本日の業務は終了いたしました


「おーい!」


「起きろよ~!」


そんな声と共に、

私の尾にプニプニとした感触の衝撃しょうげきが走る。


それに釣られて目を開けると、

2人のアクア・ムニムが私を見上げていた。


「仕事終わったぞ~。」


「帰ろうぜー。」


「あ、すみません!」


起こして下さって、がとうございます!


私がそう言って頭を下げると、

はニカッと明るく笑う。


「気にすんなって!

夜になったらこの洞窟どうくつ、暗くなるから物騒ぶっそうだしな!」


「女の子1人、

そんな所に置きりになんか出来ねぇからよ。」


つい、声掛けちまった!


わりぃな!


と、逆に声を掛けた事を謝ってくれる彼は、

本当におとこらしい。

(注:ムニム族のモットーは、

可愛かわいく・愛らしく・元気良く』です。)


私は、呼吸をととのえながら竜人ドラゴニアに戻ると、

待っていてくれた2人に話しかけた。


「今日は、こっちに冒険者は来てません。

お2人の方はどうでしたか?」


「オイラんとこにも来なかったぜ。」


「オイラのとこもだ。

なんせ、ひますぎて集まった奴10人位で

『アシュピード』の大会開いてたからな!」



『アシュピード』とは。


私達モンスターの世界で、

昔から流行しているカードゲームの事だ。


ざっと説明すると、


『『素体』のプレイヤーカードに武器や防具のカードを装備し、

それで戦って相手の『体力』を0にした方が勝ち。』


と、いう遊びである。

(もっと色々細かいルールやアイテムなどがあるが、

今は省略しょうりゃくさせてもらいます。)


1回の対戦で大体5分~10分くらいかかるので、

それを大会規模きぼで出来たって事は、

本当にひまだったんだろう。


「え?そんなにひまだったんですか?

・・今日は、あまり冒険者来なかったんですね。」


この間の

「アクア・レディ枝毛事件」の

影響えいきょうがまだあるのだろうか?

(アクア・レディという水属性の女性モンスターが、

冒険者の剣をけた時に、自慢じまんの髪を1本枝毛にされたという事件だ。


その後、

彼女はその冒険者はんにんだけではなく、

その日洞窟どうくつおとずれた全ての冒険者に水の魔法を乱発しまくった。


・・その結果、

しばらく冒険者ギルドでサーウェスの洞窟どうくつへの

探索たんさく禁止令が出されたそうです。)


そんな事を考えているのが伝わったらしく、

2人は明るく笑いながら話し出した。


「今日は、

いつも通りの冒険者きゃくりだったぜ。」


「ただ、

入り口付近ふきん担当のスケル・ナイトがり切っててさ。

そいつが全部、追い返しちまったんだよ。」



・・何でも、

そのナイトさんは昨夜ゆうべお子さんが誕生したらしく、

よめさんと赤ちゃんに


『カッコいい父と旦那だんな


を見せたくて気合きあいが入っていたそうで。



「確かに。

それは、気合きあいも入りますよね。」


「そうだな!」


私達はそう暢気のんきに笑っていたが、


ピピピッ!


という呪符カードキーはっした警告けいこく音にあわて出す。


「あ、いっけね!」


「時間ギリギリだ!」


「急ぎましょう!」


私は、

に言われるまま、

(見送ると言われました。)

先に呪符カードキー起動きどうさせる。


「お先に失礼します。」


「おう!」


「じゃーなー!」


2人の声が聞こえたと同時に、

視界が静かにらぎだしー・・次の瞬間にはもう、

私の姿はサーウェスの洞窟どうくつから消えていた。

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