夢から醒めて
ピッ、ピッ、ピッ、と規則的な音が聞こえる。こんな目覚めは何度目か。僕はまた死のうとしたみたい。いつも、死のうと行動するのは無意識のうちなんだ。
内容は覚えていないけど、何故かとても長くて幸せな夢を見ていた気がする。今日も僕はひとりぼっち。ここに来るのは先生ぐらい。
けど、変わらず僕のとなりに居てくれる子がいる。ピッ、ピッ、という規則正しい音は次第に声へと変化する。
「あ、おはよう。目が覚めたんだね」
「うん、おはよう。で、今回は起きるのに何日ぐらいかかったの?」
「3日だね」
彼女は、僕が知らない
「そっか、僕はまだ生きているんだね」
「うん、今回も死ねなかったね。でもさ、なんでそんなに死のうとするの?」
今日も彼女はいつもの問い掛けをする。いつも通り、僕はそれに答えない。これが、特殊な僕らの日常だから。
暫くの沈黙の後、彼女は諦めたように呟いた。
「君は変わらず強情だね。そんなに死にたいならここから出してもらえるように行動すればいいのに」
「君が、僕の日常には必要なんだよ」
いつもなら言わないのに、今日はすらすらと、止めどなく言葉が口から発せられる。きっと、さっきまで見ていた幸せな夢のせいだ。
「綺麗で繰り返し言葉を紡ぐ君の声は、この病室でしか聞こえない。外の世界に君は居なくて、それがとても怖いんだ。耐えられないんだ」
だから、僕はここに戻ってくる。頭に染み付いた景色と色褪せた君、青白くなった君の顔を、電子音と綺麗な声でもう一度塗りつぶすために。
「ひゅー、告白されちゃった。今日はいつにもまして正直で情熱的だねぇ。今なら死にたい理由も言えるんじゃない?」
彼女に促されて、つい言葉が口をつく。
「寂しいんだ。君が居ない日常は。だから、君に会いたくて死にたいんだ」
一度溢れてしまった言葉は止められない。気付かないようにしていた言葉。目を背け続けていた事実。きっと、続きを言えば君は居なくなってしまうのに。
「とっくの昔に死んでしまった君と、もう一度同じ時間を過ごしたいんだよ。生きてても君には会えないから死にたいんだよ」
「良くできました。今度こそ終わりだね」
声は温度を失って、もとの機械音に戻った。
僕の告白は、誰に届くんだろう。君に、届いているんだろうか。
そういえば、記念日に近いものがあったね。うっすらとしか見えない夢の続きを考える。僕たちにとっては全く逆のものだけど、君にとってはあの日も記念日になるのかもね。
命日。君が退院して、事故にあったあの日。もう、病気が悪化して入退院を繰り返すことも無い。病気の苦しみを味わうこともない。苦しみから、解放された日。
目から一粒だけ涙が流れた。君が消えた病室には、寂しい以外の言葉は似合わない。
僕はまた、目をつぶった。また、幸せな夢を見れるように。深い、深い所へ沈むように、沈めるように祈りながら、もう一度、静かな眠りについた。
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