「写真」ノハナシ
「一人だけ」
仲のいい五人で旅行に行った時の話だ。皆で計画したスポットを回り、その度全員で写真を撮っていた。一日中動き回り、疲れもピークに達したところで宿に向かった。広くて綺麗な旅館に満足し、五人いても十分のびのびできる部屋で夕食を食べて、各々自由に休んでいた。ふと一人がカメラを取り出して今日撮った写真でも見ようと言った。他の四人も集まって写真を見ながらエピソードを語り合っていたのだが、何かに気が付いた。
「一人だけ顔に靄がかかったようになってるよ」
どの写真を見ても一人だけ顔が映っていなかったのだ。どうしてこんなことに、と気味悪がっていたのも束の間、一人がこんなことを言い出した。
「ねえ、この顔が映ってないのって、誰だっけ」
何を言い出すのかと思ったが、何故だろう思い出せない。そんなはずはないと他の四人の顔を見て確かめようとしたが、写真を見ようと体をくっつけて集まっていたのは全部で四人だけだった。
「あれ、四人だけだったっけ」
一体いつから四人だったのか。そもそも計画をしていた時にいたあの五人目は、今日一緒に回ったあの五人目は誰だっただろう。今でも思い出せないのは、四人とも同じである。
「知らせ」
スマートフォンの写真フォルダに撮った覚えのない写真が数枚見つかった。
通学で使っているバス、通学路の交差点、大型トラック、そして上空から撮られたその交差点と多くの人だかり。
特に気にすることも無く、ただ残しておくのも嫌だったので写真を消去した。その日、いつものように通学のためのバスを待っていると普段より二分遅れてバス停に到着した。バスに乗ってなんとなく外の景色を見ていると、前に交差点が見えた。真っすぐ通り抜けようとしたところで右を見ると、交差する右側の道から猛スピードで真っ赤なスポーツカーが走ってきた。それがあの写真のスポーツカーだと気が付いた瞬間バスに激突し、そのまま横転した。意識が朦朧とする中、ざわざわと大勢の人間が騒いでいる声が聞こえた。顔の横に落ちていたスマートフォンはいつの間にか写真フォルダが開いていて、真っ暗な写真が画面に映っていた。
「母の遺影」
母が死んだ。私と父を遺して、あまりに突然のことだった。病気もなく事故に遭ったわけでもなかった。母が亡くなっているのが見つかったのは家から離れたところにある公園だった。警察によれば頭を鈍器のようなもので殴られ、即死だったという。一体誰が母を殺したのか、私も父もまるで思い当たらずただただまだ見ぬ犯人を憎むことしかできなかった。通夜には親戚一同集まり、一人一人母に別れの言葉をかけてくれた。涙するもの、笑顔で思い出を語るもの様々だったが、皆母とはいい関係を築いていたように見えた。ただ、私がどうしても気になったのは母の兄だった。母の死を悔やむ言葉を遺影に向かって顔を伏せて粛々と話していたが、その時ふと見た母の遺影が鬼のような形相で睨みつけていたのだ。母を殺害した犯人はいまだ手がかりさえ掴めていないが、私にはそれからというもの母の兄が悲しんでいるようには見えなくなってしまった。
「心霊写真」
新しい部屋に引っ越して一週間、友人に暮らしぶりを見せてあげようと部屋が見えるように自撮りした写真を送った。すると慌てて連絡が来て、これは心霊写真だと騒ぐのだ。私もあわてて写真を確認すると確かにベランダの方にうっすらと人影が見えた。気味が悪くなりベランダの窓のカーテンを閉めに行った。カーテンに手をかけたところで、視線を感じた。一体どこから見られているのか、その視線の主を探そうとじっくり外を見渡す。そしてついに見つけてしまった。ベランダの隅、息を潜めて立っていたのは、目を血走らせてこちらを見つめる全く知らない男だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます