ギルド「双子の魂(ツヴィ・アム)」


建物に入って直ぐは、

巨大なエントランスになっている。


そこで毎朝種族ごとに別れ、

本日の連絡を兼ねた朝礼が行われるのだ。


「じゃ~ね~!」


怪我けがすんなよ!」


2人はそう言って手を振ると、

其々それぞれの種族の集合場所へと歩いて行く。


(私も行こう。)


私がドラゴン族の方へ行き、

列に並んでいると


「うおおぉぉぉー!!」


と、野太い叫び声が、

左側のムニム族の列から上がった。


其方そちらの方を見てみると、

彼等の列の前方、代表者の立つ台の上に、

両腕を組んだムエス様の姿がる。


ムエス様は、

ムニム族部門の長で、ランクはSSダブルエス

(どこの種族も、SSSトリプルエス楽隠居らくいんきょ中。

だから長は全てSSだ。)


人型で、

銀色の流線型の体と、宝石の様に青い目は、

私には正義の宇宙人に見えたので直ぐに覚えた。


手前てめェら!!」


ムエス様が叫ぶと、

ピタリと声が収まる。


しかし、次に彼の発した


「今日もプルプルしてるか?!」の声に


「おおーっ!!」


と叫び声がこたえた。


・・今のでわかるだろうが、

ムエス様は熱血漢で漢らしい性格をなさっている。


その上人情家で涙もろく、面倒見がいいので、

ムニム族以外からも「アニキ」と慕われているのだ。


「頭突きの練習はしてきたか?!」


「おおーっ!!」


「噛みつく練習もしてきたか?!」


「おおーっ!!」


「ムニム族のモットーは?!」


可愛かわいく!!愛らしく!!元気良く!!」


彼等はそうじて漢らしいが。


「っしゃあ!

今日も仕事に手ェ抜くんじゃねぇぞ!

・・ムニムー・・ファイッ!!」


「オーッ!!」


「ファイッ!!」


「オーッ!!」


「行くぜ野郎共!!出陣!!」


「うおおーっ!!」


「アニキ―!!」


何処どこまでもついて行きます!!」


熱い体育会系の朝礼を終え、

ムニム族は「派遣用ゲート」への移動を開始する。




「彼等は元気だね。」


そう言いながら、

その直後に姿を現した別の代表に、

あちこちから黄色い悲鳴が上がった。


「キャーッ!!ゴーディー!!」


「ゴーディー素敵ー!!」


声のする方向に、

彼がにこやかに微笑みながら手を振ると、

同時にどよめきも上がる。


「ちょっと!」


「しっかりして!」


本日も何名か、気絶者が出たようだ。


その様子を台の上から見た彼は、

溜息をつきながら言う。


「ああ、すまない。

美しい女性達の体調をくずす様な事など、

したくは無いというのに・・。

それでもなお、その可憐かれんな声にこたえ、

美しく輝く瞳に映りたいと願う・・おろかな私を許してほしい。」


彼の罪悪感に満ちた声音に、

乙女達ファンの目に涙が溜まった。


「ゴーディーは悪くないわ!!」


「貴方の為なら私達、もっと強くなります!!」


「気絶耐性の特徴だって、付けてみせますから!!」


彼女達の健気けなげな言葉に、

彼ははかなげで上品な笑顔を浮かべる。


がとう。

・・君達の心は、なんて強くて気高けだかいんだ。」


さらにどよめきが大きくなったところを見ると、

気絶者の追加が入ったらしい。


「ゴーディス様、その辺に。」


「彼女達を守護する騎士の任を、

まだ降りる訳にはいきませんので。」


「彼女達は凛々りりしくとも・・

我等にとっては、はかない姫君達なのですから。」


ゴーレム族の列から柔らかにたしなめる声が、

彼に向かって掛けられるが、

その内容にさらにどよめきが増えた。


・・本日の女性モンスターの派遣率は、減るかもしれない。


「ああ、すまない。

それじゃあゴーレム族、移動しよう。」


そう優雅に微笑むのは、

ゴーレム族部門の長、ゴーディス様だ。


魔法銀のレンガで出来た柔らかに輝く体と、

優雅な仕種。


それに女性への優しい言動から、

女性モンスター達のアイドル的な存在で、

通称「ゴーディー」と呼ばれている。


「仕方ないですね、ゴーディス様は。」


「姫君達の心を、

余り独り占めなさらないで下さいよ。」


優雅で静かな笑い声を上げつつ、

少女漫画の王子の様な空気を発しながら、

ゴーレム族もゲートへの移動を始めた。




獣人アニメンシュ族、

本日勤務の者は全員ります。」


右隣の列の前方から、そんな声が聞こえてくる。


「うむ。」


台に立っていた獣人アニメンシュ代表、

アテリオン様が手にしたバインダーの書類に記入しつつ、

それにこたえた。


「それでは、本日のミーティングを始める。」


そう言うと、彼が書類をめくるのに合わせ、

並んでいた獣人アニメンシュ達も手元の書類に視線を落とす。


獣人アニメンシュ族部門の長、

アテリオン様は巨躯きょくのミノタウロスだ。


しかしその服装は、

銀のフレームのスクエア型メガネに、

ビシッとしたしわ1つ無いスーツとネクタイという、

完全なビジネスマン仕様。


性格の方も、

真面目で義を重んじる性格をなさっている。

(その誠実さから、

ゴーディス様ファンとは別なタイプの女性ファンがいるが、

本人は天然で初心うぶらしく、気が付いてないらしい。)


「・・ミーティングは以上だが、何か質問は?」


彼の問い掛けに、何名かが手を上げた。


「では、左端から順番に言ってくれ。」


「はい。・・まず、この・・。」


「ああ、それは・・。」


彼等の朝礼はこの様に、

会社の会議の様に行われる為、

大体はゲートへの移動は1番最後になる。




それでは、

我らドラゴン族の朝礼の様子はというと。


「ドラゴン族、行くぞ~。」


これで終わり。


随分ずいぶんあっさりしていると思われるだろうが、

本当にこの後はゲートへの移動だ。


まあ、毎回長がいないので、

仕方ないのだが。

(ドラゴン族の長は放浪癖があり、

大体の事は全てランクSの方々に任せてしまっている。

・・ランクSの方々は、

毎日胃痛に悩まされているといううわさです。)




○     ○     ○     ○     ○




其々それぞれの種族専用のゲートの前に並ぶと、

本日派遣される場所が記憶された呪符カードキーと、

自分を倒した冒険者におとす用の金貨やアイテム、

そして、帰還用のゲートが配布される。


この帰還用ゲートは任意でも使用できるが、

それとは別に自動発動もできる。


自動発動の条件は、

「気を失う」か「残り体力が低くなった時」の2つだ。


この自動発動が行われた際の帰還先は、

「モストリア総合病院」になっている。

(帰還と同時に治療され、1時間も経てば元気になれる。)


帰還時に一瞬で消えるその様子から、

人間の冒険者達は「魔物は倒せば消滅する。」という

勘違いをしているそうだ。


そうこうしている内に、

私の番がやって来る。


「これが、今日のリョーカの呪符カードキーと、金貨とアイテムだ。」


「はい。」


Sランクの先輩から本日の分を受け取ると、

私は呪符カードキーゲート認証用魔具じどうかいさつかざす。


すると、ゲートが光り出し・・その上の空間がゆらゆらと、

陽炎かげろうの様に揺らめきだした。


「では、本日も仕事にはげむように。」


「はい。」


先輩の声に見送られ、

私は揺らめく空間へと勢いよく飛び込む。

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