第5話 ボーイの恩返し

 マッチ売りを再開してその後。

 早速数人がちらほらと来てくれた。

 俺たちは好調な滑り出しだと喜んで売っていたが、時間が経つにつれその数は徐々に増え始め……。

「いやどうなってんのこれ」

 なんということでしょう。

 私たちの目の前には、いつの間にかたくさんの人が並んでいました。


「はわ、はわわわ」

 マチはかつてない盛況ぶりに理解が追い付いていないようだ。

 ちなみに俺は頭が???でいっぱいだ。

「あのー、マッチを売っている場所というのはここですか?」

 先頭の男性がさっそく声をかけてきた

「は、はいそうです、一箱どうですか?」

「じゃあ一つお願いします、頑張って下さい!」

 応援までされてしまった。

 あれか、売れない俺達に皆が慈悲で買ってくれているのだろうか。

「こんなにたくさんの人が来た理由を聞いたら?」

 考え込んでた俺に静風が提案する。

「それもそうだな、すみませーん!」

 俺はさっきの男性に声をかけようと。

「こんにちは、マッチを販売しているというのはここで合っていますか?」

 ――したけど優しそうな雰囲気の美人なお姉さんが来たからこっちに聞こううんそうしよう!

「はいこんにちはそうです! マッチ売っていますよ! ……あのーすみません、こんなに人が集まった理由を何かご存知ありませんか?」

「ああ、多分''学校過敏症ボーイ''さんから来たんだと思いますよ、私もそうですし」

 学校過敏症ボーイさん?

 俺がしっくりこないのを見て、女性がスマホを取り出す。

「知りませんか? 今大人気の人で、少し前に皆さんのことをSNSで紹介していたんですよ」

 早速お姉さんが画面を見せてくれた。


 今日もいつもの BAD SCHOOL!! 俺の青春 BAD SQUALL!!

 放課後ぶらぶら下校中!! 高校生とコスプレ少女マッチ販売中!?

 学院駅前出没中!! 相談窓口も重ねてる!! 

 俺もお世話になったよ今日は THANK YOU 優しいお兄さん!!

 HEY HEY HEY YO YO!!

 Fooooooooooooooooooooooooooooo!!!!


 ……何だこのハイテンション。

「ほら、これ皆さんのことですよね。相談役もしてくれるとか?」

「マッチはともかく、相談役なんて覚えが……」

 下校中っていうことは学生だよな、今日話した学生と言えば……。

 あっ。

 その時、森林の脳内にマッチが初めて売れた時が浮かび上がる。


 ――これあの時の中学生かYO!?!!?


 人間表裏ありすぎだYO!

 このキャラを現実でも出していけば、あの少年がバカにされるのもきっと……。

 うん無理だね、俺だったら死因恥ずか死で夕方のニュースに流れちゃう。

「心あたりありました、教えてくれてありがとうございます。あ、マッチ一箱どうですか?」

「折角なんでお一つ買いますね。……じゃあ周りを待たせるといけないので私はこのへんでっ」

 そう言って足早に去っていった。

 何だろう、何かから逃げたかのような……?

「ねえ真木君、何でさっきの女の人に質問したの? 最初の男の人にも聞けたし、別に周りにも聞く候補いたよねたくさん」

 …………。

 俺は黙秘権を行使する。

「絶対美人だったからだよね、真木君。ねえねえ真木君」

 静風が俺を揺さぶりながら覗き込んでくる。

 俺は黙秘権を行使する、……あ、ちょ、やめて、結構怖い!

 マ、マチ、俺に助け舟を……!

 マチのほうを見ると、下から俺をじっと見つめていた。

 どういうことですか森林さん、と目で訴えているようだ。

「……はい! お待たせして大変申し訳ございません! 次の方どうぞー!」

「「あ、はぐらかした!!」」



 こうして。


「最近彼女とうまくいかなくて……」

「マッチを買いましょう。停電時にマッチを明かり代わりにして、物理的に二人の距離を縮めるのです。後は流れで何とかなります」

「す、すごい! ありがとうございます! 今度自宅デートで鍵かけた後にブレーカー破壊しますね!」

 あの、何も考えずに喋ったけど別にそんな事を伝えたかったわけじゃあ……。

「素晴らしい案ね、真木君!」

 ……後で私も真木君を家に呼んでやってみよう! って顔してますよ静風さん。



 何故か奇妙なマッチを売っている人達がいると。



「クラスの女子にモテたいのですが……」

「マッチを買いましょう。マッチを使ったIQ問題であなたの秀才っぷりを見せ付けましょう。後は流れで何とかなります」

「は? そんなのでモテたら苦労するか!」

 くそ! 返事に困ったら「後は流れで何とかなります作戦」はもう無理か!?

「ねえ、真木君からの御言葉を否定するの? 死にたいの?」

 あ、ちょ。

「ひぃ!? す、すみません! あ、あのマッチを買いますのでどうかお許しを!?」

 ……これからは静風がいる時は発言に気をつけよう。



 噂はもっと広がり、買う人も更に増えていき。



「私はマッチ製造会社の者です。困りますよ勝手に人のマッチを売られては。売り上げ全額をこちらに渡して頂いたら警察沙汰にはしませんから、さあ早く」

「御社のマッチにアラーム機能はついてますか?」

「この度は誠に申し訳ございませんでした。では失礼します」

 逃げようとする男を女子グループが確保する、強い。

「あなたやたらお金取ろうとしてますし、多分会社の人でも何でも無いなりすましですよね? 訴えられたくなければマッチを買っていきましょうね」

「わるいひとはいえもやしますよ?」

 俺はそっと男の安否を祈った、――南無。



 マッチは続々と売れていった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る