第13話 待ち時間

一年八組


 ようやく各委員決めが終わり、騒がしかったクラスはさらに騒々しく音を立てている。今は一組から順番に移動が行われている。教科書を受け取った生徒はそのまま帰宅していいらしい。まだ8組の番ではないので教室で皆待機している。


「図書委員なんて顔に似合わない仕事を任されたね」


 お隣でニヤニヤと気色悪い顔で話しかけて来たのは纐纈 聡。今日たまたま隣の席になった男だ。俺は素気無く「うるせえ……」と答えた。


「それにしてもこのクラスは本当に騒がしいね」


 彼はそう言って周りを見渡す。その意見には同意だ。俺も「そうだな」と答える。彼の言う通りクラス内は喧噪としていた。皆、HRも終わり待ち時間の間に談笑をしている。新しい高校生活にで皆浮かれたいるのだろう、まるで動物園の猿の檻の前にいるかの如くクラスメイト達の声が忙しなく音を立てる。


「最初はクラスで馴染めるか心配だったけどこの調子ならすぐ馴染めそうだよ」


 彼は心底嬉しそうな顔で答えた。こいつ、こんな騒がしいやつらと同類と思われたいのか? 俺が彼を何とも言えない顔で見ていると彼は言葉を続ける。


「それもこれも夏樹のおかげかな。あの自己紹介をしたおかげでクラス内の空気がガラッと変わった気がするよ」


 そう言って彼はまたニヤニヤとこちらを見つめる。


「そうか? このクラスの特に男子は最初から様子がおかしかったぞ」(それに女子と男子の間には底知れぬ溝が生まれた気がする。)


 俺がそういうと聡は「そんなことないよ、夏樹がいなかったら今頃クラスは、お通夜同然の状態だったはずだよ」と言って俺を立ててくれる。あれ、こいつもしかして良いやつなのでは? 俺のことをこうもよく思っているのだ、友人として扱ってもいいのかもしれない。


「聡、お前いいやつだな。友達になってやるよ」


「ハハ、なんだいその言い草。でも不思議といやじゃないよ」


 (やべぇー、Мだこいつ) 俺はできるだけボロ雑巾のように聡を扱うよう心に決めた。


「ところで夏樹は彼女はいるのかい?」


 聡は藪から棒に質問してきた。


「なんだよ、藪からスティックに……」


「いやー今朝一緒にいた子が彼女なのかなって思ってさ。偉く仲がよさそうだったからね」


 はぁ!? こいつ俺の渾身のボケをスルーしやがった。てかこいつ、俺と春香のこと見てたのか。


「もしかして、目立ってたか?」


 俺は余り騒ぎ立てられたくなくて小声で聞いてしまった。春香絡みの話になると少し調子が狂う。


「当り前じゃないか。あんな美人が居ればいやでも目立つよ。その美人が男と仲良く話してたら、見ている男たち……いや女性であっても、その男にさぞかし鬱憤が溜まっていただろうね」


 聡は腕御組みながらそう答える。そうか……やはり春香と一緒にいる入れに対して何かしらの嫌悪を抱かれているんだな。俺に対してそういったものを抱かれるのはいいがそれが原因で春香によからぬことが行らなければいいけどなぁ。

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