真実は闇の中
この国で最も危険と言われる場所。それは第三王子エリオルの実験室……
一歩足を踏み込めばそこは別世界。決して生きて出ては来られぬと噂される
神の力ですら及ばぬという魔窟
「う……」
ナラヴァスはゆっくりと瞼を開ける。青く薄暗い部屋。人工の光。見たこともない不思議な機械が立ち並ぶ
「おはようナラヴァス。いや、被験体1467号かな」
頭に声がかかる。同時に、コツン、とひたいに痛みが走る。額に当てられた靴底。
見上げれば、ゆったりとエリオルが足を組んで、ナラヴァスを見下している。
闇にキラリと光る眼鏡
「なっなんだこれは!?」
立ち上がろうとしてナラヴァスが崩れ落ちる。縛られている。
しかもなぜか見事な亀甲縛りだ!
「僕が君を五体満足で国に返すと思った?僕の愛しいユレカとあんな事こんな事したうえに裏切り、傷つけた君を!!!」
「れ、恋愛は個人の自由だろう!!!さっさと解け!」
「活きのいい実験体は好きだけど、口の聞き方に気をつけたほうがいいよ」
ヒュン
エリオルのムチが唸る!
「お、俺をモルモットにするつもりか!?」
「名誉ある科学への貢献と言ってほしいな」
げし。
エリオルのかかとがナラヴァスを小突く。
げしげしげしごんごんごん。
無慈悲。全く理不尽な攻撃。どう贔屓目に見ても科学への貢献ではない
「許せない!そのカッサカサの唇でユレカの唇を奪ったなんて!お前なんて這いつくばって薄汚い床にキスするのがお似合いだ!!」
明らかに私怨である
エリオルがゆーっくりと眼鏡を外す
「僕はね、本当は目がとてもいいんだ……。網膜の桿体細胞が常人より多いんだ。暗い実験室でもよーく見えるよ。見えすぎて困るから、普段は眼鏡をかけているんだよ……。」
凍りつく宇宙のエーテルのような瞳がナラヴァスを射抜く
エリオルがにっこり笑う
「ねえ、どうして眼鏡を外したとおもう。よーく見るためだよ。もがき苦しむ君の姿をね……。どうして猿轡をされなかったか不思議じゃないの?君の悲鳴をじっくり聴くためだよ
ふふふ、出がらし廃人になるまで実験をして……。最後は殺人アメーバの餌がいい?缶詰になりたい?カンディルの水槽につき落とそうか。僕にも慈悲はあるからね、好きなのを選ばせてあげるよ」
ゾッとするほど凄絶な笑みをくれるエリオル。
こんな状況でなければ、男でも倒錯に走って惚れていたかもしれない。
だがナラヴァスには恐怖しかもたらさなかった。
このままでは、エリオルの実験室から漏れる謎の悲鳴1になってしまう!!!!
「たった、助け!!!!うわあああああああー!!!」
恥も外聞も人間の尊厳もかなぐり捨てて逃げんともがく。だが悲しいかな、ジタバタのたうつのみ
蒼白のナラヴァスが絶叫するが、エリオルには壮麗な音楽のようにしか感じない。嬉しそうに目を細める。お父さま譲りの残酷さをいかんなく発揮する
「あーーー、見える、見えすぎちゃって困るなあ……。え?死にたくない?すぐに泣いて死を乞うように調教してあげるよ。ふふ、ふ。」
こ、この眼鏡はいっとう人をいたぶる時が楽しいのに違いない!!!
何が女嫌いだ、こいつはドSだ、人道を外れた隠れ鬼畜ドSだーーー!!!!
ああ、確かにナラヴァスは根性悪の悪人ではある。だがしかし、この場においてどちらが悪かと問われれば百人中百人がエリオルと即答するであろう。九十八人くらいはエリオルが魔王だと断じるだろう。残りの二人は腰が抜ける
部屋の灯りがほつほつと消えていく
ぱつん、と最後に青い光が瞬いて消えた
真っ暗な闇の中で、いったい何が行われたか?
それは誰にもわからない
アクセルたちに助け出された後も、ナラヴァスは黙して決して語ることはなかったと云う……。
君に百億の百合を 東山ゆう @cro24915
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