「電話」ノハナシ
「呼んでる」
大学生になってから一人暮らしの私が楽しみにしているのは、友人との電話だ。
毎晩とは言わずとも、かなりの頻度で電話での会話を楽しんでいる。別に大したことを話しているわけじゃないけれど、単位が危ないとか、自炊が味気ないとか、あんまり他の人にベラベラ話せないようなこともお互い話してきた。
だけど、そんな楽しみがついに奪われることになったのは、ある日の夜、いつも通り部屋で一人、電話で話しているときのことだった。ふと、友人が電話越しに言ったのだ。
「ねえねえ、今日はなんか騒がしいね」
「え、そう? 別に外は静かだけど」
「いや、違う違う。さっきから奥であんたの名前ずっと呼んでるじゃん」
「留守番電話」
最近、同じ番号から何回も留守番電話が入っている。
時間帯は私の出勤中、どれを聞いてもほぼ無音で、微かに息遣いが聞こえてくる程度のものだった。いたずら電話なのか、もしかしたらストーカーの仕業かもしれないと思って不安ではいたけれど、これ以上に目立った実害もなく、相談するにもできずにいた。
ある日会社に着いてから会議用の資料を忘れたことに気が付き、家まで取りに戻ったことがあった。急いで家に入ると固定電話の着信音がけたたましく鳴り響いていたのだ。机の上の資料を手に取ってから発信元を見ると、留守番電話のあの電話番号だった。思い切って受話器を取ると、「えっ」という低い声が聞こえ、奥の寝室からガタンという物音が聞こえた。
「噂の番号」
学校で一時期、そこに電話をかけると死人に繋がるという電話番号があった。まだ幼かった私とその友人たちはそんな噂を信じ、放課後に残って検証しようという話になった。仲の良かった五人で集まり、順番にその番号に電話をかけていくという方法だった。一人目、二人目と繋がらず、三人目の私も《おかけになった電話番号は現在使われておりません》と聞き慣れた音声が流れるだけだった。四人目も繋がらず、やっぱりデタラメだったねと笑いながら五人目が電話をかける。他の四人で話しながら待っていると、突然その子が悲鳴を上げて持っていた携帯電話を放り投げた。どうしたのかとその子に訊ねると、涙目で震えながら「つながった」と答えた。私は慌てて携帯電話を拾って聞いてみたが、プープーと切断音が聞こえるばかりだった。
あの噂が果たして本当だったのか、あの時五人目のあの子が何を聞いたのかはわからない。だけど、声を聞いたと言ったあの子が三か月後に交通事故で死んだという事実が今も記憶にこびりついている。
「お礼の電話」
父が死んだ。仕事を辞めてから酒に溺れ、パチンコにのめりこみ、母や私に暴力を振るっていた父が車に撥ねられて死んだ。葬式や何やらでドタバタした一週間後、家に頻繁に電話がかかってきた。いつもすぐに母が出ていたので一体誰からかかってきているのか、何の話をしているのかは分からなかった。ただ、母はいつも電話越しに相手にお礼を言っていた。一度、母が留守中に電話がかかってきて、私は好奇心からついその電話を取った。
「もしもし……お母さん居るかな、お父さんの保険金のことでお話があるんだけど」
そこまで聞いて、母が帰宅し慌てて私の手から受話器を奪い取って話し始めた。そしてまたお礼を言うのだ。
……私の記憶が正しければ、前に家に来た保険会社の人の声とは、違っているように感じた。
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