王家集合

それにしても美しすぎる城だわ。


うちの宮殿も豪奢だと思っていたけれど、世界は広い。ありとあらゆる隙間に宝石がばらまかれていて、もはや石ころの方が珍しいのではないかしら。


頑丈な腕から逃れることはあきらめて、はるかに高いアーチ状の天井を眺めながら思う


宝石より素適なものがある


「城のいたるところに百合が飾られているのね」


「百合は好かん。昔百合のパンデミックが起こったんだ。今は少し落ち着いているが一時は城中のものが生き埋めになるかと思った。思い出すのもおぞましい」


アクセルが思い切り眉をしかめる


な、何やら知らんが壮絶なことがあったらしい


うん?


なんだか、だんだん百合が増えてきているような……。


いや、増えてるなんてもんじゃない!百合の洪水だ!いつのまにか一面の百合畑に包囲されている。なにこれ!?


「うー、やっぱりこのエリアはまだ危険地帯か……」


忌々し気にアクセルが呟く


うんっ!?


百合の森の中から何かやって来る


わしわし……


違う、人だわ!

人……? なのかしら? 


まるで絵画から出てきたように美しい男の人


さらりと輝くばかりの金髪に、整いまくった端正な顔立ち。濃紺の軍服。穏やかな琥珀の瞳。


そして、お人形の様に可愛らしい女の子をお姫様抱っこしている。


ただ一つお人形と違うのは、お腹が大きく膨らんでいる事。


「おう、兄貴、久しぶり! リリー、なんか太ったか?」


「失礼ね! 妊娠してるのよ! アンリの子よ! あんた17でおじさんになるのよ」


「何ぃー!? くそー! よくやった。お前のことは嫌いだが兄貴の子供は滅茶苦茶可愛がってやる」


お人形の様な女の子が大きな青い瞳でローズを見据える。探るような瞳。


お姫様抱っこが2つ、並んで歩く


わしわし…


な、なんだか落ち着かないわ


本当にこの国ではお姫様抱っこが基本なのかしら?


「やあ、アクセル兄さん、久しぶり。二年ぶりくらい?」


くぐもった青年の声が響く。


「ああ、エリオ…る? えりおるなのか!?」


アクセルが目を剥いたのも仕方ないだろう。

ローズが見やった先には、全身奇妙な白い防護服に身を包んだ、全く奇怪な人(?)が居た。


不思議な塊が音を発する


「しゅこーーー。この防護スーツによって僕は完璧に女嫌いを克服したのだ! いつでも女成分0の清浄な空気が吸える。ついでに宇宙でも使える。しゅこーーー。ああ、清々しい酸素! とっても重いから筋力アップ効果もあるんだ! ぜえはあ息苦しい! ぷるしゅこー……」


「いや、むしろ酷くなってないか? もうインテリ眼鏡キャラですらねえよ…」


何この、残念そうな人は? さっきから不思議な人しかいない



永遠かと思われた回廊が終わって、煌めく広間へ通される


アンリと呼ばれる美男子が、リリーと呼ばれた美少女をお膝の上に載せてソファに座る

そして


え、ええーーーー!? キスしだした


直視するのもためらわれる、熱烈なやつだ


な、なんだかとても情熱的な人たちのようだ。


「ローズ、あれが移動式バカップルというやつだよ。ああなったら終わりだ」


言いながら腰に回るアクセルの手をぴしりとやる


『ねえ、その子がアクセルお兄様の運命の人?』


鈴の様な音が重なって響く。


わあっ!!! 


なんて美しい青年! 

それも信じられない、ダブルだわ!


銀の瞳に銀の髪、すらりと伸びた脚。寄り添うように手を組み合って、ローズに冷たい流し目を注ぐ双子


まるでかちりと組み合った歯車の様に、そっくりそのまま瞬きまで一緒!


神さまはこんなに美しい銀を、間違えて二つも作ってしまったのね


長い睫毛の音が聞こえそうだ


「あ、あなたたちは?」


「ボクがロキでない方」

「ボクがアベルでない方」


くるくる回って


『もうどちらかわからないでしょう?』


わ、わからないわ。


『アクセルお兄様のお嫁様、薔薇のように可愛いね。ま、僕たちの美しさの前ではかすみ草だけど…クス…クス…』


あざ笑うかのように嗤う。怪しく煌めく四つの銀の瞳

なんじゃこの双子は


「ロキにアベル、旅立つ時は可愛くて無邪気だったのに、いったい何があったんだ?」


アクセルがエリオルに問いかける


「病気なんだって。父様もかかった病気だから問題ないって大司祭様が。中二病って言うんだって。しゅこーーー。」

「ああ……」


アクセルがすごく残念そうな顔をする。なんだかアクセルが常識人に見えてきたわ……。



「わが愛しき息子よ、よくぞ戻った!!!」


広間最奥の玉座から、獅子の咆哮の様な大音量が広間を震わす。


も、物凄く怖そうな人だわ! 

筋肉が山のようで、瞳は野獣のよう。

魔王を描かんと悶えている画家が居れば、凄まじいインスピレーションを受けて筆をガッと握りしめるだろう。


丸太の様に太い腕にすっぽり美しい女性が収まっている。


その女性がニコニコ満面の笑みを浮かべていなければ、生贄かと見紛うところである。


間違いなくこの国の王様だわ。父が土下座したのもわかる


「まあ~、貴方がアクセルが西の国で見つけたお姫様なのね~! なんて可愛らしいのかしら~! 困ったことがあったらなんでもいってね~」


ニコニコ顔の女性が、ひらひらと手を振る。


えっ、まさかこのひとが王妃様? 


ほんわかして花のように可憐で、ものすごく優しそうな人だ

 えっ、意地悪な魔女は?この可愛らしいおひとは何?


「母上ほどの聖人はいない。まあ悪人から見れば恐ろしい魔女に見えるだろうな…。母上の噂がどこでどうねじ曲がったか目に浮かぶ…。」


え、えー…!?


畏怖の塊のような国王様が唸り声を発する。


「アクセルよ、その娘と心に決めたのか?」


「おう、親父!」

「ちゃんとご両親にご挨拶はしたか?」

「もちだ!」

「ならばよし。アクセルよ、お前の心はお前の物。好きに生きるが好い。」


あまりよしじゃない気がする。結構アバウトな教育方針のようだ。

ついでに言えば、ずっと王妃様をハフハフ舐めているので威厳もなくなってきた。



「あなた、悪いこと言わないからアクセルはやめた方がいいわよ」


りりーと呼ばれた女の子がローズを見据える


「余計なこと言うな」


アクセルがローズを抱きしめて睨み返す

「とにかく忠告はしたわよ」



「アクセル」


澄んだ声が響く。アンリだ


穏やかな琥珀の瞳が、一瞬ローズと合った


「女を泣かせるなよ」


一言だけ、アンリはそう告げると再びリリーに口づけたのだった。

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