嘘つき狼の受難

どうしてしまったんだ俺は?



こうはなるまいと思っていたのに……



***



アクセルの怪我は驚異的なスピードで回復したが、それに反比例してどんどん様子がおかしくなっていった。


ローズを見ると動悸がする。


もじもじして目を合わせられない。

手を繋ぐなどもってのほか


なんであんなにベタベタできたんだ?


過去の己のとんでもない所業を思い出すと心臓が爆発しそうだ


ローズ…


小さく名を呟いただけで胸が跳ねる


血管が沸騰してばらばら解けてしまいそうだ。


うかつに近寄れん。


仕方がないから柱の陰からキラキラした熱視線を注ぐ。背中にバラ背負って。


ああ、ローズ、今日も素敵…!


思わず頬に手を当ててため息ついてしまう

その姿はまるで乙女の恥じらうそれ


ローズは俺が好き、嫌い、好き…


気がつくと手近な薔薇を手折って花占いしていたりする

ど、どうしてしまったんだ俺は!?


ちがう、俺はアレじゃない。変態じゃない。変態じゃないぞ。兄貴のようになったら終わりだ。あ、兄貴って言っちゃった。兄貴のようになったら終わりだ…!!!!



しかし無情にも神の代から刻まれた恋の毒はアクセルの体を順調に犯し…


そして遂にk点越えした朝が来る…



***



その瞬間は突然やってきた


朝ごはんを食べて、ローズとのんびり。執務でほんの少し離れ、再び廊下でばったり鉢合わせした瞬間…。


ローズが微笑んだ。


その瞬間アクセルは真っ白な閃光に包まれて消し飛ぶかと思った


一瞬エリオルの実験に巻き込まれて死んだのかと思ったが、違った。


ローズから後光が差している!!なんて眩しいんだ!!!


神に平伏す人間はこんな気持ちだろう

声を聞いたら死んでしまうかもしれない


産まれてから築き上げてきた価値観を根底からひっくり返すほどの衝撃

卑小な己など、消しクズとなって溶けてしまう


ローズ、美しい


美しい、が…


思わずアクセルは絶叫する


「服を着ろーーーーっ!!!!!!!! この、露出狂!!!!」


物凄い気迫でカーテンを引きちぎる。

カーテンのシャーってなるやつがぶちぶち弾け飛ぶ。

瞬く間にローズをぐるぐる巻きにする


「え、な、何!?」


簀巻きにされたローズが目を白黒させる。


「何言ってるの!?いつも通り踊り子の衣装じゃない。ていうかアクセルこういう服好きでしょう?」


「とんでもない!おへそが見えてるじゃないか!!ダメだ!絶対、ダメだ!なんて破廉恥な……!!!!! この王宮は性欲過多の野獣共が放し飼いなんだぞ!!危なすぎる!お前はスポッと布にくるまって目以外出すな!」


「いやよ、そんなへんてこりんな衣装!!! どうしちゃったの?」


「ローズ、好きなんだ! 好きで好きでたまらん! お前の素肌を誰にも見られたくない!うああ、ローズの頬は薔薇のように美しい…瞳は海よりも深く俺を捉え鳥肌が立つ…」


「はいはい、そういうの聞き飽きました。アクセルって芝居掛かった台詞回しが好きねえ。嘘つく時のくせ?」

もぞもぞ布から抜け出してローズが呆れ声でため息をつく


「ちがっ!ちがう!今日は違くってっ!!!だから本当に好きなんだー!ああああーっ、ローズ、輝くローズ、俺はなんて卑小で下卑た存在だろう、まるで女神の膝元に傅いたようだ!」


「はいはい、それ前にも言ってましたよ。もうそう言うのいいですから。」


「本心だあああー!!!なぜ伝わらーん!誰か俺を信じろ!」


アクセルは頭を抱えてぶんぶん苦悶する


残念、今までの所業が悪すぎた!


がくんとアクセルの膝の力が抜ける

砂漠で力尽きた旅人のように這いつくばる


「ああ、ローズ、君は果てなき旅路の果てにたどり着いたオアシス!!!」


なんとか床を這ってよろよろローズに這い寄る。

しかしなんということか、ローズはすすすっと逃げた!


冷ややかな視線がアクセルを睨め付ける


「いや、たどり着かないでください。私は蜃気楼でいいです。触れないでください」


「頼むからそういうこと言うなーーーーーーーーーっ!!!!!! 死ぬーーっ!お前にそういうこと言われるとなんか心臓がギューーーッとなる。おえっ」


喉元を抑えてゴロゴロ床を転がるアクセル。瀕死の虫けらのよう。


「なあにアクセル、おおげさねえー。今日のアクセルって面白いわ!」


くすくすローズが笑う


「もちろん、アクセルのこと大好きよ?」


無垢な微笑みが心臓を打ち抜く


「がぼッ!?」


アクセルは滝の如く噴血した


純白の衣が真っ赤に染まる

衝動が身体中を駆け巡る


「うおおおおお、おれも、おれもローズがすっすっすっ、すっ(言えてない)!!!!!!!あうあう、ろーず、ろーずろーずろずろず、かわいいいいい」


思わず傍の女神像を力の限り抱きしめる


みしみしみしみしみしみしっっっっ!!!!


抱き潰された女神像が崩れ落ちる


「なーにアクセル?石像にまで抱きついてそんなに裸の女の人が好きなの?」


ちがあうううう!!!!!本当はお前に抱きつきたいのだが身体が言うことを聞かんのだ!!!!!


くそー、なぜ伝わらん!


「くそー言葉で伝わらんなら直接体に叩き込んでやる!優しくねっとり、奥深くまでみっちりな……!三日三晩は寝れんと思え…。」


虚勢を張っているが顔は真っ赤、目には涙粒、心臓は早鐘のよう、膝はガクガク、声は上ずりまくり、鼻血だくだくである


なんとか根性でローズを掻き抱く


不思議そうにきょとんと小首を傾げるローズ


可愛そうだが、この滾る想い伝わるまで覚悟してもらおう。


お姫様抱っこで扉の奥へ消えていく


ばたん


薔薇の海が二人を飲み込む

廊下にまで溢れた薔薇が、何事もなかったかのように微笑んで揺れた。


ベッドの上でローズとアクセル、どちらが悶えのたうったか、それはここでは語るまい


***




ああローズ


絶命寸前で愛しい花の名前を呼ぶ


たった一輪の花に心奪われる、この歓びはなんだろう



君は僕の乾いた心に咲いた薔薇




僕の全てを捧げよう




棘が刺さるのも気にせずに








一生離すものか!


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