宴
『お城を案内してあげるよ……』
『お客様を案内するのは僕らの愉しみだもの。惑わせるのもね……。』
「おい!俺を置いていくな! ローズと離れると息ができなくて死ぬ!」
キラキラピカピカ喧々諤々
巨大迷宮城探検隊ツアー(超絶美形付)が勝手に開始され、お城をぐるぐる連れまわされていたらあっという間に夜になってしまった。
不思議な城だ。電気とやら言う照明は真昼のように明るい。
「いただきます!」
とんでもない豪華ディナーだ。遠慮なく堪能させていただく。人生で何度味わえるかわからないのだから。
「さあ! 久方ぶりに家族集合!後は音楽と決まっている!」
皆が浮き浮きとサロンへ移動する
『あ』
双子がくすくす笑いを抑えて隅を指さす
『エリオル兄さんが脱皮しているよ』
みやると、長い黒髪の青年がちょこんとに隅っこに座っている。
陽の光を浴びずに育ったかとみまごう、真っ白な肌の美青年。銀縁の眼鏡。また美青年だわ。目が慣れてきた。
脇に蛇の脱皮の様にへにょっとしおれた防護スーツを脱ぎ捨てている。
「バッテリーが切れた……」
むくれたようにぷくっと膨れている
「あ、あの、こんばんは……」
とりあえずマナーとして挨拶はしておこう
瞬間、眼鏡美青年の顔が恐怖に引きつる。ざざざっと壁際に後ずさる。
「うわあああ、露出狂だーーーーーー!!!」
華奢な体のどこにそんな声量があるのか、凄い絶叫だ
「ち、違うわ! 熱砂の民の踊り子の衣装よ!」
「でもおへそが見えてる!!! うわーーーーーーっ!!! 女体怖い!!! 女怖い! そう言ってみんなすぐ卑猥な布を脱ぎ捨てて、僕の美しく熟れる寸前の身体に襲い掛かるんだー!!! 若い男のエキスを吸い尽くすんだーーーーー!!!!」
一体過去に何があったのか。そしてどんだけ自意識過剰なんだ
涙鼻水その他もろもろの液体で美しい顔がぐっちゃぐちゃだ。
「あ……あの、この衣装はね? 神様に捧げる踊りための伝統衣装なのよ? 伝統! わかる?」
伝統という言葉でなんとかごまかそうとするローズ。
双子が笑い転げている
「えぐえぐっ……! 踊り? 踊るの? 襲わない?」
「襲わない襲わない! こう! こうやって舞うの! とんとん、しゃん!」
ローズがくるっと舞う。ふわっと羽衣が弧を描く。つま先までピンと伸ばして、空気を切り取る様に回ってみせる。
「…きれいな回転軸だなあ。キラキラしてる」
エリオルがほっぺの涙を拭って、ほっと息をつく。意外にも芸術的審美眼はあるらしい。
「神様への踊りなのよ」
「じゃあ、僕達への捧げものなんだね」
眼鏡の涙を拭きながらエリオルが言う
『だって僕たちは神様だもの』双子
はい?
また突拍子もない話だ。今日何度目だろう
「ローズはこの世界の神話を知っている?」
双子が問いかける
「もちろん、この世界の人ならだれでも知っているわ。人間に恋して焦れ死んでしまった豊穣の神様……」
『あれはね、神話じゃなくて全部本当の話なんだよ』
「教会が随分ロマンチックに捻じ曲げたけれどね。……ローズ。ローズはアクセルの選んだ人だから教えてあげるよ。」
双子が頬を寄せ合って笑う。口づけせんばかり
いつのまにかエリオルが、長い指先で竪琴をつまはじく。ポロポロと悲し気な旋律がこぼれ出す。
「本当のお話はね……昔々、人類にまだ知恵があったころ。うぬぼれやの人間たちがある壮大な実験を行いました。神様を作ろうとしたのです。正確には、神にも等しき人間を作ろうとした。遺伝子をいじくって」
「イデンシ?」
『魂みたいなものだよ』
エリオルの銀の竪琴にあしらわれた二対の蛇がきらりと輝く
「うまくいきそうだった。後は神様が妻を娶り、繁殖するだけ。けれどまあ、まさかの恋煩いで神様は焦れ死に。その後人類はしっちゃかめっちゃか。木の棒で戦うところから文明をやり直す羽目になりました。滅びる前に神話を残してね。だけどね、すっかり誰もが忘れたころに、ひっそりと神様が蘇ったのさ。僕たちの父様。お父様が見事恋を成就させて、そして生まれたのが僕達。僕たちはね、人間が神にも等しき存在になろうとした、壮大な実験のなれの果て。そしてこの世界の教義上で言えば、神」
な、なんだかよく判らないけれど雰囲気にのまれてしまいそう
くすくす
「ローズ、僕たちの為に踊ってくれるかい?」
エリオルがほほ笑む
人間離れした美貌
「なに、難しいことじゃない! 要は俺様は世界一凄いと言うこと言うことだ! もちろん俺様に選ばれたローズはもっとすごいぞ!いーか!お前はこの俺様のきゅーきょくの遺伝子に見合ったきゅーきょくときゅーきょくがかけ合わさって二乗億倍の究極生命体として、最も神に近き存在として顕現するのだ光栄なる存在なのだ!!!」
きゅーきゅーうるさいアクセルである
「とにかく、だ。俺たちの為に踊るんじゃない。ローズは俺と踊るんだ!」
白い歯を輝かせて、アクセルが子犬のように笑う。
さっと腕を掴まれる。流れるようなエスコート。
皆が手に楽器を構えて掻きならす。花のように音楽が乱れ咲く
あ、と思う間もなくくるくる身体を回される。熱い胸板でうけとめられる。うそ、身が軽い!アクセルの目じりがふっと緩む。
「美しい。女神のようだ、ローズ」
いつも一人で踊っていたから。誰かに身を預けるのは初めてだわ……。
あれ、ちょっと楽しい……。
「いいなあ、私も踊りたい…」
リリーが呟く
「いけません!身重のリリーさんがすっ転んだら大変だから、私がお姫様抱っこで全部移動しているのですよ!踊りなんてもってのほかです!」
ぎゅううっとリリーを抱きしめてアンリがほおずりする。凄まじい過保護。常軌を逸した溺愛ぶりである
「ええっと、激しい踊りは無理でも適度な運動はいいと思いますよ……。そうだ、私が安産祈願の踊りを舞って差し上げましょう」
途端、きっ、とリリーがローズをねめつける。目が血走っている。
な、なに!?
がっ、と腕を掴まれる
「あなたまともね!?まともな人ね?お願いずっとこの城にいて!!ああよかった!アクセルが連れてきた人だから、変人かと疑ってごめんなさい!! 最近わたしの常識がおかしいんじゃないかって、錯覚してきたところだったの。まともだと思ってた夫も最近おかしいの。ううん、夫が一番おかしいのよ!!!!」
「ぱぱでちゅよー! もうしゅぐあえまちゅねー!」
りりーのお腹にアンリがほおずりする。目がイッている。完全にお顔が溶けて、端正な顔立ちがヘニョヘニョに崩れきっている。
お、おおう……。何か切実な事情があるらしい
『ねえ、アクセルのお嫁さんなんかじゃなくて、踊り子としてずっとここにいてよ。アクセルなんてほっといてさあ』
「あんなやつどうでもいいわよね」
「お前ら…!」
どうでもいい呼ばわりされたアクセルが雷を落とそうとした瞬間、真夜中の鐘が鳴った
リーンドーン
リーンドーン
「おーし時間だ。十二時の鐘! ここからは二人きりの愛の宴! 立ち入り禁止! のぞき見も禁止! 盗聴器も禁止!」
アクセルが肩にローズを担ぐ
おーーーーーぱちぱち
何処からともなく拍手が上がる
「きゃー! やめておろして! せめてお姫様抱っこにして!」
「はははは、よーし、ついにお姫様抱っこをせがんだな! ここからが本番だ、夜は長いぞ!」
浮かれ切ったアクセルの高笑いが星空にこだました
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます