記念日を祝う意味
「ねえねえ、君は今日なんの日か知ってるー?」
いつもと違う言葉。いつもと毛色が違いすぎて僕には理解が出来なかった。
「は?」
つい、声が出てしまった。彼女は呆けた表情をして、
「君、喋れないんだと思ってた」
と一言言ってにっこり笑った。正直、面倒だから喋らなかった。それだけなのに。大人たちは勝手に勘違いして
『ついに声すら失ってしまったのか』
と僕に言った。あいつらは勝手に僕を決めつける。僕は区別されることが嫌いなんだ。
「君は『男』で『喋れなくて』『健康じゃなくて』『入院している』」
一つ一つジャンル分けされて、うわべすら見ずに僕を決めつける。僕は他人に定義され、行動を予測、パターン化してそれにそぐわぬ行動をすれば
「大丈夫?」
だなんてろくに僕を知らないくせに勝手に心配する。邪魔なんだよ。全部全部。
けど、この子はこの話に関係ない。一度声を出してしまったんだ。諦めなきゃ。
「で、今日はなんの日だって?」
「えっとね、私たちが会って1ヶ月記念日。あと君が初めて私に声を聞かせてくれた記念日!」
記念日?
「ああ、そんなに経つんだ。で、今日はどうしてここに来たの」
「記念日のお祝いだよ、お・い・わ・い。わかる?」
記念日なんて祝って何になるって言うんだよ。面倒臭い。
「なんで記念日を祝わなきゃいけないの。面倒じゃん」
「そりゃ、たまには祝い事をして気分を変えないとやっていけないからだよ。祝い事をするのにも理由をつけないとだらけられないなんて現代社会って大変だよね。それと、生きていく上で気分転換は大事だよ?」
いつにも増して饒舌だ。しかも、死にたがりの僕に『生きていく上で』だなんていう言葉を使うなんてね。
「僕は君に喋らされたという点で気分転換出来たからもういいよ」
精一杯オブラートに包んだ僕の言葉。君はどう感じるの?
「……君、もう少し可愛い子だって勝手に思ってた」
楽しそうに君は笑う。
「知らないよそんなこと。他人の印象なんて僕には関係ない」
「君は強いねー。……あ、もう時間だから帰るね。バイバイ」
部屋を変えてもら……だめだ。迷惑をかけてしまう。ああ、面倒臭い。
でも、記念日を祝う意味って本当になんだろう。誕生日も記念日だけど、そこまで祝う必要を感じない。生まれてきてありがとうって気持ちを伝えるため?
明日生きてるかすら確定できることじゃないんだから、もっと日常と言葉を大事にして生きていればわざわざ節目の日を作ってから祝うのは無駄だと思うんだよね。
最後にお祝いをしたのっていつだっけ。あの頃は幸せだったのは覚えているんだけど、思い出せない。
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