第5 あととり

「ねえねえ」


「なになに」


「使い回し?」


「やめてくれよ。過去のストックをつかってるだけだ」


「ところで、君は誰だい?」


「おいおい、ここでは名乗らない約束だろう?」


「そうだったね。郷に入りては郷に従え。先代からのお約束だったね」


「先代様がいなくなり一週間。私たちが跡をとったはいいが、一向に増えない。どうしたものか」


「そもそも跡取りって何をするんだろう」


「それは、もちろん、跡を消さぬよう守り続けることだろう」


「跡って」


「跡は跡だよ。偉大な長老様達の寝相の跡さ」


「それはわかるよ。僕ら跡取りの仕事だもんね。だからその跡って」


「寝相」


「それを」


「線でなぞる」


「…何の意味が」


「やめなさい!歴代跡取りが考えないようにしてきたことだ!」


「…はぁ」


「跡取りとはな、先人が偉大であったその権威を示すためのものなんだ。跡取りがなければ、その家名は大きくないということだ」


「寝相でなくてもよいのでは」


「それはそう思う」


「ほら。寝相にも何か意味があるというんですか!」


「それは…」


「郷に入りては、と先ほどありましたけど、従う郷も意味がなければただの鎖です!」


「それは…あなたが決めることだ!ぬっ!」


「ああ!…言えないからって消える事ないのに。これで跡取りがひとりになってしまった。人間国宝化待ったなしだ」


「さあどうしよう。さあどうしよう。跡取りの伝統を残し、その技を伝えるためには…考えなければ跡取りが居なくなってしまう」


「跡取りが居なくても、時代が過ぎても跡取りが居たと分かる方法は…」







「あ、跡取りの跡を残せばいいのか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る