさんは被害者側ですから」
そう佐々木氏は、笑って言った。
「……そっか。アラカワの件ですね?」
佐々木氏は頷く。
「……なんだ。人が悪いな、佐々木さんも」
「さすがにうやむやにしておくわけにもいかないですから」
「アラカワは、まだ謹慎しているんですよね」
「こちらとしては、通所禁止の措置を取っています。当たり前ですけどね。センターの中でも、こちらから周知することはしてませんけど、知ってる人は知ってるでしょうし、一部ではかなり動揺してる人もいます。ここだけの話、あれから通所したくないっていう人も出てるんですよ。退所した人も、います。迷惑極まりない」
退所した人……。
心が、軋む言葉だった。20人以上のコミュニティがあれば話が広まるのは当たり前。センター内ではスタッフにはメンバは極力、見せないようにはしているがないわけじゃない。ないわけが、ない。ほとんどのメンバは、いい歳をした人間だ。実際LINEもすれば、メンバ同士のグルチャもある。送別会もあれば忘年会もやる。
メンタルを病んでいる障害者のコミュニティとなれば、なおさら不安も動揺も強いはずだ。
本命の面接と、その後の虚脱感でそちらを考える余裕もなかったけれど、押し込めていた感情が思い出したように僕の中で目を覚ましてくるような感覚。
怒りだ。
「で? 僕が呼び出されるってのは、どういうことですか?」
「今回の件については、本社のほうにももちろん私たちのほうから報告はしてます。法務部の方にも話は行っているでしょう。アカキさんが被害を受けたということ、大変なことになりかねなかったということを考えたら、さすがに社内で完全に……こういっちゃ変ですけど、握り潰しちゃうっていうことにしてしまうというのは、問題になりかねないですよね」
「大変なことになっちゃってますよ。既に大問題になってます。あえて今、その気持を佐々木さんにぶつけることは、しませんけど。これは僕だけの問題じゃあ、ない」
「もちろん、わかってます。ご両親の方からも、謝罪はあったんですよね?」
あの病院でのことか。
「まあ、あったといえば、ありましたけどね。なかったということは、なかったというか。でも、謝られたって、怖いものは怖い。言っちゃ悪いですけど、逆恨みっていうか……、逆恨みならまだわかりますよ?恨まれるようなことを僕がしたっていうんなら。それすらない、妄想じゃないですか。妄想は……、怖いですよ」
「うん。私も、担当の後藤も、改めてアカキさんにはお詫びしなければいけないと思っています。アラカワさんからそのあたりも含めて、警察立会いの上で、ご両親は謝罪したいとおっしゃってるというわけです。今後の対応も含めてね」
「警察立会いの上で……ですか?」
「先方はそう仰ってますけどね」
なぜわざわざ警察を……?あまり気が進まない。
「警察立会いなら……」
佐々木氏は言う。
「アカキさんがどうしてもと言うなら、事件にもできると思います。それは止めません。権利ですから。私たちにそれを止める権利もありません」
正直、事件にしてしまいたいという気持ちもなくはない。
「どうしても、これから行かなければいけませんか? 今日の今日、これから、今、あいつの両親がもう警察で待ってるんですか?」
「いえ、どうしてもとは。今日都合がつくなら、ご両親は合わせる、と言っています。けど、アカキさんにも都合があるでしょうし、というか、アカキさんに合わせるのが筋ですから。そこはアカキさんの裁量ですよ」
「今すぐ決めないとまずいですか? うーん、だったら、今日の今日っていうのは、ちょっと、さすがに。心の準備もあるし……。それに、気分じゃないです……」
「まあ、場所が場所ですからね。。ぜんぜん、無理に今日じゃなくてもいいですから。それにアカキさんでなくてもそうですし、アカキさんも、警察ってなると、えっって思っちゃうと思いますし。ただ、アラカワさんたちは、今日のつもりで来るようですよ」
「……佐々木さん」
「?」
「もしお願いしたら、そこに同席していただくことって、できますか?」
「こちらの予定もありますけど……、時間さえ都合付けば、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。先生、その時は、お願いします」
「それともう一つお知らせがあるんですよ」
「まだあるんですか。 悪い知らせですか?いい知らせですか?」
もったいぶりすぎだろう……。
「いい知らせ、だと思います。さっき連絡がありまして」
「あぃ。」
「採用選考の結果です」
僕は、
それを聞いて、息が止まりそうになった。
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