ジャックと

金水 春子

何が正義?

昔々、あるところにジャックという少年がおりました。彼の住むところの上の世界には、巨人たちが住んでいました。その巨人たちの中にケビンという名の男がいました。

ここで彼ら、巨人たちについて説明しておきましょう。彼らの体長は平均で約6メートル、体重は600kgほどであり、性格は非常に穏やかで、下の世界に住む人間たちのことをか弱いが尊敬すべきものと見ていました。あっ!もちろん性別はありますよ!

そして、彼らは非常に"約束"というものを重んじる文化を持っていました。

と、まあこんな感じでしょうか。

しかし、ケビンは違いました。彼の体長は約8メートルほど、体重は900kgもありました。また、その大きすぎる体のせいで小さい頃からいじめられていました。そのせいで彼は家の中にずっと閉じこもっていました。

巨人たちにとって、下の世界に住む人間たちと関わることは禁忌に近いことでした。しかし、ケビンは下の世界に行ってみたいと思っていました。

彼は入念に計画を立てました。計画の上に計画を立てました。

そしてある夜、下の世界と上の世界に住んでいる全ての生き物が寝静まった頃、彼は動き出しました。

「やべえな。すげぇ緊張する笑 ん?ありゃなんだ? うわぁ!」







木の枝でした。


「なんだよ!驚かせんなよな。」


そんなこんなで彼は遂に下の世界へと下り立ちました。


「イヤッホーー! 遂に俺は来たんだ! 下の世界に!」


ここで日が出てきたので、彼は計画に従い、一旦山に身を隠すことにしました。

しかし、彼はここで大きな過ちを犯してしまいました。上の世界では基本的に彼らの一日は日が昇ってから始まります。しかし下の世界では、貧しいがために、日が昇る前から働いている人々がいたのです。貧しい木こりであるジャックの父親のマークもその一人でした。

「んあ〜。今日も眠いべ〜。早くノルマ達成して帰りてぇなあ〜。」


ここで彼はあるものを見ます。


「ん? んんんんん? なんじゃありゃ?」


そして、彼は気付いてしまいます。


「あ!ありゃもしかして伝説の巨人じゃねえんか?」


ここで彼はよしておけばよいのにケビンこと伝説の巨人に話しかけてしまいます。


「おぅ〜い!そこのあんた!名前なんてんだい?」


ケビンは後ろから声がしたのでこれまでにないほど驚きました。そして振り返り、こう言いました。


「どどどどどどうされましたかかぁ? マドモアゼルウゥ?ケビンですけどオオオ?」


「おんどろいたぁ!ほんとにおったんだな〜。」


「ななな、何がですかぁ?プリマドンナァ?」


「巨人」


「わわワッわたしが巨人なわけないじゃないすか!わたしはただホカノヒトヨリモホネガフトイダケデスヨ!オホホホ!」


「これはみんなにちょっとした土産ができたべ笑」


「ん?土産とは?」


ここで少しケビンは冷静になってきました。


「そんなもん、あんたのことに決まっとるがな。村に帰ったらみんなに話してやるべ。おら、巨人を見たんだどぉ!!ってなあ笑」


ここでケビンはまずいと思いました。

上の世界から下の世界はいつでも見ることができます。もしも、この男にケビンのことを言いふらされたりしたら、ケビンが下の世界に行ったことがばれ、他の巨人たちから大目玉をくらうことは確実です。そこで、彼はこう言いました。


「あの〜、すこし提案があるのですが…」


「ん?なんだべ?言ってみ?」


「貴方がほしいものをなんでも与えますので、私のことは黙っていてもらえませんか?」


「なんだ、そんなことだべか笑 ええべよ。それより、なんでもくれるんだべな?」


「ええ、なんでも差し上げましょう。」


貧しい彼は、考えました。

(もちろん、ほしいもんは金だべ。だどもほんとにそれでええんかろ?んん〜。)


しばらく考えた後、彼は言いました。


「靴をくんべ。」


「え!靴ですか!」


「ん。靴だ!」


ケビンは不思議に思いながらも彼の履いていた靴を渡しました。


「あんがとな! そんじゃ!」


彼はそう言うと、恐ろしい力で持って靴を持って帰ってしまいました。


彼はこう考えていました。


(金をもらうのもええが、巨人から貰ったこの靴を見世物にしたほうがうんと稼げるべ)


そして、彼は家へ帰るとまず彼の家族にこのことを話しました。当然、誰も信じません。しかし、まだ幼かったジャックは、純粋にこの話を信じました。


「ほ〜。巨人なんてモンがこの世の中におんのか。面白いなあ。」


そして、マークはこのことを町中

に言いふらしました。しかし、誰も信じるはずがありません。

翌日、マークは靴を持ってケビンのもとへ赴きました。

ケビンは、まだそこにいました。


「やっぱ返すわ。これ。」


「どうしてですか?せっかく貴方にあげましたのに。」


「これ使って、稼ごうと思ったんだべが誰も信じてくれなかったんべ、返すわ。」


ここでケビンは疑問に思いました。


「信じてくれなかったとは?」


「誰もあんたのこと信じてくんなかったんだべ。」


ここでケビンの疑いは確信へと変わり、約束を破った彼に対する怒りがこみ上げてきました。


「貴方は約束を破りました。よってここで私は貴方を殺害する!!」


そう言うと彼は、岩のような拳を振り下ろしました。


しかし、マークは人間としては強すぎました。

彼は5歳のとき、一撃でクマを沈め、その時点で村でも一番の猛者と言われていました。そして、その強さは木こりとして毎日斧を振るうことで、より一層磨き上げられ洗練されたものとなっていました。

彼の上にその拳が振り下ろされたとき、反射的に彼はもう反撃に入っていました。


「ウォラァァァァ!!!」

彼は一歩踏み出すと、ケビンの懐に入り込み彼の腹に右ストレートをブチかましました。

「グブホォォォ!」

彼は予想だにしない反撃に身を折りながらもその場に踏みとどまりました。

「アァァァ!!」

ケビンはマークの右腕を掴むと、そのまま地面に叩きつけました。

ドゴオオオン!!!

隕石でも落ちたかのような音が辺りに響き渡りました。

立ち込める砂煙の中、ケビンは流石にもう生きてはいまい、と思い、その場をあとにしようとしました。

しかし、突然彼は凄まじい雄叫びを聞いたかと思うと、地面に叩きつけられていました。

彼はすぐさま立ち上がり辺りを見回すと自分を叩きつけた何かを見つけました。

それは、マークでした。

彼は右腕を失い、全身血まみれとなりながらもまだその闘争心は失われていませんでした。

ケビンは、とどめを刺そうと再び身構えました。そして、瞬きした瞬間、マークの姿はケビンの視界から消えました。

「ん?何処にギイィォィ!!!」

マークの渾身の左アッパーカットがケビンの顎に突き刺さりました。

あまりの衝撃に、ダメージの蓄積されたマークの左腕は弾け飛び、ケビンの顎の骨は砕けました。




しばらくして、ケビンは自分が自分の部屋のベッドに突き刺さっていることに気が付きました。そして、彼は先程の戦いのことを思い出すと、身震いしながらもきちんと布団を掛けて再び彼の部屋に引きこもりました。

(寝れば、顎も俺の治癒力で治るし、少しは物事いい方に進んでいくさ)

と、思いながら。



その頃、マークのもとには轟音に飛び起きた村の人々が集まってきていました。マークは瀕死の状態にありながらもかろうじて生きていました。彼の側には泣き続ける彼の妻とジャックの姿がありました。マークは彼の家族にこう言いました。

「おらをこんなにしたのは、巨人の野郎だべ…。おらの仇は必ず討ってけれ…。」

こう、言い残すとマークは息絶えました。

彼の葬儀は厳かに執り行われました。彼の体は非常に燃えにくく核融合炉にて火葬ならぬ核融合葬されました。そして防護服を付けながらこの時、ジャックは心に刻み付けました。

「キョジンハオヤノカタキ」






この日から、ジャックは新聞配達をしたり、ミルクを売ったり、大工をしたりしてお金を稼ぎ家計を支える一方、そのお金の一部でプロテインを買い、仕事の合間に筋トレをし、マークに負けない逞しい体を鍛え上げつつ、巨人についての少ない情報を集めていました。



ジャックがこうしている間、ケビンも何もしていない訳ではありませんでした。

彼はライザップに通い、たるんだお腹を引き締め、界王様のもとで修行を積み界王拳を会得し、更には第一二三回天下一武道会で見事優勝を勝ち取るなど、鍛錬を積んでいました。


そして数年がたったある日、どうやら上の世界に巨人は住んでいるらしいという情報を得たジャックは、その脚力にものを言わせ、上の世界へと旅立ちました。


彼は上の世界ヘ着くと、父が言っていたケビンという名を頼りに探し回りました。

そして、遂に彼はケビンを見つけました。








彼は、上の世界のある孤島で彼を待っていました。


「よくここまで来たな。しかし、お前はここで終わりだ。人間よ。か弱きものはか弱くあるべきだったのだ。お前達は強くなりすぎた。私もあの時はかなり危なかった。だがしかし、私はあれから修行を積み強くなったんだ。だから約束を破ったお前達にもう負けは…」


「話が長すぎるべッッッ!」


ケビンの腹にジャックの飛び蹴りが決まり、ケビンは10メートルほど後ろへ吹っ飛ばされました。


「ほう、なかなかやるじゃないか。私も本気でいかせてもらおう。」


そう言うと彼の体が赤いオーラに包まれ、


「界王拳ッッッ!!!」


と、叫びました。

そして、ケビンは地面を勢いよく蹴ると、

「壊岩衝!!!」

赤いオーラに包まれた右手を広げジャックに掌底を叩き込みました。

その時ジャックが、

「CRANKUP!FirstStep!!」

と叫ぶと、ジャックの体は緑のオーラに包まれました。そして、ケビンの掌底をひらりと躱し、そのまま彼の右肘目がけて

「ORDINARY KICK!!」

と、叫び、回し蹴りをしました。

バゴオッッッ!!

ケビンの掌底は、ジャックではなく、ジャックの先程までいたところの、少し左側に大穴を開けました。

ケビンは、ジャックの蹴りによって少しバランスを崩しました。 ジャックはその隙を見逃さず、すかさず攻勢に打って出ました。

ジャックは、ケビンの巨体を駆け上がると、

「A LITTLE STRONGER HEEL DROP!!!」

と、叫び、強烈な踵落としをケビンの頭にめり込ませました。

ドゴスウッッッ!!!

鈍い音がし、ケビンの体が膝まで地面にめり込みました。そのまま、追い打ちをかけるようにジャックは、 

「IN FIGHT!!!」

と、右ストレート、左ストレートの乱打を叩き込みました。

ドゴゴゴゴゴッッッッ!!

ケビンは頭まで埋まっていました。

ジャックは、勝利を確信してその場から立ち去ろうとしました。その時です。

ズズズズズズズズズゥ!!

地面が揺れ始め、

ズドオオオーン!!

辺り一帯が吹き飛びました。

そして、その中心には赤いオーラを纏ったケビンが立っていました。


「ちょうどいいヘッドスパであった。今度はこちらの番だ!!!」


そう言うと、

「禍甌婀!!!」

と叫びました。すると、彼の体がみるみる縮み始め、ジャックほどの大きさになりました。

 

「これで動きやすくなった。では、いくぞ!!!」

 

 と、言うと、ジャックとの間合いを一気に詰め、

「重衝!!!」

 とジャックに飛び蹴りをしました。ジャックは不意をつかれ、後ろへ吹っ飛ばされました。ケビンは、ジャックの後ろへまわると、そのまま上に蹴り上げました。

ドコオッッッッ!!

ジャックは上に飛びながら姿勢を立て直そうと、下を見ました。しかし、そこにケビンの姿はありませんでした。

「!!」

ジャックが後ろに殺気を感じ、振り返ると、

「雷落!!!」

ケビンに強烈な踵落としを受け、

ドズウゥゥゥゥン!!!

地面に叩きつけられました。

そこにケビンが、

「雷落! ニノ舞!!」 

と追撃をかけました。

ドッズウゥゥゥゥン!!!!!

一度目以上の衝撃がジャックを襲いました。

 

ケビンは、地に伏せたまま動かないジャックにこう言いました。

 

「お前達はどうやっても私に勝つことなどはできないのだよ。」

 

すると、ジャックはこう言いました。

 

「No. I absolutely win!」

 

そう言うとジャックは、

「CRANKUP!!SecondStep!!」

と叫び、ケビンを蹴り上げました。そしてジャックも跳び上がると、

「METEOR DANCE!!!」

と叫び、ケビンを空中で蹴り飛ばしては、後ろに回り込んで蹴り飛ばすことを繰り返し、

「This is the final!!!」

と言うと、ケビンを更に高く蹴り上げ、そのさらに上にまわり、

「CRANKUP!!LastStep!!」

と叫びました。すると、彼の緑のオーラが蒼くバーナーのような激しいものへと変わり、

「CLASH!!!!!」

と叫ぶと、ケビンを蹴り落とし、地面に叩きつけました。

ドゴオオオン!!!

これまでにないほどの轟音と大量の土煙が舞い上がりました。

その土煙の中でジャックは、今度こそこれでもう終わったと思いました。しかし、

 

「今のはなかなか効いたぞ〜。」

 

 ケビンは、無傷でした。ジャックの超大技を受けたにも関わらずです。

ジャックにはもう打つ手がありませんでした。

「ウウウウゥゥゥゥゥッ!」

ジャックは絶望しました。

「どうした、呻いても私の強さは変わらんぞ?」

「ウガアァァァ!!!」

ジャックは獣のように吠えました。

 

 すると、彼の体に変化が現れました。彼の褐色の肌は黒く染まり、額には二本の角、背中にはコウモリのような翼が生え、爪は鉤爪、歯は牙となり、黒く尖ったものへと変貌を遂げました。

「なんだと!!まだ力を隠し持っていたのか!」

 ケビンは驚きながらも、ジャックの攻撃に備えるべく、拳を構えました。

「ギイィィィィィッ!!」

 ジャックは黒板を引っ掻いたような声を上げると、ケビンへ向けて口からレーザーのようなものを放ちました。

 「!!」

ケビンはとっさに左へ避けました。

バゴオオオオッッッンンンン!!

遠くに見える陸地が吹き飛んだのがケビンにも見えました。

「なんて威力だ。ん!まずい!」

時すでに遅し、もう既にジャックは追撃に入っていました。

「ギイィイイイ!!!」 

ジャックの右腕が黒いオーラに包まれ、そのままケビンに殴りかかりました。

「ぬうん!!!」

ケビンはとっさに防御の姿勢に入りました。しかし、後ろにものすごい勢いで吹っ飛ばされました。

「くっ!こんなものそう何発も食らってられん。む?」

「ギイィィィ!!」

ガッ!

ケビンは首を掴まれ、苦しそうに悶えますが、

ドコオッッッッ!

地面に叩きつけられ、ジャックはその手を放すことなくそのまま、

ギイャャャァァ!!

レーザーのようなものをケビンを掴んだ右手から放ちました。

「ぐおおおおおっっ!」

ドコオオオオン!!

ケビンはなんとか耐えきりましたが、その威力はやはり凄まじく、上の世界を貫き、ケビンを下の世界に叩きつけました。

 

「このままでは、この世界が崩壊しかねん。だが、私の力では倒すことはできない。ならば!」

 

と何か独り言をケビンは言うと、

「虚無澄虎驅屠亞弑褸蹙穢唖!」

と、唱えました。

すると、地面に赤い円が浮かび上がりました。

そこへジャックがロケットのような勢いで着地すると、

ギイィィィィィィ!!!

雄叫びを上げました。

「今だ!!」

ケビンはそう言うと、

「髏苦!!!」

と唱え拳を上に上げました。

すると、ジャックの周りの円が光り輝き、そこから何本もの紐のようなものが伸び、ジャックを縛り上げました。

ガッ?!グガアッッ!!

ジャックは暴れ回りますが解けません。そして、ついにその時が訪れます。

「封殺!!!」

とケビンが叫び、それと同時に拳を振り下ろすと、そのまま紐のようなものがジャックをより強く縛り上げ、さらに巨大な釘のようなものがジャックの上から落下し、彼を地中深くうずめました。

 

しばらくして、赤い円の光も収まり、ジャックを封印したことが確実なものとなると、

「やっと終わった。しかし、こんなものがいるとは。」

と、ケビンは言うと上の世界へと戻っていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの壮絶な戦いから数年後、壮絶な修行に耐え抜いたおかげで、トラウマを克服したケビンは結婚し、平和な家庭を築いていました。

 一方のジャックはというと、封印され続けあのままの状態でした。


 

 

 

 

 

 「グルルルル……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん?なんか杭がうごいたような気がしましたがきっと気のせいでしょう。

 

 

 

 

 

 

 おしまいおしまい

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ジャックと 金水 春子 @asaZuKE

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