新婚初夜


思わぬ百合の生鮮採れたて産地直送お届けパック(超弩級美形付)のサプライズは百合だけではなかった。


どこに隠していたんだとばかりにポンポン贈り物が出てくる。


「あの、大変お疲れだと伺いましたので、滋養に効くハーブを調合してまいりました。こちらはお茶、こちらのサシェは枕の下に入れてお眠りになられるとすっきり眠れます。」


おおおう、さすが超軍事大国のスキャンダル美形王子、百合の花束と言いハーブと言い女の趣味判ってんなあー。

「それから……あと、もしかしたらお腹もすかせておられるかとおもって、あの、」

可愛らしくラッピングされた包をずしっと押し付けられる。開けてみるとそれは……


「クッキー?」


「はい。お夜食に。私が焼きました」

あんたが焼いたの!?超軍事大国のスキャンダル美形王子ってクッキー焼くんだ

「……」

しばしあっけに取られてしまう。


ぐぎゅー


甘い香りに、腹だけは雄弁である。

おそるおそる一枚摘み上げる。かじる


かり


まぐまぐ


「こ、これは……!?」


お、美味しい!! カリッとしているのに口の中でほろっとほどけて、まったりコクの深い甘みがお口の中でふわっと広がる。こんなに美味しいものは食べたことがないわ。

まぐまぐまぐまぐまぐまぐ

はうっ、こんな事してる場合じゃない。しかし美味しすぎて手が止まらない。

無心で貪るリリーをアンリはニコニコ見つめていたが、ふいにスッと身を引いて


「じゃあ、私はこれで失礼いたします」


再びバルコニーへ向かったのだった。


え、帰るのはや!これだけ?!ていうかまた崖を下りる気か!いやいやいやその前にもっと看過できんものがある


「お待ちになって。ケガをなされているわ」


壁を登るときに擦ったのだろう、アンリの手に薄っすら血がにじんでいる。

リリーはパタパタ部屋へ戻ると輿入れ道具を探した。

「えっと、救急箱、この辺りにあったと思うんだけれど」

「目元が暗いでしょう。なぜ灯りもつけないのです」

すっと、滑り込んできたアンリが、ぱちっと壁の突起を押す


すずらん型のシャンデリアに灯がともる


「な、ななななにこれっー!どうして火もなく明かりがつくの!?」


もう今日は驚くことなどあるまいと思っていたのに、リリーは仰天した。

「で、電気ですよ。」

びっくりしたリリーにアンリがびっくりする

「でんきって何」

「ええっと雷ですよ。わが国には巨大な滝があって、国中の電力を水力発電で賄っているのです」

「滝? ハツデン?どうして水で雷が作れるの」

「えっと位置エネルギーを運動エネルギーに変換して……」

「呪文?」

「えーと、そうですね、高度に発達した科学は魔法にも相当すると言われていますね」


困ったようなおかしいような表情で、アンリがはにかむ。


とにかく電気とやらでアンリの金髪が煌めいて、更に美しくなることも分かった。


あと腕の怪我も結構深そうだということも、灯りの元にさらされた


「こんなのかすり傷ですから、明日には治っています。あの本当まじでいいですから、もう帰りますから」

「こんな抉り傷が一夜で治るわけないじゃない。」


なぜかたじたじ逃げようとするアンリの腕を問答無用でつかみ、よくひたした消毒綿でちょんちょんと清める。傷口をよく見ようと覗きこむ


「っう……」


浸みるのだろうか、アンリが小さく吐息を漏らす

化け物じみた美貌と体躯の持ち主でも、痛みに呻いたりするのね。ちょっと可愛いかも


「あなたは……可愛らしいだけでなくてとてもお優しいのですね……。あなたの国の人々はみなこのように優しいのですか」

「いやー優しいっちゃ優しいけれど、お姫様を生贄にしてみんな戦争からいの一番に逃げ出すヘッタレですよ。」

「きっと待つ家族がいたから戦場から逃げ出したのでしょう。あなたの国の兵士がヘタレでよかった。だって……そのおかげで私は」

そこで、アンリは言いよどんだ。アンリの言葉を結ぶよりもリリーが包帯をキュッと縛る方が早かった。


包帯をくるくる巻いてパチンと切っておわり。


「ありがとう。リリィ、さん。おやすみ」

「ちょっ、たんま、アンリ様、どうかお帰りは扉をお通りくださいませ」


バルコニーへアゲインしようとしたアンリをぐいぐい押し返す。小さなリリーの身体がアンリの腹筋に埋もれて隠れてしまいそうだ


「あの、それから……明日からは扉からお訪ね下さいませ。もう追い返したりは致しませんので……。」

毎日崖登りエクササイズをされてはたまらない。それに、意外と紳士だしね


「リリィさん!」


なぜか感極まったアンリがリリィを抱きしめる。


前言撤回かもしれない。


たちまちたくましい腕がリリーの腰に回される

スパイスの効いた樹木の様な、香しい男の香り

そしてなによりも悩まし気な瞳!きっと世界で一番美しいだろう

その瞳は今リリーだけの物

琥珀色の瞳がじっとリリーを見据え、そして


ちゅっ


!?


リリーが我に返った時には、アンリは風のように去っていた。


じんじんと熱が頬に落ちている。


だからなんで頬っぺたなのーーーー!?



またしても、アンリのキスが着地したのは、リリーの頬だった



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