第23話 押し売りの宴
遺跡の地下2階。いつの間に
「な、なに!? どっから話しかけてんの!?」
「……これは、電磁機器に魔力を込めることで……そこの
やや狼狽えるウルリカに、ロレンスは冷静に壁の高い位置に取り付けられた
「よくぞ! ぃイイイイユウオォークゥーズゥォオオオオオ! ……ここまで辿り着けたものダァーッ!! 侵入者諸ォォ君ンンン! 死にぞこないの門番どもを打ち破り……天晴れ、天晴れィ!!」
不快なサイレンのような、合成音声混じりな独特のイントネーションの嬌声をラルフたちに浴びせる声の主は、テンションはやたら高いが余裕綽々と言った風情だ。
「てめえ! どっから話しかけてんだ! 卑怯だぜ、姿を見せろよッ!!」
苛立つヴェラが咆哮するが、ラルフが腕で制止する。
「落ち着くんだ。見たところ、ここで行き止まりのようだが……ここに下の階に進むような道が見当たらない。何らかの罠があるとすれば敵の手中だ。――――俺たちは袋小路に追い詰められていると言っても過言ではない。無闇に挑発には乗るな」
「ホホーウッ!? なーかなか聡明な者もいたものだなァァ……その通ぉーりぃ! 既に諸君らのぉ後方の道は塞いだ……!」
「あっ!?」
ルルカが気付き後ろを振り返った時には、既に遅し。どすん、という重たい音と共に、今通ったばかりの通路は石壁が降りて塞がれてしまった。
「くっ……しかも、この演劇場の力場……転移術も封じられてしまったようです……先ほどは術をかき乱したと思えば、今度は封じるとは!」
上手く魔力が練れないロレンスは杖を握りしめ、屈辱感に奥歯を噛む。どうやら、この声の主は魔術師としてもこれまでの門番とは格が違うようだ……。
「……本来なら、この時点で俺たちの負けだ。奴からすれば俺たちが飢え死にするまでここに閉じ込めればいいだけの話……」
「そ、そんにゃ!? どどど、どーすればいいんにゃ……」
「だが――――わざわざこちらにコンタクトを取ってきたということは、俺たちに勝ち誇りたいだけではないはずだ。……何か、俺たちに要求することでもあるのか?」
ラルフは、声の主が見ていると思われる宙に向けて、睨んだ。
「――見事、見事ォーッ!! その通り。要求に応じさえすればぁーっ! 先に進む道を開けてやらんでもぬぁぁぁーしーい!」
一体どんなことをラルフたちにさせるつもりなのか。
ラルフ一行に緊張が走る中、ラルフは問うた。
「……その要求とは、何だ?」
「……ヌフフフフ……よく聴けィ!! 貴様らにやってもらうことはナァ…………」
(……この場で同士討ちでもしろ、とでも言うのか? 否。医者の端くれたる私には……断じて否だ…………)
(ま、まさか、この場で裸になれとか言われるんじゃあ……ギミャア……女子にはともかく、オトコ共と一緒は嫌過ぎるにゃあ……)
各々が恐ろしい宣告を受けることを恐れ、汗が噴き出す……。
「いいかね? 先へ進む為の条件は――――」
そこから一瞬沈黙があったが――――
カカカン、パパンッ!!
「!?」
突然、演劇場のステージにライトが灯り、破裂音と共に紙吹雪が舞った! 皆、一様に驚いた刹那、声の主は告げた。
「――――そこのステ~~~ジで最高のショーを……『演劇』を披露してくれたまーえーっ!! さすれば、門番を務める吾輩と戦う権利をやろうではなぁーいかぁーっ!!」
「――――はぁ?」
あまりにも予想外。
あまりにも奇妙奇天烈な戦う条件。
ラルフたちが呆然としている中、声の主は続ける。
「吾輩はぁー、上階の門番を務めてきた唯々殺戮を繰り返すような下賤な連中とはチガーウッ!! 芸術と風雅とワビサビともののあはれを嗜む……あぁあアーーーティストなのだよォォォーーッッ!! 相手へ殺戮のみを与える門番など、唯の賊ッ! 吾輩はそれを超越した『美しき』賊なのだァーーーッッッ!!」
ラルフ一行は、当然困惑した。
「げ、劇? お芝居をお見せすればよろしいの……?」
「……賊どもの道中の門番に任ぜられた輩が、演劇を見せれば先へ進むチャンスをみすみす与えると言うのか……? はあ……思わず片頭痛を患ったと錯覚してしまうよ、私は。解熱鎮痛剤あったかな」
「げ!? げげげ、劇ぃ!? 私は、王宮の宴席で観劇したことぐらいはありますが……演じた経験など、とてもとても……!」
「んだよ、またバトルかと思ったら、なかなかユニークなこと考えるやろうじゃあねえか! 俺はやるぜ!!」
ざわつく一行をよそに、突如、ステージ上のライトに照らされた床の上目掛け、敵の転移術だろうか……薄めの本が、ぽんっ、と現れた。
「吾輩はァアァァ! 単なる戦闘のみでなくゥ! 芸術と風雅を知る者のみ認めたいのダァー! そこに台本を置いたよ……配役も演技のディレクションも諸君らにぃ、まーかーせーるぅ~……吾輩と刃を交えるに足るか! 吾輩にしかと見せてくれたまぁーエエエーッ!!」
「…………」
ラルフは声の主の正気を疑いながらも、今は従うしかない。そう言い聞かせて、ステージに歩み寄り、台本を手に取った。他の仲間たちも近寄り、ラルフの肩越しに覗き込む。
台本のタイトルは、こうだ。
『吾輩の考えた理想の青春群像劇・「僕が護りたいもの」』
★キャスト
生徒会長
校長
いじめられっ子・ヨーコ
いじめっ子A
いじめっ子B
学園のマドンナ・
熱血教師・カネダ
不良番長・リュウ
男性4名、女性4名、計8名。
ラルフは、「なんだかなー……」と言った、寝過ぎて頭が痛い時のような苦い顔をしつつ呟く。
「……キャストの人数に性別も足りているな……どうやら、やらなきゃどうにもならなさそうだ」
「……ふう……酔狂な賊の戯れに付き合うしかないというのか……ま、どうせやるなら私はもう40歳だ……年齢相応の役がいいかな」
「む、むむむう……本当に、やらねばならぬのですか…………? それならば……私はこの不良番長? などという役はご免ですな。粗暴な役などとてもとても……」
「なーんだよ! いいじゃあねえか番長とか! カッケーじゃあねえかよ! ロレンス、おめえがやらねえなら俺が……っと……俺、女だっけか? ああ、もう! 配役が性別で決まり切ってるなんてROCKじゃあねえぜ、つまんねえ!」
「えー……マジで~……それじゃあ……う~ん……あたしはこのいじめっ子二人のどっちかかな~……いやまあ、そもそも気が乗らないんだけどさ。キャラに近いかなって……」
「ウルリカ様が? あっ、じゃあ
「エーッ!? ルルカお姉様がいじめっ子とか、イメージが崩れますにゃーっ!! ど、どど、どうしてもやるなら、アチキがこのいじめられっ子の役を――にゃっふっふ……」
「ヒャハハ、面白くなってきやがったァなぁぁぁ。俺様ァァア……教師とかいう徳の高そうな役は性に合わねえ……だがァ、これァお芝居だぁ。どうせやるなら俺がこの学園のマドンナを――――」
「……みんな、やる気の有る無し、向き不向きはあるようだけど……何とかやってみせないとな。問題は配役、か……」
ラルフは一行を一歩離れて見遣った。
「お前はそんなのあり得ん」「やるなら自分だ」「やりたくないけどこれかな」
カラフルな個性を持つ一行がお互いに役への不満や主義主張を言い合い、軽く論争になっている。
どうまとめるべきか……ラルフはそのことを考え、頭を抱えて嘆息した。
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時は流れ、数時間。
皆、渋々ながら配役を決め、突貫工事で台詞の読み合わせを行なった。
「――――どうやら、覚悟は決まったよぉうだぁーナァー!? ならばァ…………It`s Show Time----!!」
門番の金切り声の後、舞台の幕は開き、徐々にライティングが当たる――――勇者・ラルフ一行による演劇の始まりだ――――。
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