第14話 山形 春香への想い

「で、彼女とはどういう関係なんだよ?」


 聡はそう言って俺に野暮なことを聞いてくる。仕方ない。はぐらかしたところですぐ分かることだし素直に言うことにした。


「あいつとは幼馴染だよ。家が隣でさ。春香の親父さんと俺の親父が幼馴染で子供が出来て性別が違うなら結婚させようて決めてたらしくて、家族ぐるみで交流があるんだよ。毎朝、俺を起こしに来てくれる」


 俺が素直にそう答えると聡は目を大きく開け、驚いたような、もしくは少し困惑したような顔でこちらを”ギョッ”とした顔でこちらを見つめる。


「なんだよ……どうかしたか?」


 俺がそう言って聡を気遣うと彼は調子を取り戻したのかまたニヤケ面で喋りだす。


「いやー、意外とあっさり話してくれるなぁと思ってさ。そんなことより幼馴染? 結婚? もうそれ許嫁で良いんなじゃないかな? さらに毎日起こしてもらってるとか……最初の話聞くとなんか普通というか、当り前のような感じに聞こえるけど、いや羨ましい。いろいろツッコミたいことが多いけど取りあえず彼女とは家族公認で付き合ってるってこと?」


 聡は捲し立てるように俺に言葉を投げかけてきた。どうやら相当興味を引いてしまったらしい。手帳を取り出して何やら書き留めている。宛ら取材を行う記者である。


「いや、別に付き合ってる訳ではないけど、少なからず意識してる……って、何言わせんだよ!」


 俺は聡の勢いに乗せられつい口走ってしまう。咄嗟にはぐらかしてはみたものの、彼はしたり顔で「なるほど。まだ春香ちゃんはフリーと……」と言うと手帳に書き留めている。クソ! してやられた。まさか俺がこんなに迂闊な人間だったとは……。正直、書き留めるほどの内容か?


「で、夏樹は春香ちゃんのことが好きな訳か」


 俺が自分の軽率さに嫌気が差していると聡が言葉を続ける。やはりそこをついてくるか。しょうがない身から出た錆だ。俺は聡の茶化しに付き合うことにした。


「はあ……なんだよ文句あるか?」


 俺がギロリと聡を睨むとペンと手帳を摘まんでいない指を開き、胸の辺りで両手をフリフリと横に振る。


「いやいや、文句があるわけじゃないけどやっぱり幼馴染でもあれだけ美人なら好きになるんだなぁって思ってさ」


 どうやらコイツにとって幼馴染は好きになる対象じゃないらしい。もしかしたら世間一般では幼馴染を性の対象として見るのはおかしなことなのかもしれない。俺は他に幼馴染がいないので比べようがないが例えるならそうだな。俺には小学5年生の妹がいるんだがアイツがもし俺に朝『お兄ちゃん朝だよ、起きて』と言われて耳をハムハムされたところで決して妹に欲情して手を出したりはしない。例え天地がひっくり返ろうとも俺の鋼の理性がその行いを抑制するだろう。

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