第7話 最後のお客様はデビルバスター 後編

 ――前回のあらすじ。

 New!! 【悲報】桃太郎実はぼっちだった!


 そんなネットニュースを頭の中に挙げながら、俺はある事に気づく。

 ちょっと待てよ、確か昔話の締めって……。

「あ! お前話のラストは『幸せに暮らしましたとさ』って書いてあったじゃん!? 現実充実してたじゃん! 嘘つき!」

「あんなのヤラセに決まってるだろ! おじいちゃんおばあちゃんとしか話してこなかったから結局誰とも上手く会話できなかったわ!」

 え、ええー……。

 結局嘘つきに変わりは無いじゃないか。

 まあ、おじいちゃんおばあちゃんはどうしても先に亡くなってしまうし、大金持ちでも里暮らしでは持て余すか。

「真木君、彼なかなかやるわよ……!」

 突然強キャラっぽいことを言い出す静風。

「そ、そうなのか静風!?」

 確かに何だかんだ自分からぼっちぼっち言う奴のほとんどはネタな中、真正ぼっちはなかなかやるよな。

「ただ桃太郎を演じるのでは無く、桃太郎視点での気持ちや境遇を考えて振舞っている……そう、あれは昔話の限られた桃太郎ではなく、まるで桃太郎そのものだよ!」

「うんそうだな、さすが静風だ」

 全然違った。

 しかも真実を知らずに真実に辿り着いた事に俺びっくりだよ、すごいよお前。

 俺達が話している間に、桃太郎は一歩近づいてくる。

「くそ! 俺を置いて本の世界の奴らは皆どんどん友達増やしやがって、許さない、絶対許さない!」

 余りにも理不尽な事を言いながら、桃太郎が腰に手を当て何かを……!

 ……何かを引き抜こうとしているが、桃太郎の手は空を切っている。

「……」

 恐らく刀があったであろう腰には何も無い。

 桃太郎の顔を段々と赤くなってきた。

「大変大変、彼肝心の刀作るの忘れてたみたいよ」

「多分銃刀法に引っ掛かるからじゃないか?」

「あ、そういえばあんぜんめんできょかおりなかったね」

 俺達の会話を聞いて桃太郎の顔は更に赤くなっていく。

「……ええい作戦変更だ! 我がお供よ、集合!」

 刀は諦めたらしい桃太郎が、手で輪を作り口で挟む。

 今度はぴぃぃぃっと口笛を吹いて……!

 ……しかし何も起こらなかった。

「あ、あれ? 何で……あっ」

 桃太郎は服の中から紙を一枚取り出し。

「しまった……すっかり忘れていた……」

 桃太郎はそれを見ながら頭を抱え始めた。

 何だろう、ちょっと気になる。

 その時、神のイタズラか、突然強い風が一瞬吹いた。

「くっ……ってちょっ、ああ!」

 桃太郎の持っていた紙が俺の前にヒラヒラと落ちてくる。

「どれどれ、何が書いてあるんだ?」

「あ! ちょっと待て!」

 桃太郎の紙を拾い、マチと静風も覗き込む。


『鬼退治して報酬が最初のきび団子一個とかどこのブラックですか。

 実家に帰らせて頂きます。今までお世話になりました。          

                            ――お供一同より』


 ……。

 辺りに静寂が訪れる。

「な、何だよ。言いたい事あるならハッキリ言えよ!」

 何だろう、何か桃太郎見てたら涙出てきた。

 桃太郎の期待に答えて、俺は代表して発言した。

「やったな桃太郎、これでぼっち神に進化だ」

「あああああ!! もう本当の本当に俺を怒らせたな!」

 ハッキリ言ってあげたのに酷い話だ。

 桃太郎は腰の袋からきび団子らしき物を取り出す。

「お、何だ何だ友達になろうってか? いいぜ団子くれたら友達に――」

「ち、ちち違うわ! くくく、今までのリア充には後ろからワッ!ってしたりと数々の粛清を行ってきたが、お前らに一番キツいのを食らわせてやる!」

 それ、小さい子のイタズラだよははは可愛いなあ、くらいにしか思われてないぞきっと。

「これの名は鬼美団子! 鬼共のお酒から人間にとっての危険物質を除いた液に漬け込んで作った物で、食べた者は口がとってもお酒臭くなるんだ! ふふふ、どうだ恐ろしいだろう? 余りの匂いにお巡りさんには未成年飲酒を疑われ、親にも怒られるのだ!」

 あ、どうせ無害かと思いきや地味に嫌なやつだった!

 でも安全面は完璧そうだ!

 俺が少し危機感を感じていたら。

「森林さん、私が桃太郎をやっつけるので、静風さんをお願いします」

 マチがそう耳打ちをした。

 恐らく静風がいると演技しないといけないから、話を聞かれないようにして欲しいのだろう。

 俺はマチに頷き、了解の意を示す。

 しかしどうしようか、今あるもので何か……。

 その時、森林 真木の頭の中に電撃が走った。

 ――はっ!? そうだこれで行こう!!

「静風、突然だがこれを見てくれ」

 俺はスマホを取り出すと、静風に画面を見せる。

「真木君何これ? ……将棋?」

「ちょっと難しい詰め将棋だよ。実は今日の朝からずっと考えてたんだけど、結局分からなくて気になって仕方無いんだ。ネットで答え探しても見つからなくてさ、悪いけどこれ解いてくれないか? もうホント気になって夜しか寝れないんだ」

 勿論嘘だ。

「それってスマホで答え見れないの?」

 ……。

「あ、ごっめーんスマホ急にぶっ壊れたー助けてお前だけが頼りなんだー」

「……!! 分かった! 頼りになる私に任せて! 真木君の睡眠は私が守る!」

 我ながらアホな作戦だと思ったが成功した。

 このたまにアホになるの悪い奴に引っかかりそうで心配になるが、今回は助かった。

 静風は一つの事に集中するとそれしか考えられなくなるタイプだ。

 余りに没頭しすぎて声が耳に入らない、肩叩いても気づかないレベルだ。

 あれは超長い詰め将棋526手詰め、解けるとかそんな話ではない。時間なんて永遠に稼げるだろう。

 さて、こっちは何とかなったが。

 マチは桃太郎をやっつけると言ってたが大丈夫だろうか……。

 俺の不安を他所に、マチが桃太郎に一歩近づく。

「何だどうしたマチ、俺を倒そうってか? 残念だが俺はこれでも鬼を無傷で退治した超一流最強無敗剣士。ただのマッチ売りに遅れを取ることは無いぜ?」

 桃太郎の台詞がもうかませ犬にしか聞こえないが、事実である。

 本当に大丈夫なのか? マチ……。

 マチは冷静な顔で桃太郎に話しかける。

「桃太郎さん、マッチ箱の側にある赤いのは何で出来ているか知っていますか?」

「ほえ? し、知らないな。……か、乾いた赤い絵の具とかか!?」

 それは無い。

 というか、これ今日の高校化学の授業でやったな、確か……。

「赤リンです」

 桃太郎は頭の上に?マークが出そうな顔をしている。

「赤リンは少し手を加えると、同じリンの同素体の黄リンになります。黄リンは水中で保存しないと自然発火する、製造中止されるほどの有毒物質で、致死量は0.1グラムです」

 その台詞を聞いた途端桃太郎の顔が青ざめる。

 ついでに俺も青ざめる。

 まじかアレそんな危なかったのか、怖すぎる。

「私はいつでもどこでも黄リンを作ることが出来ます。もし皆さんに手を出したなら、夜は枕を高くして眠れないと思うことですね」

 ……深夜放火ってマシな方だったんですね。

「そ、それがどうした! べべ別に怖くなんかないそ! 死んでも元の世界に帰るだけだしな!」

 ビビる桃太郎に、マチが追い討ちをかける。

「二時間以内で吐き気、胃痛などが始まり、二日後に嘔吐、下痢、肝臓部痛などの症状が現れ、重症では――」

「う、うわーん! 怖いよおばあちゃんー!!」

 桃太郎は泣きながらどこかへ去っていった。

 ……何か気の毒な奴だったな。

 まあ何はともあれ、マチの完全勝利だ!

「お疲れ様、ありがとうマチ」

 俺はマチに駆け寄ると、何気なくマチの頭をなでる。

「ふふ、めでたしめでたしですね」

 マチは嬉しそうに微笑んだ。


 ……さて、静風の所に戻らなければ。

 仕方ない事とはいえ、何か悪い事しちゃったし、今度一緒に将棋でも打ってあげようか。

「おーい静風、何か急に俺の中の詰め将棋ブームが去ったからもう解かなくて大丈夫――」

「あ、真木君見て見て、出来たよ!」

「は?」

 今何て言いましたこの子?

 静風からノートを受け取ると、数十ページが真っ黒になっていた。

 思わず最後のページを見てみる、……1526手目が書いてあった。

 えっと、さっきのマチと桃太郎のやり取り、何分経ったっけ?

「えへへ、褒めて褒めて!」

「……」

 俺は無言で静風をなでなですると、こちらも嬉しそうに微笑んだ。

 ……今度どんなお願いされても聞いてあげよう。

 俺はそっと心の中で誓った。

 

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