病室で僕は
ヤト
間違いと嘘
いつからかはよく覚えていないけど、僕は病院に入院している。いつも、病室のベッドでひとりぼっち。僕は死にたいのに、ここでは無理やり生かされる。生きてるから死にたいのだけなのに。
だけど、生きているのに生きたいっていう人もいる。それなら死んでも死にたいって思うことはあるんだろうか。
生きている人がそれを言うときは死が迫ってるだとか生きる理由をみつけたとき?
生きたいなんて思わないから想像出来ないけど、たぶんこんな感じなのかな。
なら、死んでるのにまだ死にたいって言い続ける人は、生きていた時のことを思い出して更に深いところに沈みたくなったっていう感じなのかな。
反対のことが寄り添っているときに、まだ現状を続けたり、繰り返したくなるのかな。
まあ、僕にはよくわからないんだけどね。暇を持て余していて考え事をしているだけだから。
僕はなんでこんなにも死にたいんだろう。学校に馴染めなかったとかは全くなかった。楽しかったけど、心のなかでは常に冷めた目でみんなを見る僕がいた。
死にたい理由なんて特にないけど、なんとなく死ぬと変わることは何か考えてみようかな。
生き物は生きていればたくさん区別される。けど死んだら全部死体、死骸。生きている時は特に何も思われていない人にも、死んだら形だけでも悲しまれたり喜ばれたり。死ぬことを機転として感情を持たれる。
失うことは大きいこと? それなら反対の得ることも大きいこと? 何かを得ても気付かないこともあるのに?
あ、でもたとえ何かを得て喜んでも時間が経てば薄れちゃうね。感情に関わるものは全部そこに落ち着くのかな。
僕は暇をもて余して、今日も無駄で答えがない、自分だけでてきとーな答えを出せても全く意味がないことを考える。
────
いつしか僕の病室に、1人の少女が通うようになっていた。
たしか、出会いは突然彼女がこの病室に飛び込んできたことだった気がする。かくれんぼとかおにごっこなら人に迷惑をかけないで他所でやって欲しかったんだけど、彼女の病室がここから近くて、間違えてここに逃げ込んできちゃったみたいでなんか許しちゃったんだよね。
たぶん、それが間違いだったんだと思う。
────
名前も知らないあの子は、行動を起こした死にたがりの僕に今日もいつもと同じように、哀しそうに微笑みながら言葉を掛ける。
「生きて」「なんでそんなに苦しそうなの」「無理しないで」「私のこと、頼ってくれてもいいんだよ?」「幸せってなんだろうね」「ねえ、君はどう思うの」
生憎、僕は声がでないんだ。言いたいことはたくさんあるけど、わざわざ君のために字を打つ事が煩わしくて。ごめんねって口を動かして見るけど、彼女に届いているかもわからない。
彼女がここを訪ねるときは、僕が死の淵から帰ってきたとき。
────
今日は珍しくメールを打っている。ここの病院は一部電子機器の持ち込みが可能なところだから、その機器にメールを残しておくんだ。別に遺書って訳じゃないけど、このメールは送られることのないメール。
君は無理するなって、もっと頼れって言ったけど、僕にとって生きていることは無理をしないと続けられなくて、誰かを頼ることもたくさん無理しないと出来ないのに。
君は僕じゃないから、分からないから心配をしてくれてるんだろうけど、僕にとって君の存在はお節介だと思ってしまうんだ。
君のためにも、僕のためにも、僕に無理をさせたくないなら早くどこかに行ってよ。僕の病室に二度と来ないで。それが僕らが幸せになれるたった1つの道だと思うから。
君は相も変わらず僕に『死なないで』って言うけど、君と同じように僕も変わってないからやっぱり死のうって、死にたいって思うんだ。病院では無理があるから、まだ死ぬのは先の話だけどね。
僕が強情だって? お互い様でしょ。もし君の気が変わっても、僕は気持ちを変えるつもりはないし、変わるつもりもないから。僕への期待なんて早く捨ててよ。僕だって、君のシアワセを願ってるんだよ?
どう頑張っても他人事だから偽善にしか聞こえないって君すら思ってるのかもしれないけど、一応、それが『君の本心』だってことは感じるよ。
君だって、僕の言葉の半分が本心からのものだってことぐらいわかるでしょ?
ということで、もうそろそろ諦めてくれない? 君がいて、僕の話し相手になってくれることでお医者サマに全てが伝わっていることも感じ取れるんだけど。
あと、この部屋にはカメラがあるでしょ? 僕、見られるのが嫌だから減らしたり隠したりしてくれないか聞いてみてよ。無くすことは出来ないことぐらいはわかってるから。さ、今日はもう帰ってよ。疲れたから眠りたいんだけど。
添い寝なんて要らないよ。君では僕を眠りの世界に導けない。永遠の眠りならプレゼントしてくれそうだけど、生憎僕は自分の命を他人に預けるのが嫌いなんだ。どうせならもっとオクスリを持ってきてよ。それこそ、死ねるくらいの量を。それを飲めばぐっすり眠れるから。
僕は彼女がここに居るときにメールを打っている事が多くなった。これは僕が彼女へ気持ちを伝えるための、一種のラブレターの様なものだから。
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