第9話 マッチ売りの少女だってHAPPY ENDで終わりたい
あれから数日……。
マチと出会ったあの日からは、いつも通りの日常を過ごしていた。
「お邪魔します」
「お邪魔されます」
今日は休日、静風が俺の家に遊びに来た。
遊び内容は主に将棋だ。
ちなみに俺の両親は共働きで、今は家にいない。
不安だ、とてつもなく。
「相変わらず汚い部屋ね、仕方ないから掃除してあげるよ」
そう言って誰がどう見ても綺麗な俺の城を物色しだす。
「待て、汚いとこなんてどこにも無いだろ。適当な理由で俺の部屋を荒らすな。……おい今静風俺の服こっそりカバンに入れただろ!ちょ、やめて、やめろー!?」
二人で格闘していると、静風が何かに気づいたようで、動きを止める。
「あら、この本……」
静風が一冊の本を手に取る。
「ああ、『マッチ売りの少女』だな」
「ふうん……」
静風はその本をじろじろ見ながらそう言った。
後に学校で、別れ際にマチが演技していなかったり、本の中に帰ったりして疑問に思わなかったのか聞いた所、俺が思っていた通り、トイレが済んで戻ったら話をしていたから、こっそり聞いて色々と察していたらしい。
……あれからマチは元気にしているだろうか。
異世界にいるから手紙の一つも寄越せないのは不便だ。
マチとの思い出は、買ったマッチとその本、だ……け……。
静風が右手にマチの本、左手にマチから買った完璧マッチを手にしていた。
「お前何しようとしてんの!? その左手のマッチは何なの!?」
「この本を手にした時、何となくマチちゃんがまたこっちに来る感じがしたの。だからライバルが増える前に燃やしておこうかと」
「なんだそれ!? そんなこと絶対するなよ数少ない俺の青春の結晶なんだから! ……って静風、お前今何て言った?」
その時、本が突然静風の手を振り払い宙に浮かびだす。
「させない! 今ならまだ止められる!」
そして本が少しずつ開きだし……たところで静風がパタンと閉じた。
「だから何やってんの!? 今のどう見てもマチが召喚される感じだったじゃん!」
静風は本を抱えて丸くなる、得意技の亀モードだ。
いかん、こうなったら誰にも静風を止められない!
くそ、今こそ通信空手を習っていた友達がやっていた格闘ゲームを近くで見ていた経験を活かす時が……!
「お久しぶりです皆さん!」
マチが部屋のドアから入ってきた。
「いやそっちからかよ!? 本から飛び出る系じゃないのかよ!?」
「別にそんな決まりは無いですよ?」
「ええー……、まあいいや、案外来るの早かったな。何かあったのか?」
ちなみに静風はそれはそれは見事なorzポーズを取っている。
「はい! あの後、神様に報告したのですが、『マッチの売りの少女がマッチ売れたらいかんでしょ』と、特別にまたこちらの世界でしばらく宣伝することになったんです!」
そういうことは早くおっしゃって下さい神様。
マッチ売れたらいけないのはまあ分かるが、それもう宣伝も何もなくないか?
「そう、残念だったね。じゃあお帰り下さい。」
いきなり静風が本の中にマチを押し込めようと強行する。
おいやめろ、うまくいかなくて体が断裂してグロいことになるかもしれない。
「ちょ、やめて下さい! いいんですかこんなことして!? 深夜にマッチであなたの家放火しますよ!?」
その脅しネタ好きですねマチさん。
「燃やしてみなさいよ。一人暮らしだから家無くなったら正当な理由で楠木君の家に上がり込むわよ。……そうよ! むしろ燃やしなさいよ!!」
いやいや何言ってるのこの子。
そんな反論有りかよ。
「えー!? 脅しが通用しないなんてー!」
まさかの有りだった。
俺を放置して、ギャーギャー目の前で騒ぐ二人を眺める。
……まさか、あの静風と言い合える人間がいるなんてなあ。
「とーにーかーく! 私は行く当てが無いので、しばらくは真木さんのところでお世話になりますからね!」
「はぁ!?」
余りの衝撃に声が思わず飛び出る。
「いやいや普通に家に両親いるから! そんないきなりは無理だぞ!?」
いきなりじゃなくても、女の子二人を家に泊まらせるなんてことを両親は許さないだろう。
「大丈夫です! ご両親ならさっき一か月ほどシベリア送りにしましたから!」
!?!!?
衝撃が強すぎて声が出ない。
「え!? お前何やってんの!? てかどうやったの!?」
あ、やっと出た。
「真木さん忘れましたか? 私はあらゆる文章に干渉できます! 元々あったシベリア送りの指令書の名前をちょいちょいっと弄っただけですよ。ラノベでは主人公の両親は都合が良いから海外出張させるのはよくあるパターンだと学校で習いました!」
お父さあああああああああああん!!
お母さあああああああああああん!!
「あなた親を勝手にシベリア送りだなんて最低ね! 反省しなさい! 反省したら私が許可するから! 私の両親も共働きだからシベリアに送っておいて!」
「静風さんの頼みならお安い御用ですよ!」
二人がグッ! とお互いの手を握りしめる。
この女、自分も家に上がり込むつもりだな。
「おい、いい加減にしろよ!? さすがにこれはやりすぎ――」
「おにーたん……おねがい」
マチが上目遣いでこっちを見てくる。
世界一可愛い子が、今俺の目の前にいた。
「あーいいよーずっと家にいていいよー……って、ちがーう!!」
くそ俺も騙された!
マチ、やはり何て恐ろしい子なんだ……!
「言質は取ったわ、早速家帰って荷造りしてくるから!」
静風がドアに向かって走っていく。
「私、静風さんには負けませんからね!」
話の進むこと激流の如し、もはや俺には止められない。
「おい待て静風! マチも……って引っ付くな! ああーもう! 誰か助けてくれー!」
「真木さん真木さん!」
俺が途方に暮れていると、マチが俺の足にしがみつきながらピョンピョン跳ねる。
「何だ? マチ」
「えへへ、読んでみただけです!」
マチはとても幸せそうに笑った。
HAPPY END
マッチ売りの少女だってHAPPY ENDで終わりたい いんびじ @enpitsu-hb
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