第6話 渡辺先生

「おーい。夏樹、起きろよ」


 男の声が俺に起きるよう言葉を投げかける。


「ウガッ、あ、寝ちまってたか」


 俺がそう言うと俺に呼びかけていた男が「やっと起きてくれたか」と安堵の声を漏らす。こいつの名前は纐纈 聡先ほど知り合ったクラスメイトだ。


「夏樹、次は俺らのクラスの移動だから」


 聡がそう言うと8組と書かれたポールの前で待機していた胸のふくよかな女性が俺たちの会話を聞いていたかのようにタイミングよく俺たち8組の生徒に指示を出す。


「今から8組の移動を始める。前の生徒から順番に私に付いてくるように」


 そう言うと彼女は歩き出し8組の生徒は言われたとおり彼女の後を順番について行く。こうやってついて行ってるとなんだか金魚のフンになったような気分がした。



 俺のクラス1年8組は、正門を正面に一番左端の階段の横で三階にある。これから3年間は、あの坂を上り1年間はこの階段を上らなくてはならないと思うと気が滅入る。他のクラスメイト達も少し疲れた表情をしている。いや男子生徒たちは案外元気そうだ。というか少し発情気味だ。


「さあ皆、中に入れ、名前順に自分の名前が張られている席に座るように」


 教室の扉を開けそう言ったのは巨乳先生こと渡辺先生だ。この先生まだいるんだ。皆逆らうことなく各々の席えと赴く。


「よし、みんな席に着いたな。それじゃあ改めて自己紹介しよう。これから一年間君たちの担任になる、渡辺 津子だ。よろしく」


「「「よろしくお願いします津子先生!!!」」」


 男子生徒たちが一斉に声を荒げた。男子生徒たちが盛っていたのは、これが理由か。確かに健全な男子高校生からしたらこんな卑猥な凹凸の女がいればそれだけで嬉しいはずだ。しかし俺としては余り好ましい、状況ではない。俺は先ほど言葉の綾で渡辺先生をババァ呼ばわりしてしまったのだ。盛り上がる男子生徒の中、1人盛り上がりに欠ける俺に渡辺教諭は声をかけてきた。


「どうしたそこの…生田 夏樹か…生田、余り顔色がよくないが?(ニヤリ)」


 渡辺先生に名前を呼ばれたとき背筋に悪寒が走る感覚を覚えた。俺は「言え大丈夫です。生まれつきですから」と答えると渡辺先生も「そうか」と平淡に答えた。


「今日から君たちは高校生になる。義務教育という枷がなくなり自分で自分の将来を決める足掛かりができたわけだ。これからの3年間、勉学に励むもよし、スポーツや部活動に励むもよし。まあ、人によってはやりたいことがたくさんあるだろうが自分の行動には責任を持つように、そして後悔の残らない選択をして欲しい。それでは改めて入学おめでとう。高校生活3年間を思う存分に楽しんでくれ」


 彼女は言い終わると「じゃあ次は皆にも自己紹介してもらおうか」といい名前順からという最低の指示のもとクラスメイトの自己紹介が始まる。クール鉄仮面と聞いていたがなかなか親しみやすそうな人であるなと思いながら、”あ行”の人に感謝しつつ自分の自己紹介に何を言うべきか考えていた。


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