復讐代行やってます。
@gominantoP
第1話
数週間ぶりに事務所の扉が開き、彼は顔を上げた。玄関に立つ女は、この前書類に書かれた金額に激怒してすぐここを出て行ったふざけた女とは全く違った雰囲気だ。
暗く暗く、奥底に確かな覚悟を据えた表情に、彼は新たな仕事を予感する。
「まぁ、上がりな。」
適当に片付けられた部屋のど真ん中、机を挟んで向かい合うソファーに、二人は座った。
目標は元夫、最たる動機はたった一人の愛娘を連れていかれたことだそうだ。
彼は復讐を主に請け負う、極めて異質とされる殺し屋である。報酬に求めるのは誰であろうと同じ。全財産の9割、その用意ができ次第彼は仕事を遂行する。一度受ければまともな生活は送れないであろう法外なその金額設定は、しかし誰でも受けることができる。実際彼は、ある少年のクラスメイトを、数千円で皆殺しにしたことがある。そして彼は、報酬の用意が済めば、一週間以内の依頼の完遂を約束する。
目の前で淡々と、機械的に印を押していく彼女にも、同じくそれを約束した。
ふと、笑い声が不自然に途切れる。少女が振り返ると、音もなく息絶えた父親が、今なお広がり続ける血溜まりに沈む。戸惑い、そして受け入れられずに泣きわめく少女の声を、彼は少し遠くから聞いていた。その声は彼の頭の中で反響し、鋭い頭痛のように襲いかかった。
何もこんな状況は初めてではなかった、だが。
やめてくれ。
これじゃあまるで、あいつらみたいじゃあないか。
数日後、口座に入った高額の報酬を前に、まだあの悲鳴が忘れられずにいた。
もともと彼はあの立場にいた。幼い頃に両親を殺され、やぶれかぶれで銃を握り、復讐を遂げた。あの奇跡をあらゆる弱者に与えるため、彼は今のような殺し屋になったのだ。
そのはずだったのに、少女の目に映る男は、きっとあいつらと変わりないだろう。
だが、止まるわけにはいかない。復讐とはそういうものだ。その覚悟がないなら、復讐も、それを代行することも、すべきではないのだ。そうだ。復讐とは、きっとそういうものだ。そうだ。復讐というのは。
インターホンが鳴り、彼は応える。
「どうぞ」
開いた扉の先には、不気味な雰囲気を纏った少女。おそらくは高校生ぐらいだろうか。
「…まぁ、上がりな。」
適当に片付けられた部屋のど真ん中、机を挟んで向かい合うソファーに、二人は座った。
復讐代行やってます。 @gominantoP
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