第25話 妹? 3

 俺は歯切れの悪い答えを返してしまった。仕方ない。俺は別に嘘をつくのが得意な訳ではないのだ。彼女の顔色を窺うと暗い表情で体をプルプルと震わせている。俺の返事が相当気に入らなかったのだろう。


 俺が「……あの、大文字さん?」と声をかけると大文字さんの怒りが沸点を越えたのだろう。先ほどまで雰囲気とは一変して大文字さんの顔に力がこもる。


「お兄様! 先ほどから”大文字さん””大文字さん”と他人行儀に呼ぶのはお止め下さい! 私のことはどうぞ”四季”とお呼びください」


 どうやら彼女が憤慨しているのは俺の彼女に対する名前の呼び方であったらしい。彼女は立ち上がると純白のソックスを土足に変え、俺に詰め寄ってくる。


 彼女は俺の唇に自分の唇を重ねる勢いで近づいてくる。俺は改めて彼女の美しさに見とれた。春香で馴れているためそんじょそこらの美人では余り動じなくなっていたが、春香クラスの超絶美少女では話は別だ。俺は彼女の美しさに身じろぎし、後ずさる。


 しかし、俺に後退する空間は残されていなかった。俺のすぐ後ろは玄関の扉がある。俺は逃げ道を作るべくドアノブに手を伸ばすも腕を掴まれ静止させられる。


「さあ、お兄様。お呼びください、私の”名前”を!」


 彼女はキラキラとした瞳を輝かせながら言う。俺が「いやいや、いきなり名前を呼ぶのはなんか恥ずかしいじゃん?」などとほざいていると彼女は”はっ!”と何かを思いついた顔をして呟く。


「とその前に折角ですからここは一先ず、キスでも……」


 そう言って彼女は、より一層、顔を近づけてくる。彼女は目をつぶり、唇を尖らせたキス顔が何ともチャーミングであったが、そのキス顔にシャブリ付きたい気持ちをグッと押さえて俺は彼女の肩を掴み無理やり距離を取る。


「ちょっと、大も……えっと、四季さん? 一先ず、キスとか僕たちはキョウダイなんでしょ? ならキスはおかしいでしょ?」


 そう言い聞かせるように彼女に問いかけると彼女は”む”と顔を強張らせる。


「いえ、私とお兄様なら何も問題はございません。それにお兄様は近親相姦などと些細な言葉に縛られる方ではございませんでしょう?」


「いやいやいや、おかしいって! 君の中で俺はどれだけ非常識な人間になってるんだよ。というか君、何しに来たの? 話があるなら俺じゃなくて親父だろ?」


 俺は率直な意見を述べる。


「うっ……わかりました。そこまで仰るのでしたら言わせていただきます」


 彼女は俺の棘のある言葉に一瞬、目を潤ませたが意を決したのか姿勢を正すと言葉を続ける。


「お兄様、私と結婚して下さい!」

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