第6話 最後のお客様はデビルバスター 前編

「ありがとうございましたー」

 マッチ売りを再開してその後。

 俺たちは並んでいたほぼ全ての人達にマッチを売り、次でラスト一人となった。

 時間も遅くなってきたのか、周りに人はほとんど見当たらない。

 恐らくこの方が最後のお客様だろう。

 マチのカバンにはまだマッチ箱が二つ残っていた。

「すみませんお待たせしました! マッチはまだ売れ残りありますよ! 後は流れで何とかなります」

「真木君真木君、相談受けすぎて定型文出ちゃってる」

 いかんこれが職業病というものか。

 俺たちが手間取っている間にマチが前に出る。

「まっちはおひとつにひゃくえんです、ふたはこまでならまだざいこが――」

 突然マチが持っていたマッチ箱を落とす。

 見ると顔が固まっている、何かあったのだろうか。

「おいマチ、一体どうしたんだ?」

 そこには奇妙な格好をした男の子がいた。

 桃の絵がついたハチマキに、陣羽織。

「こっちに来てからは久しぶりだな、マッチ売りの少女!」

 日本人なら誰もが知っている、桃太郎がそこにいた。


「真木君今日はハロウィンだっけ?」

「もし今その時期なら俺は泣きながら勉強しているはずだよ」

 まあ静風は事情を知らないので、そう思うのも無理はないだろう。

 桃太郎と言えば、確かマチに他に誰か来ているのか聞いた時教えてくれた奴だったか。

 何かリア充をうんぬんかんぬんしてて応援しようと思った気がする。

「もうわかってるとおもうけど、あのこはももたろうだよ、なまえは――」

 マッチ売りの小女がマチなら、タローとかかな?

「デビルバスター ピーチデンジャラス」

「いや何でだよ! まさかの英語かよ! そもそも桃太郎って名前ちゃんとあるだろ!」

 俺が本の世界の理不尽に騒いでいると、桃太郎が俺達の存在に気づく。

「……ん? マチ何か話し方変わったな。まあいい、そちらの方達は?」

「え、えーっと、みなさんはわたしの……」

 マチが返答にもごもごしている。

 何だか言いにくそうな顔をしているなあマチ、――はっ!

 察しの良い俺は気づいてしまった。

 さては俺達の事を友達だと紹介するのが恥ずかしいんだな!

 それか『ど、どうしよう勝手に友達って言っていいのかな、私だけが思ってるだけで本当はお二人は私の事何とも思って無かったら迷惑ですよね……』とか思ってるに違いない!

 バカヤロー俺達はもう友達に決まってんだろっ!

 静風の方に視線を送ると、静風も親指を立てながら頷く。

 何て有能な奴なんだ。

 俺達はマチの両隣に立ち。

「「俺(私)達は! マチ(ちゃん)のお友達です!」」

 そう桃太郎に向かって言い放った。

 ……決まったな。

 何ならポーズでも付ければ良かったかもしれない。

「え!? あ、あの、その……」

 マチも嬉しそうな顔を……あれ?

 嬉しさ六割何てことしてしてくれちゃったんですか四割くらいの顔だ。

 もしかして違っただろうか、それなら結構恥ずかしいのだが。

「り、り、りりり」

 桃太郎が何やらぶつぶつ言い始める。

 何だ、突然桃辞めて林檎太郎になります宣言とかするのか?

「りりり、リア充だ。お前ら全員リア充だあああああああああ!!」

 そんな不本意な事を桃太郎は叫んだ。

 何かの聞き間違いだろうか。

 人生で一度も思ったこともないこと言われたぞ。

「落ち着けって、俺達は友達であって恋人とか言ってないぞ」

「だから何だよ! リア充男め! 爆ぜろ!」

 聞き間違いじゃ無かった。

 だとしたらこちらも黙っていられない。

「ちょっといい加減にしろよ、お前俺のRINEのフレンド人数知ってるか? 両手以内で済むんだぞ? 片足すら使わないで良いんだぞ? ふざけんなよお前俺のどこがリア充だよ! 慰謝料を請求する!!」

 俺の悲痛な叫びを聞いた、女子グループの目が痛い。

 実はこれでも鯖読んだ言い方なのは黙っておこう。

「シャラップ! リア充ってのは現実リアルが充実している奴の事であって、決して恋人持ちだけに留まらない! 人間の友達いる時点で俺にとってお前らは粛清対象だああああ!」

 ……は?

 こいつ今何て……友達一人でもいたらリア充……?

 余りの衝撃に返す言葉が見つからない。

「桃太郎の話を思い出して下さい。人々を苦しめている鬼を退治するのに、誰もついてきてくれなくて結局動物をお供にする男ですよ」

 マチがこっそり耳打ちで解説してくれた。

 ……うん。

 俺はマチの話を聞いて確信した。


 ――コイツ、ただの真正ぼっちだ!?



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