02 未来に向けての復興

28 飛竜、サイコ――――!


 ショッピングモールで多くの命を刈り取ってから、はや一ヶ月が経っていた。

 あの出来事があってから、少なからず罪悪感を抱いてはいた。

 だけど、この世界から法なるものが綺麗さっぱりと無くなり、例え相手を死に至らしめようとも、自分の大切な者は己が力で守るしかないと考えるようになってからは、それほど心を痛めることもなかった。

 もちろん、だからと言って無法を働く気はないのだけど、今後は生命の危機を感じたら容赦なく対処することに決めた。

 なにしろ、大切な仲間である氷華と一凛を、一度は自分の甘ちょろい考えで失ってしまったからだ。

 運良く二人は助かったのだけど、次も助かるとは限らない。だから、決意したのだ。仲間に害を加える者を排除すると。

 当然ながら、それを氷華と一凛の二人に宣言した訳ではない。というか、恥ずかしくて言えない。

 だから、二人に、「これからは非道になるからね!」と、伝えた。

 二人はそれが何を意味しているのか直ぐに気付いたのだろう。にこやかな表情で頷いていた。


「一凛! 右の奴をやって」


「あいさ~! おら、喰らえ! メガトンキーーーーーーク」


 だから、その恥ずかしいネーミングはやめなさい! そもそも、今はギガとかテラの時代だよ? いや、今はファンタジーの時代か……


 心中でのツッコミが一凛に届くことは無く、人間ならざる跳躍力で飛びまわし蹴りを飛竜に喰らわせる。

 すると、その一撃で飛竜の首があらぬ向きへと曲がった。


「一凛の力もかなり人外になったね」


「そうね。私も負けてられないわ。氷地雷ひょうじらい!」


 思わず零した感嘆の声を聞き、氷華が負けん気を全開にする。

 途端に、地面から無数の氷槍が突き立ち、地に降りていた飛竜を串刺しにしていく。

 その光景は、まさに剣山けんざんに刺さるトカゲだ。


「二人とも凄い威力だね。さすがだよ」


 二人の成長が嬉しくなって、思わず喜んでしまう。

 ベースキャンプであるコンビニに戻った僕等は、当初の予定通り飛竜殲滅作戦を開始した。

 当初は少ない数を誘い込んでは倒していたのだけど、なぜか異様な速度で成長したこともあって、いまや飛竜御用達マンションの前に立ち、堂々と奴等を駆逐くちくしている。


「じゃ、次、行くよ!」


「ええ、いいわよ!」


「ひゃっほーーーー! 掛かってこいや!」


 目に見える飛竜が片付いたところで二人に声を掛けると、氷華はにこやかに頷き、一凛は嬉しそうに叫んだ。

 それは準備万端じゅんびばんたんの合図だと判断して、次なる獲物を呼び寄せるために、マンションに向かって魔法を放つ。


「我、放つは憤怒ふんぬ炸裂さくれつ、大災害!」


「ちょ、ちょっ、ちょっと、恥ずかしいから止めてちょうだい。というか、大災害って魔法名はどうなのよ」


「厨二キターーーーーーー! あははははははははは。お前、最高だよ。黒鵜!」


 あまりに浮かれていた所為で、思わず必要のないワードを口にしてしまう。というか、耳に痛い呪文を口にしてしまった。

 それを耳にした氷華が両手で顔を隠して恥じらうと、少し離れた場所に居る一凛が腹を抱えて笑い始めた。

 ただ、そんな二人を他所に、僕の生家であったタワーマンションで巨大な爆発が起こる。

 既に上部から十階分が無くなっているタワーマンションは、現在の最上階が砕け散り、更に二階分が消え去った。

 その途端、そこに住んでいたであろう飛竜が瓦礫と一緒に吹き飛ぶ。

 建物の振動で驚いたのか、他階から未だ生ある飛竜が飛び出してきた。


 因みに、大災害は爆裂の上位魔法であり、本気でやれば、あのタワーマンションなんて四発もあれば瓦礫と化すだろう。


「おら~、来たぜ、来たぜ! カモが来たぜ! 今夜も上手い晩飯だ」


「カモにしては大きくて凶暴だけどね」


「うわっ、蜂の巣を突くとは、まさにこのことね。氷撃!」


 一凛の台詞にツッコミを入れていると、うじゃうじゃと出てきた飛竜を目にして、氷華が肩を竦めて魔法を放つ。

 彼女の魔法攻撃は、以前なら簡単に避けられてしまう代物だった。だけど、現在におけるその規模を考えると、絶対に避けられることはないだろう。

 なにしろ、氷の矢がまさしく雨の如く広範囲に降り注いでいるのだ。


「アンギャーーー!」


「グギャーーー!」


「フギャーーー!」


「ウニャ~~~~ン!」


 氷華の攻撃を喰らった飛竜が呻き声を漏らしながら落下する。

 なぜか、それを見たココアが嬉しそうに飛び跳ねている。

 多分、一凛と同様に美味い晩飯に在り付けると考えているのだろう。


 楽しそうに飛び跳ねるココアの姿に心を洗われつつも、本日の営業終了の告知をする。

 もちろん、ホタルノヒカリが流れたりはしない。


「さあ、今日はこれで終わりにするよ。魔黒石の回収もあるからね」


「そうね。丁度いい頃合いかしら」


「おおう、さっさと帰って飯にしようぜ」


「君は食うことばっかだな~」


「フニャ~~~~ン!」


 思わず一凛にツッコミを入れてしまう。

 ただ、どうやらココアも彼女と同種のようだと知る。


 これが僕等における、ここ最近の日課となっている流れだ。

 そして、これからもまた、ウンザリするような作業が待っている。









 正直言って戦いは楽だった。だけど、その後が一苦労だ。

 というのも、倒した飛竜を移動しなければならない。

 なにしろ、飛竜は重要なたんぱく源なのだ。


 とても面倒な飛竜の移動作業に追われていると、困り顔の氷華が嘆息した。


「ねえ、もう保管する場所がないのだけど……どうするの?」


 彼女の言う通り、飛竜が巨体であるのはさることながら、これまで倒した数が二桁を超えそうな勢いなのだ。

 それ故に、貴重な食料を保管する場所に困ってしまう。


 実のところ、以前にも同じ問題で頭を悩ませた。

 その時は、慌ててコンビニの並びにある店舗を探索することにした。

 そして、自分達がどれだけ愚かだったかを認識させられることになってしまった。


「これが現実なのか……皮肉なものだね……」


 そう、悪夢の始まりは、そんな一言からスタートした。


「なんとも……これこそマーフィーの法則かしら」


「なにも言うな……沢山の衣類が見つかって良かったじゃないか。うち等はショッピングモールになんて行かなかった。あの出来事は夢だ。幻だ。勘違いだ」


 目に映る衣服を呆然と眺めていると、氷華が溜息を吐いた。

 ただ、一凛は都合の悪いことを考えたくなかったようだ。必死に現実逃避に走った。

 だって、コンビニの隣にあるクリーニング屋を散策したら、嫌というほどに衣類があったりしたのだ。

 そう、ショッピングモールに行ったのがバカバカしく思えるほどに沢山あった。


 当然ながら、その光景を目の当たりにして、愕然がくぜんとしたのは言うまでもない。それこそ、テストで満点を取ったくらいに仰天した。

 まあ、実際はテストで満点なんて取ったことないけど……


「そ、そうだね。取り敢えず、次の店に行こうか……」


「そうね。それが良さそうね……」


「さあ、いくぞ!」


「フニ~~」


 すかさず現実逃避に便乗して、クリーニング屋での光景を見なかったことにする。そして、次の店舗へと足を向けた。

 氷華や一凛も然も当然のように頷きながら付いてくる。だけど、ココアだけは微妙な視線を向けてきた。

 それでも、縦長の瞳から放たれる呆れの無視して先を急いだ。

 ところが、まるで愚かな僕等を嘲笑うかのように悲劇が続く。


「くっ……」


「食料があるわね」


「次だ。次!」


 隣のパン屋では大量の小麦粉を発見した。

 本来は喜ぶべきことなのだけど、なぜか言葉が出てこなかった。

 氷華は表情を消して事実だけを口にした。

 一凛に至っては、即座にパン屋から出て行った。


 彼女の気持ちは分からなくもない。だけど、世の中とは理不尽だ。その比肉は、それで終わりではなかった。

 まさに愚かさを証明するかのような光景がまだまだ続いた。

 つたを取り除いて次の店舗に中に入ると、なんと、その店は米穀店べいこくてんだった。

 そこでは、これまで欲していたコメが大量にあった。

 ロールプレイングゲームで例えると、引き出しからレアアイテムが飛び出してきた気分だ。

 その隣のドラッグストアでは、クスリ、雑貨、食料などを大量にゲットした。


「ここもか……もう勘弁して……」


「世の中って、こんなものよね」


「ぐあ~~~~~! なんでこんなことに……」


 溜息を吐きつつ肩を落とすと、氷華と一凛もそれに続いた。

 結局、灯台下暗しという言葉を噛みしめる羽目となった。

 ただ、悲しい出来事ばかりでもなかった。

 というのも、ドラッグストアが大きな倉庫を持っていたことだ。


「まあ、ウンザリとする光景ばかりだったけど、一応は、これで暫くは安泰あんたいね」


 氷華がそんな安堵の声を発したのは二週間前のことであり、暫くは飛竜の保管という問題から逃れることができた。

 そう、問題が解決したはずだった。

 ところが、いまやその倉庫のみならずコンビニまで飛竜の肉で埋まっている状態なのだ。


「ねえ、それでどうするの?」


 二週間前の出来事を思い起こしていると、氷華が再び同じ問い掛けをしてきた。

 でも、何度尋ねられても答えようがない。


「そうだね……どうしようか……」


 ただただ腕を組んで頭を悩ませるしかないのだけど、そこで同じように考え込んでいた一凛が口を開く。


「なあ、ベースキャンプ地を変えないか? その方が移動も楽だし」


 確かに、彼女の言うことはもっともだろう。タワーマンションの様子からすると、まだまだ飛竜が居るのだ。

 ちょっと広めの倉庫があっても、あっという間に満タンになるはずだ。

 オマケに現在は建物の殆どを倉庫代わりにしたことから、僕等はパン屋で暮しているのだけど、やはりマンションから飛竜を運ぶのは手間なのだ。

 一応、移動が面倒だということで、キャンプ地からマンションまでの間を魔法で焼き払い、大きな通りを作ってあるのだけど、それでも飛竜を運ぶのは面倒だった。


 因みに、パン屋は住居と兼用だったようなのだけど、誰も住んでいなかった。いや、誰の遺体も無かったと言った方が正確だと思う。

 多分、さっさと避難してしまったのだろう。もしくは、その途中で他界したかだ。まあ、それは知らぬが花だったりするので、敢えて深く考えないようにした。


 それはそうと、飛竜を保管することを重要視しているのは、単にたんぱく源というだけではない。

 実のところ、飛竜の肉はぶっ魂消たまげるほどに美味しかったのだ。

 それは、人生で右に出るものがないほどの美味であり、恐らく飛竜の肉さえあれば、誰でも料理の鉄人に圧勝することになるだろう。

 それほどまでに、飛竜の肉は美味しい。そう、後遺症なんて気にならなくなるほどにね。


 ああ、後遺症こういしょう……後遺症……後遺症と書いて、後遺症さいこうと読む。


 素晴らしかった。飛竜に敬意を表し、称賛したいほどに素晴らしかった。

 ただ、恐らく、氷華と一凛からすれば、遺憾いかんの意を表明したかったに違いないはずだ。









 飛竜が最高だという話をするならば、三週間前に遡る必要がある。

 そう、それは飛竜討伐を始めた初日のことだった。

 ココアに強請ねだられて、一匹の飛竜を持ち帰ることにした。

 その目的は、もちろん、食べるためだ。


「フニャ~ン! フニャ~~ン!」


「はいはい、もうちょっと待ってね」


 これ以上待て~~~んと言わんばかりに、ココアが飛び跳ねている。だけど、残念なことに未だ肉は焼けていない。

 ワイルドボアをさばいた要領で飛竜を解体しながら、既に処理を済ませた肉が乗った網を見やる。

 そう、待ちきれないココア……ココアと一凛のために、その日食べる分だけを先に切り分けて焼いているのだ。


 美味しそうな匂いを撒き散らす網の前では、ココアのみならず、今にもよだれを垂らさんばかりの一凛が犬座りしている。

 それこそ、動物が二匹になったかのようだ。

 まあ、それは良いとして、彼女は本当に食べるつもりなのだろうか。

 ワイルドボアを食べた時のことを考えれば、なんらかしら後遺症が出ることが目に見えている。

 でも、彼女はやる気だ。あの目は獲物を捉えた鷹の眼だ。

 間違いなく、彼女の食欲は何よりも最強なのだろう。


 まあ、先に僕が毒味すれば大丈夫か……


 僕自身はワイルドボアの後遺症が発症しなくなっていることもあって、生死に係るかどうかだけを判断すれば問題ないと考えた。

 あとは、牙が生えようが、鱗ができようが、自分でなんとかするだろう。

 だって、彼女が望んだことなのだ。


 なんて考えつつ、徐につまみ食い――毒味する。


「フシャーーーーーーー!」


「くろうーーーーーーーー! なにやっとんじゃーーーーー! このどーーーーてーーーーがーーーー!」


 先に肉を口にしたことが気に入らなかったのだろう。珍しくココアが威嚇の声を上げ、一凛が怒髪天の勢いで発狂した。


 ちょ、ちょ~~~~! この場合、童貞は関係ないよね。てか、大きなお世話だよ。いやいや、いっそ君で童貞を卒業してやろうか!?


 一凛の心無い叫び声で、思わず怒りと欲望を湧き起こす。

 ところが、口の中の肉の味が染み渡った途端、思わず涙を零してしまった。


「ウニャ?」


「ど、どうしたんだ?」


「どうしたの? 急に泣き始めて」


 突然のことに、ココアと一凛のみならず、氷華までもが驚いていた。

 ただ、彼女達に返事をしようにも、思うように声が出せなかった。そう、咀嚼そしゃくすることに意識を奪われてしまったのだ。

 そう、それほどまでに飛竜の肉が美味しかった。

 口の中で何度も噛みしめた肉を嚥下えんかすると、すぐさま次の肉を口に入れる。

 まさに、麻薬の如く飛竜の肉にせられてしまった。


 返事をすることなく、僕は次々と肉を頬張る。

 そうなると、黙っていられない者が居る。いや、者達が居る。


「フ、フシャーーーーーーー!」


「あっ、こら!」


 ココアと一凛がまなじりを吊り上げて発狂した。

 ただ、僕が肉の美味さにのめり込んでいるのを見て、二人は感じ取ったのだろう。

 この肉はヤバいほどに美味いと……


「フニーーー!」


「もう堪らん! あの様子からすると、めっちゃ美味いはずだ」


 ココアと一凛は、有無も言わさず、網の上の肉に襲い掛かった。


「ふにゃ~ん」


「かほっ……」


「ちょ、だ、大丈夫?」


 極上の香りを漂わせる肉を口に入れた途端、ココアと一凛が至高の表情を浮かべた。

 それを見た氷華が心配そうに声を掛けるのだけど、二人はモシャモシャと無言で噛みしめると、それをゴクリと嚥下する。

 そして、その一口がまるでスター合図だったかのように、全力で肉を食い漁り始めた。


「うにゃにゃにゃにゃ~~~ん」


「がふがふがふ、かはかは、がふがふ」


「ちょ、ちょっと、どうしたの? みんなおかしいわよ?」


 僕のみならず、ココアや一凛が肉に熱中するのを見て、氷華が首を傾げるのだけど、彼女も何か気付いたようだ。


「もしかして、これって美味しいの? 声が出ないほどに? ううう、どうしよう。後遺症が怖いし……」


 無心に喰らう二人と一匹の姿を目にして、彼女は肉の魅力に気付いたようだ。でも、やはり後遺症という三文字が引き止めたようだ。

 だけど、その途端、彼女のお腹が苦言を漏らした。


「くう~~~~っ!」


 それはそれは立派な自己主張だった。

 派手に空腹の声をあげたお腹を押さえ、氷華は真っ赤な顔になる。

 だけど、誰も相手にしない。二人と一匹の仲間の意識は、目の前でこんがりと焼けた肉にしか向いていない。


「もうっ、なによ失礼ね!」


 お腹の音について言及しなかったことを責められるのもおかしな話なのだけど、正直言って、それどころではなかった。

 彼女の相手をする暇なんて全くない。そう、肉の味を楽しむために口を動かす方が忙しいのだ。


 さすがに、その常軌を逸した食べっぷりが、彼女の忍耐力に勝ったようだ。

 とうとう氷華も網の上でほどよく焼けている肉に手を出してしまった。


「ちょ、ちょっとだけ、一口くらいなら平気よね?」


 誰に言い訳しているのかは不明だったりするのだけど、誰一人として聞く耳を持っていないと知ると、彼女は右手に箸で恐る恐る一切れの肉を摘まんで口に入れる。


「あつ、あつ、あつ……なにこれ……はぁ~舌がとろけるわ。だめ、これは反則よ」


 こうして氷華も陥落した。

 その後は、ひたすら無心で肉を焼き、誰一人話をすることなく食い続けた。

 そして、お腹が満たされて、やっと落ち着いた時だった。


 ビリビリ……ビシャ。


 なにやら不快な効果音が響き渡った。

 それは、まるで布が引き裂かれるような音に聞こえた。


「えっ、いまの、何の音?」


「さあ?」


「なにかしら?」


 満腹になったお陰で、既に落ち着いたこともあって、意識は平常に戻っている。

 そんなタイミングで、何やら裂けるような音が聞こえてきたのだ。

 誰もが首を傾げたのだけど、次の瞬間、氷華と一凛の服が弾け飛んだ。


「うひゃ! なによ、これ」


「うわっ! なんだなんだ!」


 突然の出来事に、氷華と一凛がいまだ育ちきっていない胸を露にしながら声を上げた。

 ただ、二人の様相と言えば、服のみならず下着までが弾け飛んでいる。

 そして、彼女達にとって残念なことに、弾け飛んだ下着は上だけじゃなかった。


 うわっ、氷華はツルツルだけど、一凛はちゃんと生えてたんだね……てか、早く脳内に記録しなきゃ……


 ここぞとばかりにラッキースケベを満喫する。いや、脳内録画する。

 本来はそれどころじゃない。でも、今は完全に二人の裸体に釘付けとなっていた。


「ちょ、な、なによこれ、きゃ、黒鵜君、見ちゃダメ! って、尻尾?」


「く、黒鵜、み、見るな! うわっ、背中がモゴモゴすると思ったら、こ、これって、は、翼か?」


 氷華と一凛は、素っ裸になったことで焦りを露にする。ただ、そこで服が弾け飛んだ理由に気付いたようだ。

 そう、二人の背中からはコウモリのような翼が生え、お尻の少し上からは太い尻尾が伸びていた。


 初めの内は、二人とも必死に裸を隠そうとしたのだけど、翼と尻尾に気付くと、裸であることも忘れて慌て始めた。

 二人が尻尾や羽に手を伸ばす度に、二つの胸がフルフルと遠慮がちにれ、僕の心を揺さぶる。

 なにしろ、眼前で背中を気にしている二人は、十八禁どころか、無修正なのだ。


「だ、だめ、もう我慢できない……ごめん、氷華! 一凛! いただきま~す」


 さすがに、これは我慢の限界だった。

 もう辛抱堪らんとばかりに、二人に詫びながら飛び掛かる。


 この場合は仕方ないと思う。なにしろ、僕は健康な若者で、特に女の子のことが気になって仕方ない年頃なのだから。

 心中でそんな言い訳をしながら、まさにル〇ン三世の如く宙を舞う。

 そう、「ふ~じこちゅわ~~~ん」てな感じだ。


「ちょ、ちょ、こ、こんな時に、なに発情してるのよ!」


「もうちょっと、ムードを考えろよな」


 彼女達の尻尾に負けじと下半身を巨大化させて、若き性をむき出しにすると、眦を吊り上げた氷華が苦言を漏らしながら腰を振った。続いて一凛もたしなみが足らんと言わんばかりに思いっきり腰を振る。

 それは、まさにフラダンスのような動きだ。

 ただ、次の瞬間、踊りとは程遠い衝撃が僕を打ちのめした。

 そう、二人は新たに加わった己が身体の一部を見事に使いこなしたのだ。


 結局、性欲をむき出しにした僕は、まさに天罰を食らうが如く、二人の尻尾攻撃を喰らって物の見事にノックアウトされてしまったのだった。

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