第12話 一年一組
一年一組 教室
『飼育委員てなんだよ! 小学校じゃあるめぇし、なんで俺がそんな面倒くせぇことしなきゃなんねぇんだ!!』
クラス内の各委員が決まって一段落着いたところで、どこからか声が聞こえてきた。どうやら飼育委員のことで揉めているらしい。
今も『春岡! あなたが「なんでもいいから俺を委員会に所属させろ!」て言ったんでしょ。だから余ってる飼育委員にしてあげるって言ってるの』、『うるせえ! 動物の世話してるぐらいなら天井のシミ数えてる方がマシだね』と大きな声が響いてくる。
私たちのクラスでも確かに揉めはしたがここまで大きな声で怒鳴る程ではない。優柔不断で場を掻き乱す人でも人でもいるのだろうか? そうした疑念が頭に浮かんだところで、そういった人物に心当たりがあることに気付く。(まさか夏樹のクラスじゃないよね?)
彼がいれば多かれ少なかれ事が起こる。少なくとも私の周りで起こる騒ぎは直接もしくは間接的にも彼が関わっている。実の親子よりも一緒にいる時間が多いのだ。それほどに私と彼にある縁は深く長い。しかしこれは、私の体感であり、傍から見れば”彼の関わっていない事は私にとってどうでもいいこと”とも読み取れることであり、今も彼のことを考えていると思うと四六時中考えているようで恥ずかしい。
「すごい大きな声で揉めてるね! どこのクラスだろう? そんなことより春香ちゃん! 今朝、一緒に歩いていたのが噂の夏樹君? 春香ちゃんはもっと実直で誠実な真面目そうな人が好みかと思ってたよ」
そう言って話題を次々と変え、私の好みのタイプを生真面目な人物と思っていた彼女の名前は三浦 琴美。中学生の時に通っていた予備校で知り合った友人である。彼女は人の色恋沙汰に目がなく、事あるごとに恋愛話を持ち掛けてくる。
彼女からしたら夏樹は不真面目な人物に見えたらしい。確かに普段はしゃんとしてないけど大事なところではビシッと決めてくれる。彼女にそう伝えると「春香ちゃんそれは親の欲目ってやつだよ。確か夏樹君、補欠合格でしょ」という。
「そう、やるときはやってくれるの」
私は彼女にそう言うと「はぁー……恋は盲目か……」呆れるような憐れむ顔で私から目をそらした。
「ちょっと、なによそれー」
私は琴美の頬っぺたをプニィと押す。琴美は「やめてよ春香ちゃん、くすぐったいよぉ~」と嬉しそうな顔をする。
「各委員の選任が終わったところですけど、もうすぐ教科書など取りに行きますので準備してください。教科書等を受け取った人からその場で解散ですので忘れ物がないよう注意してくださいね」
私が琴美とじゃれ合っていると寺島先生がクラスの皆にそう呼びかけた。
どうやら、もうすぐ帰路に着くようだ。夏樹は今頃どうしているだろうか? ちゃんとクラスに馴染めているだろうか? 浮いたことを言ってクラスメイト達に引かれていないだろうか? 私の頭の中は彼のことで不安でいっぱいだった。
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