78 大将戦の結末


 ジャンボジェット機の主翼ほどありそうな一対の翼は、巨大マンティコアの身体を楽々と宙に舞わせている。

 ただ、その大きな翼の羽ばたきからは、奴を宙に留まらせるに足る浮力が得られているとは思えない。

 きっと、羽ばたきの力だけで宙にあるのではないのだろう。


 それにしても、デカいね......さて、どうやって倒そうかな。


 瞬時に空へと舞い上がった僕は、マンティコアの親玉と一定の距離をとったまま、戦い方を思案する。

 というのも、実のところ、これといった作戦があった訳ではないのだ。

 だけど、あのままでは大変なことになると思い、瞬時に自分が戦うことを選択したのだ。


 でも、なんで奴は襲い掛かってこないんだろ......


 僕を睨んだまま、一向に襲い掛かってこない親玉を見やり、少しばかり疑問に思う。


 まさかと思うけど、僕の力量を悟った訳じゃないよね......もしそうなら、かなり厄介な敵かも......


 魔獣と言えども、マンティコアは聖獣クラスだといって差し支えないだろう。

 そう、ベヒモスやココアと同じように、力のみならず高度な知識を有していてもおかしくはない。


 う~~ん、でも、ココアが聖獣かと思うと、大したことないように思えちゃうよね......だって、いつもお腹を空かしているだけだし......


 飛竜の焼肉を喜んで食べていたココアを思い出し、聖獣の凄さに疑問を抱いてしまう。

 ただ、それが隙につながったみたいだ。

 視線の先に居るマンティコアの親玉が、瞬時に尻尾を振った。

 もちろん、間違っても機嫌がいいとか、構ってほしいとか、そんなアピールではないと思う。


 くっ......針か......いや......


 尻尾の先に生えている無数の針、その数本が僕に向かって飛んでくる。

 ただ、奴にとっては針かもしれないけど、僕からすると、とても針とは呼べないサイズだ。

 だって、その針のサイズは、僕よりも大きいからね。


 もちろん、そんな攻撃を食らう訳にはいかない。慌てて空を蹴り、自分と変わらないサイズの針を避ける。


 なんてったって、アレを食らったらお陀仏なんだよね。じゃ、お返しを食らってもらおうか!


「大災害!」


 瞬時に空を蹴って、奴よりも高い位置に移動した僕は、広範囲超爆裂攻撃をお見舞いしてやる。


 これで終わりだったら拍子抜けだよね......って、マジ!?


 まるで瞬間移動であるかのように、瞬時に別の場所へと移動した親玉に驚かされる。

 だって、ジャンボジェット機サイズの巨体が、あんなに素早く移動できるなんて思っていなかったからだ。


 何もない空間が爆発する光景にガッカリするどころか、戦慄を覚えることになってしまった。

 それこそ、赤い彗星か! なんて冗談をかます余裕すらない。


「くっ! 参ったな......マジで速いぞ」


 いつの間にか、奴は僕の背後に回り込み、右前足を振りかざしてくる。

 その足の大きさが桁外れで、まるで大型トラックが突っ込んでくるかのようだ。


「こなくそっ! 風刃!」


 奴の攻撃を躱しつつ、風の斬撃をくれてやるのだけど、どうやらカエルの面になんとかみたいな結果に終わる。

 なにしろ、奴の毛並みを台無しにすることには成功したのだけど、血しぶきすら上がらないのだ。


「うはっ! めっちゃ固くない? 飛竜だって解体できるのに......」


 風刃が効果を発揮しないことを知り、僕は唖然とする。

 でも、呑気に驚いている状況ではないみたいだ。


 ちょっ、せっかちなライオンだね......しつこいよ?


 避けても避けても、奴は諦めることなく斬撃を繰り返してくる。

 その連続攻撃は、味方なら褒めてあげたいくらいに素晴らしいのだけど、それが倒すべき魔獣だとそういう訳にもいかない。

 ただ、奴の足が大き過ぎて、避けるのもかなり辛くなってきた。


「くっ! くは~、あぶね~~~~」


 なんとか避けきったのものの、奴の爪が僕の前髪を斬り裂き、お気に入りのサングラスを砕いた。

 髪の毛に関しては、散髪してなくてかなり伸びていたから、丁度良かったのだけど、サングラスは勿体ないよね。

 てか、ちょっと、ムカついたよ? あれ、めっちゃ気に入ってたのに......


「じゃ、僕も本気でいくよ」


 久々にサングラスなしとなって、少しばかり顔が涼しく感じるのだけど、それとは裏腹に僕の心は燃え上がり始める。


 いまだ、怒りの頂点にはほど遠いけど、少しばかりご立腹となった僕は、左腰に下げていた日本刀を引き抜く。


「さあ、これでどうかな。火炎刀!」


 最近になって覚えた新しい魔法を発動させると、右手に持つ刀から青白い炎が上がる。

 その青白い炎の刃は、一気に巨大化し、十メートルを超す長さとなっている。


 実際、その長さと火力は、僕のイメージに依存しているのだけど、今回は相手が巨大だということもあって、かなり長大な刃渡りをイメージしたのだ。


 あらら、退いちゃうんだ!? てか、こいつ、実はめっちゃ賢いでしょ?


 僕が炎の刀を作り出した途端、奴はすかさず距離をとった。

 多分、青白く揺らめく炎の刃が、尋常ではないと勘付いたのだろう。

 そう、試し切りを色々と斬ってみたけど、この炎の刃は鉄をも絶ち、ビルをも切断するのだ。


「さあ、こっから真剣勝負だよ? 容赦しないからね」


 僕はそれほど得意としてる訳ではない身体強化の魔法を発動させ、炎の刃を構えて奴と向かい合う。

 そして、慎重にこちらの出方を窺っているマンティコアの親玉に、僕はこれからが本当の戦いだと告げるのだった。









 雲一つなく青く透き通る大空には、二つの月が浮かんでいる。

 始めて見た時には肝を冷やしたのだけど、今では慣れ親しんだ光景となって、安らぎさえも感じることがある。

 ただ、今はその美しき光景に心奪われている場合ではないの。

 だって、大空では巨大な赤い獅子が、恐ろしいほどの速さで駆け巡り、私の彼――黒鵜君に襲い掛かっているのだもの。

 でも、彼も負けてないわ。いえ、負けてないどころか、竜の血を宿す彼は、己が何倍もの赤い獅子を翻弄している。


 ほんと、こういう時は、さすがよね......


「相変わらず、黒鵜の本気は半端ね~な」


「そうね。まあ、私の彼氏なのだから、あれくらいは当然かな」


「お前のじゃね~、うちらのだ。うちら! 勘違いするなよな」


 感嘆の声をあげる一凛に、思わず本音を零してしまった。

 どうやら、その言葉が気に入らなかったみたいね。彼女は眉を吊り上げて怒り始めた。


 まあ、私にとっては少しばかり不服なのだけど、沢山の女が群がるのも、それだけ彼が魅力的な証拠だし、諦めるしかないのよね。

 本当は、黒鵜与夢――炎獄の魔法使いには、この氷結の魔女たる私が一番お似合いだと思うのだけど、それを主張すると、きっと彼が困ってしまうものね。

 でも、この女――乳牛はダメよ。許せないわ。だって、あの胸は、まるで私の存在価値を否定しているみたいなんだもの。


「あ、あれが、与夢なのか......す、すごいというか、あたいの目がおかしくなったんじゃないのか?」


 あははははは。やっと気づいたみたいね。まあ、私達も敢えて教えないようにしていたから、驚くのも当然よね。そうよ、黒鵜君は最強なのよ。だから、乳牛は黙ってなさい。


「ああ、あれでも序の口だろ! 本気で戦ったら、この辺り一帯が消滅するぞ」


 ちょっ、一凛のやつ、教えなくてもいいのに......


「消滅? この辺り一帯が? それは本当か?」


 本当よ。彼が本気で戦ったら、あなたなんて瞬殺なんだから。


「本当だぞ。奴が本気を出したら、ここが足立区の湖みたいになるからな」


「一凛、黙ってなさい」


「いいじゃんか」


 私としては、乳牛にあまり情報を与えたくないのだけど、一凛は口が軽くてほんとに困ったものだわ。

 でも、もう遅いみたいね......


「湖? もしかして、あの湖を作ったのは......」


「そうだぞ。あれはベヒモスを葬るために、黒鵜が発動させた魔法の産物だ」


「なんだって!? あの強大な湖が? 与夢がベヒモスと戦った? ベヒモスを葬っただと!?」


 はい、ぶっ魂消ました。てか、一凛、しゃべり過ぎ! それに、葬ってはないんだけど、まあいいわ。序に釘を刺しておきましょうか。


「あれこそが、黒鵜君の本当の姿よ。ベヒモスを退けたのも黒鵜君よ。多分、いえ、絶対、他の人では不可能だわ。だから、あなた達が王様とか国主とかやってるのは、お山の大将でしかないの。私だったら恥ずかしくて穴から出てこれなくなるわ」


「うぐっ......」


 あははははは。言ってやったわ。あ~すっきりした。


「氷華! お前、なに美味しいとこどりしてんだよ」


「あら、いいじゃない。だいたい、一凛はしゃべり過ぎよ」


「ふんっ!」


 あら、へそを曲げちゃったかしら......まあいいわ。あのデカ物は黒鵜君が何とかしてくれる。いざとなったら、彼はとても頼りになるもの。そうなると、私達のやることは必然的に決まるわよね。


「さあ、私の彼氏が敵の親玉を片付けてくれているのだから、私達は雑魚を片付けましょ」


「だから、お前の彼氏じゃね~って言ってんだろ! 氷華! お前、勘違いしすぎだ」


「あたいの与夢をたぶらかすとは、なんて奴等だ」


 一凛と乳牛がクレームを入れてくるのだけど、最高に気分のいい私としては、大して気にもならない。


「はいはい。文句は後よ。今は私達のやるべきことを済ませましょ」


「ちぇっ!」


「ふんっ。あとで白黒つけてやる」


 ほんと、ホルスタインだけあって、白黒が好きなこと......でも、文句を言いながらも付いてくるのね。


 一凛は不貞腐れて舌打ちし、乳牛はモウモウと苦言を漏らすのだけど、それを気にすることなく、私は地上に残るマンティコアへと足を向ける。


 さあ、気分も最高だし、ちゃっちゃと片付けましょうか。









 巨大なマンティコアの雄叫びが空気を震わせる。

 その震えは、波動となって襲い掛かるのだけど、僕の心臓は微動だにしていない。

 いくらこいつが強いと言っても、あの時の竜やベヒモスと比べたら、大して怖いと思えないのだ。

 だから、焦ることなく、瞬時に風の刃で奴の放った衝撃波を粉々に切り裂く。


 僕って、いつからこんなに肝が据わったのかな......初めて魔法を使った時は、もっとへなちょこだったような気がするんだけど......う~ん、ああ、きっと、守るものがあるからだね。そうか、自分のために強くはなれなくても、大切な人のためなら頑張れるような気がする。


 熾烈な攻防を繰り広げながらも、ふと、自分が精神的に強くなった理由に思い至る。

 ただ、その間も奴の斬撃を避け、放たれる針の攻撃を斬り裂き、懐に入り込んでは青い斬撃を食らわせる。


「しぶとい......このままじゃ、仕留められないかも......逃げられるのも拙いよね......」


 いまや身体のいたるところから鮮血を舞いあげている親玉だけど、僕を睨みつける眼光は全く衰えていない。

 その精神は、感服するほどにあっぱれなのだけど、褒めてあげる訳にもいかない。

 だって、こいつは、いや、こいつらは、人間を食料としているのだ。そう、捕食者なのだ。だから、徹底抗戦しかない。


 仕方ない......地上で倒すしかないみたいだね......


 僕は一つの作戦を思い浮かべ、奴を地上に叩き落とすと決める。


 さて、奴を落とすとしたら、どこがいいかな......ん? あそこは......確か、下水処理場だったかな?


 眼下に広がる荒れた街並みを見渡し、少しばかり被害が大きくなっても良さそうな場所に目途を付ける。

 そこは、中川にある下水道局だ。

 そういえば、昔、浄水と下水をくっ付けてしまうという神業を為した水道局だったはず。

 どうやったらそんなことになるのか、不思議でならないのだけど、それを知らずに飲まされた区民から言わせれば、悪魔の所業だと思う。


「さあ、お前の墓場が決まったよ」


「グガルルルルル」


 親玉は「黙れ!」と言わんばかりに唸るのだけど、少しばかり逃げ腰になっているみたいだ。

 多分、僕のオーラが増した所為だろう。なんていえば、少し格好いいかな?


 僕は少しだけ、格好をつけながら左手を奴の少し上に翳す。


「爆裂!」


 魔法を放つと同時に、奴との距離を詰める。しかし、奴は即座に斜め後方へと避けている。

 そう、奴は爆発の威力が上に向かうことを理解しているのだ。

 だけど、奴が下方に逃げるのは計算済みだ。即座に、次の魔法を放つ。


「裂風刃!」


 風刃の上位魔法を叩き込む。だけど、これも避けられることは予定の範疇だ。案の定、奴は横に逃げようとする。

 でも、そこには巨大化した青い刃が振り下ろされている。


「予定通り! 食らえーーーー! 爆裂!」


 奴の左側の翼に炎の斬撃を叩き込み、さらに魔法をお見舞いする。

 さすがに、この連続攻撃を躱すことは無理だったみたいだ。


「グギャーーーーーーーーー!」


 左の翼を斬り裂き、その巨体を吹き飛ばしてやると、奴は苦悶の叫びをあげるのだけど、動きが止まっているこのチャンスを逃がす気はない。

 容赦なく、次なる炎の斬撃を食らわせる。


 そらっ! もういっちょ! 大災害!


 奴の身体に渾身の爆裂魔法を叩き込み、それの結果を確かめることなく、今度は右側の翼に青い炎の閃光を走らせる。


「まだまだ! もういっちょ! 大災害!」


 チャンスだとばかりに魔法をしこたま叩き込むのだけど、その度に奴の硬さに驚かされる。

 なにしろ、爆裂の上級魔法である大災害を食らっても、爆散することなく原形を留めているのだ。


 こりゃ、鉄やコンクリートどこの硬さじゃないね......でも、効いてない訳じゃないよね。だって、かなり酷い状態になって来たし......


 度肝を抜かれつつも、鮮血を撒き散らして落下し始める親玉を見やり、安堵の息を吐く。

 だけど、ここで手を緩めるわけにはいかない。


「さあ、あそこに落ちてくれよ。大災害!」


 いまや両翼を失った親玉を旧下水場へと吹き飛ばす。


 よしよし、そのまま、そのまま! さあ、悪いけど成仏してね。焦土!


 奴が地面に叩きつけられるタイミングを見計らい、火炎地獄を作り出す。

 本当なら紅炎プロミネンスを使いたいところだけど、今のマナ量を考えると、少しばかり不安を感じる。

 だから、仕方なく焦土の魔法にしてみた。


 頼むよ......これで仕留められなかったら、ちょっとヤバいことになるからね。


「グギャォーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 焦土の魔法による上昇気流を避けつつ、高度を下げていくと、親玉の悲痛な叫び声が轟いた。


 ふっ......なんとかなりそうかな......ただ、ちょっと、可哀想にも思えるけど、仕方ないよね......


 いまや、奴は両前足を失い、尻尾は千切れ、巨大な身体はズタズタに抉れ、猛々しかった鬣は燃え上がっている。

 まさに生きる屍の如き姿となったマンティコアの親玉が、魔法の炎に包まれて燃えていくのを見やり、少しばかり哀れに思う。

 だけど、やらなければ狩られるのは弱き人間なのだと自分に言い聞かせつつ、近くの高層マンションの屋上へと舞い降りる。


「ふっ~、なんとか片付いたかな」


「お疲れ様!」


「やっぱ、黒鵜はマジパないぜ」


 さすがに、ここから復活はないだろうと考え、ホッと安堵の息を吐くと、背後から氷華と一凛の声が届いた。

 振り向くと、そこには二人のみならず、眞知田さんと倉敷さん、二人の姿もあった。

 多分、倉敷さんの瞬間移動でやって来たのだろう。


「まあ、何とかなったよ。これでもやれなかったら、拙いことになるからね」


「あ、与夢、本当に与夢なの? これを与夢が? というか、その目は?」


「ああ、この目? よくわかんないんだけど、特に害はないから気にしないで。あと、これからは見てろなんて言わないでね。僕は大切な人のために戦いたいんだ」


 僕が肩を竦めて氷華と一凛に答えると、おずおずと眞知田さんが問いかけてきた。

 どうやら、僕の戦闘力もだけど、縦割れの瞳を目にして驚いているみたいだ。

 僕は肩を竦めつつ、瞳に問題がないことと、守られる立場ではないことを告げる。


「そうか......あたいの独りよがりだったんだな。与夢は立派な男なんだな」


「まあ、立派かどうかは分からないけど、さすがに色々と経験したからね」


 どうやら、眞知田さんも納得してくれたし、丸く収まって良かった。

 ああ、倉敷さんは、どうやら言葉を忘れちゃったみたいだね。あうあうしか言えてないし。


 火だるまとなっている親玉が衝撃的なのか、それとも僕の瞳に驚いているのか、倉敷さんは驚きのあまり、口を開けたまま呆けている。


「まあ、これで一件落着だ――」


「あれはなに?」


 ん? あれって? どれ?


 僕が締め括ろうとしたところで、氷華が疑問の声をあげた。

 それが気になって、彼女の視線を辿ると、僕が作り出した魔法の炎の中に、なにやら動く存在があった。


「ん? 熊?」


「なんか、リラックマみたいだぞ?」


 その見た目は熊なのだけど、大きさは人の半分くらいしかないと思う。

 ただ、一凛が呆れた声を発した通り、どう見ても魔獣や動物ではなく、ヌイグルミにしか見えない。


「あれって、ヌイグルミが歩いてる? どういうことだ?」


 眞知田さんが疑問の声をあげるのも仕方ないと思う。

 だって、てくてくと愛嬌なる歩き方をしているヌイグルミぽい存在は、炎なんて無いかの如くゴウゴウと燃えている親玉に近づいているのだ。


「あいつ、熱くないのか?」


 いやいや、一凛、そんな問題じゃないよね?


「それより、ちょっと可愛くない?」


 ちょっ、氷華、なにうっとりしてるのさ。


「確かに、めっちゃ、愛嬌があるし......でも、何しにきたんだ?」


「というか、あれも魔獣かな?」


 そう、眞知田さんと倉敷さんが正しい。奴の存在と行動が問題なんだよ。


 二人の年長者の言葉に頷きつつ、ヌイグルミの行動を注視する。

 すると、奴は燃え盛る親玉の頭を指のない丸い手で、気安くぽんぽんと叩いた。


「ま、マジなの?」


「どういうことだ!?」


 途端に、氷華と一凛が声を張り上げる。

 というか、僕もぶっ魂消た。それまで燃えていた親玉がすくっと立ち上がったからだ。


「ちょっ、怪我も治ってるし......一瞬で? 在り得ないんだけど......」


 思わず僕も驚きの声を漏らしてしまうのだけど、それよりも大きな問題がある。


「これって、第二ラウンド開始という話か......」


 僕の感じた問題を眞知田さんが言葉にした。

 そうなのだ。復活したとなれば、再び戦う必要があるのだ。

 ただ、僕のマナからすると、少しばかり辛い展開だ。


「あれ? でも、戦う気はないみたいね」


 そうしてくれると、僕も助かるよ......


 どうやら、氷華の指摘が当たりだったみたいだ。

 結局、ヌイグルミがぴょこぴょこと親玉の頭に乗ると、奴はそのまま大空高く舞い上がり、こちらではなく北に向かって飛び立ったのだった。

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