第23話 妹?

「ねぇ、夏樹。お昼ご飯どうする?」


 春香が家の近く着いた辺りで今後の予定をどうするか聞いてきた。何を食いたいかと聞かれれば、俺はもちろんと言った様子で答える。


「オデ、オンナクウ。ダカラ、オデ、オマエクウ」


 先ほどの”もちろんと言った様子”は撤回させてほしい。急に片言で喋りたくなった。だが、質問の回答は実に俺らしいものだから別に問題ないよね!


「はは、何言ってるのかな、この子は?」


 春香は乾いた笑い声を出して口元を吊り上げる。傍から見たら笑顔のような、その表情は付き合いの長い俺からしたら鬼の形相である。


「冗談だよ。今日は春香のハンバーグが食べたいな」


 俺は冗談の通じない幼馴染を宥めるように甘えた声で更に腕にすり寄りながら言う。


「もう、鬱陶しいなぁ」


 そう言いながらも俺を振り解こうとはしない。春香は「じゃあ、材料持って家行くね」とニコリと笑ってくれる。


「そうだ、冬樹と秋穂も、もう帰って来てるよね」


 春香は思い出したかのように言う。そう言えばそうだ。確か二人とも今日が始業式で学校に行っている。二人とも午前中には帰ってきているはずだが、いつも回りを気遣ってる春香にしては珍しく忘れていたようだ。どうやら春香も今日の入学式で余裕がなくなっていたのだろう。


 ちなみに冬樹は春香の弟で秋穂は俺の妹だ。二人とも今日から小学五年生だ。


 話しているうちに春香の家に着いた。


「じゃあ材料取ってくる。ついでに冬樹も呼んでくるね」


 春香は家の門を開け、そう言うと玄関を開け、ドタドタと入っていった。俺は「おう」と言って自宅へと向かった。


(はあ。春香の二の腕メチャクチャ気持ちよかったなぁ)


 俺は春香は二の腕の名残を思い出しながら門を開け玄関の扉に鍵を差し込む。いつも通り鍵を回すが抵抗なく全開まで回る。


(扉が開いてるな。秋穂、もう帰って来てるのか)


 俺は秋穂が帰って来てるのを確信して玄関の扉を開ける。それにしても不用心だな。もし泥棒なんかが入って来たどうするんだ。”後で注意しないとな”と思いながらも愛しの妹に兄の帰還を告げるべく、声を上げる。


「返って来たぞ我が愛しの妹よ! 兄を出迎えい!」


 俺は勢いよく扉を開き中へ入るとそこには俺の妹ではない女性が美しい正座の姿勢でお辞儀していた。


「おかえりなさいませ、お兄様」


 そう言って顔を上げた彼女はまるで人形のような美しい造形で春香に次ぐ……いや並ぶほどの美人だった。しかし俺は彼女に見覚えがなく年も変わらない。その彼女がなぜ俺をしかも家で出迎えて”お兄様”と呼ぶのかわからない。


「ただいま……って君、誰?」


 俺は今の状況を理解できず、出迎えてくれた彼女に、この言葉だけしか出てこなかった。

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