「時間」ノハナシ
「目が覚める」
最近、夜中に急に目が覚めることが多くなった。突然意識がハッキリしたかと思うと、目が冴えて瞑っていることに耐えられなくなる。そしてきまって頭痛がしていた。窓の外を見ても真っ暗なので夜中だろうとは思っていたが、わざわざ時計を確認することもなかった。
ある日、同じように目が覚めた私はふと時間を確認したくなった。時計を見ると短針は6を指していた。窓の外を見るといつものように真っ暗で、とても午前6時の景色ではなかった。これが冬ならまだしも今は春、さすがに日が昇って町は活気を帯びだしているに違いない。時計が壊れているのかと思ったが、眠気には勝てずそのまま目を瞑ってしまった。
次の日、また同じ時間に目が覚める。外はやはり真っ暗で、しかし今朝直したはずの時計はなぜか5を指していた。どうにもおかしいと思って机の上に置いてあったスマホの電源を入れた。すると時計は午前2時を示していた。どうして今朝直したはずの時計が狂った時間を指しているのか。わけも分からないまま、頭痛を引きずりつつ寝ることにした。
また次の日、真っ暗の中目が覚めて確信した。時計は4を指し、しかし実際の時刻は昨日同様午前2時だった。カウントダウンだ。頭痛も日に日に酷くなる。何をカウントしているのか皆目検討つかないけれど、きっと私にとってよくないことなのは事実だろう。
「ストップウォッチ」
学校の体育館裏にある倉庫で古いストップウォッチを見つけた。画面に『99.99』と表示されており、一度ボタンを押してみるとその数字が減り始めた。不思議に思いつつ10秒経過したところで止めた。その場で捨ててもよかったのだけど、どうしてか持っていたくなって教室まで持ち込んだ。
眠くて仕方の無い午後の授業、僕は手持ち無沙汰になってストップウォッチを取り出し、カチッとボタンを押した。その瞬間教室が静寂に包まれた。それに気がついて顔を上げると、その場にいる全員がマネキンのごとく動きを止めていた。しかし手元のストップウォッチだけはその動きを止めていなかった。数字はどんどん減っていく。
「まさかこれ……」
時を止めるストップウォッチ。僕はその力を確信し、あらゆる場面で使い始めた。
遅刻しそうな時、宿題が終わりそうにない時、物を盗む時、女性に性的いたずらをはたらく時。もはや理性が働くこともなく、際限なくこの力を使い続けた。
ある日、学校でテストがあった。僕はなんの躊躇いもなくストップウォッチを押した。皆が解答を終えた頃合を見計らって時間を止めて成績優秀者の解答を覗きに行く。しかしうっかりしていた、ストップウォッチの時間がついに『00.00』になってしまった。僕は慌ててボタンを押したが、時間は止まったままだった。結局、時間が進み始めることは無かった。
100年後、僕はまだあの教室にいる。年も取らず、時間の凍結されたこの教室のドアは開かない。100年というのも憶測に過ぎない。僕はこのまま、この教室で永遠にカンニングを続けるのだ。
「あと一秒」
1分が61秒になった。地球の公転にほんの僅かなズレが生じ、時間が歪んだ。
今、私は運命の時を迎える。1分この熱湯に浸かり続ければ借金をチャラにし、家に帰してくれるという。
「ごじゅうなな〜ごじゅうはち〜」
隣で人相の悪い男が私のこめかみに拳銃を突きつけて時間を数える。
「ごじゅうきゅ〜う、ろくじゅ〜う」
ここで私は失念していた。61秒への変更はつい一週間前、まだ体に馴染んでいなかった。思い切り体を持ち上げ、どうだと言わんばかりに男を見た。
「はい、残念でした」
男の不気味な笑いは、軽い銃声と共に闇に消えていった。
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