第5話 入学式
「いやー、見てたぜ。なかなかやるな、あんた」
そう言って俺の横に座ったのは、俺の後ろを歩いてたやつだ。
「まさか、あのクール鉄仮面の渡辺先生があんなに表情を崩すなんて」
渡辺先生とは先ほどの巨乳のことだろう。しかし、なんでこいつは巨乳教師の名前知ってんだ? 俺が訝しんでいると彼は「ああ、ごめんごめん」と言い名乗りだした。
「僕の名前は纐纈 聡よろしく」
「なんだよ、纐纈て、変な苗字だな」
俺がそういうと「はは、よく言われる」と気さくに返してきた。悪いやつではなさそうだ。
「俺は生田 夏樹よろしくな。聡」
俺が早速名前を呼んでやると「早速名前かよ。はは」と笑う。名に笑ってんだぶっ殺すぞ。
「話が戻るんだけど夏樹は、渡辺先生の胸をガン見しといてババァ呼ばわりは酷いよ。あの人まだ24だぞ」
聡は笑いながら言う。こいつ今俺を下の名前で読んだか? 男に下で呼ばれるのムカつくんだよなあ。
「いや顔をよく見てなかったんだ。声を聞いたときは老いを感じたんだが…」
そこまで言って俺はなんでこいつに弁解しているんだと思い言葉に詰まる。
「そりゃああんだけ胸を見ていたら顔はよく見ていなかったろうね。」
確かに胸はデカかった。それに黒タイツ越しからわかる、あの引き締まった足はさぞかし良い蹴りを放つことだろう。
「そんなことより向こう側にいた小さい生物はなんだよ?」
俺は話を逸らすついでに人生最大謎の究明に取り掛かる。
「ああ、あれは寺島先生だよ。担当科目は英語」
彼は簡潔に答えた。
「今日来ている新入生の妹さんとかではなく?」
「至って真面目な教師だよ」
「教師だと…」
確かに彼女の行動はほかの教師連中と変わらないが成人女性としては余りにも小さい身の丈を見てしまうと教師であることを疑ってしまう。
「まあ確かに身長は小さいがそれだけで寺島先生を特別視するのは失礼じゃないかな?」
そう言うと聡の緩んだ顔が少し引き締まった気がする。意外と真面目な奴かもしれない。
「この学校には七不思議があるんだけどそのうちの一つに『齢30の座敷童』てのがあるんだけど聞くかい? もちろん、この噂の発信源は僕だ」
そう言うと聡の顔の締まりが緩む。こいつくそ野郎だわ。
「待て、あの人30歳なのか!?」
どっからどう見ても小学生だぞ。
「そうだよ。そう言えば最近、彼氏ができなくて困ってる。このまま男性とお付き合いもすることなく婚期を逃して一生独身でこどくしするんだぁ~て、泣きながら言ってたな」
なんと哀れな。確かにあの身長では男性は寄り付きにくいだろう。性癖がもろバレするからな。
「なあ聡、寺島先生のような身長の低い女性と付き合うのは世間体的にはやはりまずいと思うか?」
俺はできるだけ真剣な顔でそう答えた。聡も俺の質問に対し少し考えるような仕草をする。こいつ本当になんか考えてんのか? 後、顔がきめぇ。
「そんなことはないんじゃないかな。容姿相応の年齢なら確かに犯罪だが寺島先生のように成人している女性であれば堂々とお付き合いしても問題ないよ。それに身長が低いから付き合えないなんて身長の低い人たちに失礼だ」
俺の質問も答えに全くなっていないような気がするが、そうだ世間体なんかより本人同士の気持ちが大事なのだ。合法ロり万歳。
「そんなことよりこの学校の七不思議なんだけど、実はこの学校の裏門の近くにこの学校を建てる際に一軒だけ取り壊さなかった家がそのままあるんだ」
俺にとって世界一重要な要件をそんなこと呼ばわりして、聡は七不思議の話を続けた。
「今はその家を用務員のおじさんが使ってるいるんだけど、どうやらその家、元からその用務員のおじさんの家らしいんだ」
俺はどうでもいい話に「ああそうかよ」とおざなりに答えると聡は「これから面白くなるから」と話好きの主婦よろしく、話を続ける。
「で七不思議の一つに年に一度、学校の生徒がいなくなるんだ。学校の名簿からもね。これは僕の感なんだけど、その原因は裏門の家と用務員のおじさんが関係してるんじゃないかなって」
聡は神妙な面持ちでそう言った。こいつ表情コロコロ変わるな。鬱陶しい。
「夏樹がもし名作門を使う時があるなら気を付けた方がいいよ」
俺が「名作門?」と聞くと聡が「ああ、裏門だよ。用務員のおじさんの名前が白鳥 名作て言うんだ。よく裏門の辺りにいるからそう呼ばれるようになった」という。
「あっ、そろそろ始まるみたいだよ」
聡がそう言うなりアナウンスが流れる。そのアナウンスを皮切りに会場が静寂に包まれる。俺も身なりを整え姿勢を正した。
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