弱肉強食焼きそばパン

うちのクラスは全部で40人。理系クラスのため、男子が女子よりも8人多い。現在5月。新クラス結成から1か月ほどが経つが、やはりカーストなるものが少しずつできてきている。


まず目立つのが、野球部やサッカー部と、それを取り巻くパーリー女子から成る通称「ウェイ」集団。まるで永久機関のように、無尽蔵に騒ぐ。おじいちゃんになってもあんな感じなのだろうか。是非研究してみたい。


そして「ウェイ」の対極にある「非ウェイ」集団。なにを話しているのかよく分からないが、まあ楽しそうだ。


最後に、誰とも群れない一匹狼たち。狼っぽくなくても一匹ならここに入れよう。オレも隣の席の雪葉もおそらく最後のカテゴリに入る。


まあどこのクラスにでも見られる普通の群形成だ。特筆すべきことは特にない。ただー


「おい、焼きそばパン買ってこいよ!」


「さ、さっきの休み時間食べたばかりじゃないですか…」


「うるせえ!オレは毎休み時間焼きそばパンを食べたいんだ!」


「そ、そんなんだから焼きそばみたいな髪型に…」


ボコっ‼︎


後ろで繰り広げられる、いつもの光景。絵に描いたような不良、山下 達彦が宇都 良平をいじめているのだ。宇都は細やかな抵抗を見せているものの全く効果なし。周りの人間は見て見ぬ振りを決めている。


「ほんと、目障りね。なんの手違いで生まれてきたのかしら。」


雪葉がいつものように毒を吐いている。


「案外神様の自信作かもしれないぞ。存在までを否定するな」


なんとなく山下の肩を持つ。正直どちらでも良いが。


「あら、それなら私が神になった方がマシみたいね。」


「お前は世界を滅ぼしたいんだろ…まあとにかく、いつまでも放って置くわけにはいかないよな」


「何か考えでも?」


「いや、別に。後であいつと話してみる」


「宇都と?」


「うん」







5月6日。ゴールデンウィーク開け最初の登校日。オレと宇都はゴールデンウィーク中、入念に作戦を練った。上手く行くかは分からない。ただ自分が面白いように計画を練り、後から最もらしい理由で外壁を作っただけ。どっちに転ぼうが、きっと面白いものが見られるだろう。


「おい、宇都、お前、焼きそばパン買ってこいよ!」


1時間目の休み時間、教室の後ろでいつも通りのやりとりが始まった。


「ねえ、弘明。何か解決策を考えてたのではなかったのかしら⁇」


雪葉が不安そうにこちらを見る。


「いや、解決するかは分からないが…現状は変わるはず。まあみててくれ。」


宇都は焼きそばパンを買うために出て行ったようだ。


「ったく…あいつなんで買い溜めとかないんだよ…」


「ただいま!」


「うおっ、はやっ!」


宇都は10秒程で教室に戻ってきた。


「お、おい。早いのはいいんだが、何だそれは⁇」


「国産牛フィレ肉のポワレ 季節の温野菜とマスタードソース オレンジの香りを纏ったブールパチューだよ!」


「…お、おう。焼きそばパンではないのな。」


「山下くんの健康面が心配だったから、少し変化を持たせようと思って…二食あるから一緒に食べよう!」


「ま、まあたまには他のもありだな、うん。食うか。」


別世界の食べ物に動揺しているのか、山下にいつもの勢いは無かった。2人で高級フレンチを食し始める。


「あなた、本物のバカなの⁇ どんな思考回路していたら焼きそばパンと高級フレンチをすり替えようと思うのよ。」


雪葉が後方をチラチラみながら囁く。


「ほら、あれだ。おいしい食事を通して、幸せを共有すれば、その人との時間=幸せ という意識が根付くだろ。そうすればいつの間にか親友ってわけだ」


ガラガラー


おっと、ここで数学の先生の登場。


「よーし、数学の授業を始め…ん⁇ おい! お前ら!これから授業なのに何食っとんじゃ!」


「国産牛フィレ肉のポワレ 季節の温野菜とマスタードソース オレンジの香りを纏ったブールパチューです!」


「プルーパっ、ブ…後で職員室に来い!」





その後も、宇都は山下に高級料理を与え続けた。


「今日はミシュランにも掲載されている極上そばだよ!」

「そ、そうか…」


「今日はA5ランク黒毛和牛を使ったビーフかつだよ!」

「お、おう…すごいな…黒毛和牛か。」


「今日は、昨日ウユニ塩原で採った天然の塩を持って来たよ!」

「なんだ今日は塩か…ってウユニ塩原‼︎‼︎‼︎ こっから30時間以上かかるぜ⁉︎ それに高度も4000m近くあるし決して楽な旅ではないはずだぜ⁉︎」



「今日は朝イチで採れた宮崎県産のマンゴーを空輸で…」


「お、おい!ちょっと待て…これ、金はどっから出てんだよ!最近おかしくねえか⁉︎」


ある日、山下がついに突っ込んだ。


「そう⁇お金のことは全然気にしなくていいよ!」


「いや気になるだろ‼︎ お前の父ちゃん何してんだよ、どう考えても普通じゃねえだろ! どこの高校生が土日にウユニ塩湖行って塩を取ってくるんだ⁉︎」


「まあそんなことは置いといて、マンゴーを…」


「ああ!今日はいい!お前が食え!」


そう言い残し、山下は教室から出て行った。作戦はなかなか順調のようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

紡いで織って @Pontakorin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ